二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

鵞鳥のヘンゼルと魔女のグレーテル

INDEX|5ページ/13ページ|

次のページ前のページ
 


(でも、今日こそは――!)
「あの! 静雄さん・・・・・・ 」
 今日こそは訊いてみようと意気込んだ帝人が、静雄の名前を呼ぶ。
 しかし、静雄はそれを遮るかのように口を開いた。
「悪ぃな、これからまた仕事があるんだ」
 そう言うと、静雄はクルリと背を向けて足早に元来た道を戻り始めた。
「あ・・・・・・」
 帝人は引き留めようとしたが言葉が出てこず、結局そのまま見送る。――――これも、いつものことになってしまった。
 静雄の姿が完全に人混みの中に消えてから帝人は今まで飲み込んでいた重たい憂鬱の塊をゆっくり吐き出しながら、持たされたコンビニ袋を開いてみた。中には、シュークリームやエクレア、プリンやロールケーキにチーズケーキなどのコンビニスイーツと、いくつかの菓子パンやチョコレート菓子が入っている。
(あー、今日も甘そうなのが一杯・・・・・・)
 胸焼けしそうなくらい甘そうなお菓子の山。しかしそれを見た帝人は、反対に苦いものがこみ上げてくるのを感じた。
 別段、帝人は甘いものが嫌いなわけではない。人並み程度に好んで食べる。しかし、ほぼ毎日これだけの量を一気に食べてしまいたいと思えるほど、大好きなわけでもなかった。
 帝人は袋を閉じると、そのまま右手で提げ、受け取ったばかりのお菓子について考えた。
(こんなに沢山・・・・・・。本当にどうしよう)
 もっとも、導きだされる答えなど決まっている。食べるのだ、帝人が、一人で。
「こんなこと、いつまで続くんだろう・・・・・・」
 静雄に「竜ヶ峰は小っせぇからデカくなれ」と言われて以来、なぜか静雄からお菓子を受け取るようになってしまった。
 例えばこれが、小さいと言って悪かった、という謝罪を込めたものであるのならまだ良かった。今よりは幾らか気楽に受け取ったかもしれない(もちろん、こうも頻繁になれば今のように困惑するが)。
 帝人は、静雄に憧れている。
 常人よりも遥かに優れた男らしい体躯に、非日常を体言する圧倒的なまでの力と迫力。初めて見た時の少しだけ怖さの混じったドキドキは、けれどすぐに羨望と憧憬に変わった。
 そんな憧れの対象である静雄から「小っせぇな」と暴言をくらったのだから、ダメージ大だ。しかも、体格ならまだしも、最初に指摘されたのは心臓の小ささだ。体だけでなく心も小さいという意味なのか? 意味は図りかねたものの、ともかく自分の矮小さを指摘された帝人の思春期男子にありがちな繊細でやわらかなハートは酷く傷ついた。そりゃもう、深刻に。
 だがしかし、静雄はお詫びの品にお菓子を渡してきたのではなかった。
 静雄いわく、「沢山食って、デカくなれよ」だそうだ。成長促進の応援にお菓子。どう考えても、横に伸ばす応援としか思えない。嫌がらせだろうか、と疑いたくなるというものだ。
 しかし、静雄からは悪意も嫌味も揶揄も全く感じられなかった。どうやら、本気で帝人に大きくなってもらいたいがためのお菓子らしい。
 ほぼ毎日のように送られるお菓子。それはコンビニのデザートや菓子類だったり洋菓子店のテイクアウト商品だ。一つ一つの額がそう張るものではなくても、それが毎日続けば相当な金額になっているはず。
 帝人を大きくするためにとはいえ、そんなにされては申し訳なく心苦しいと思うのは自然なことだろう。
 なので、やんわりお断りをしてみたものの、静雄は「お前が早くデカくなれば良い話だ」とにべもない。一度本気できっぱりと拒んだこともあるが、酷く悲しそうな顔をされて余計に心苦しくなってしまった。お返しがしたいと申し出れば、「ガキが余計な気を使ってんじゃねぇよ」と叱られ、せめて半分こしましょうと持ちかければ、「それじゃ意味がねぇだろ」と歯牙にもかけられず。取り付く島が全くなかった。
 じゃあ適当に受け取るだけ受け取って、後は食べなければいいとも思うのだが、食べ物を粗末にするのも気が引ける。それに何より、理由はともかく、静雄が帝人に食べてもらいたがっているのがひしひしと伝わってくるから、その気持ちを無碍にしたくはない。結局、帝人が食べる以外に手立てはなかった。
 とはいえ、本当ならいくらでも手立てはあるのだ。杏里や青葉たちに譲ったり分けたりするのも手の一つだろう。
 しかし、帝人にはその気は起こらなかった。――――だって、そのお菓子たちは全て、静雄が帝人のために買ってくれたものなのだから。
(・・・・・・なんで、静雄さんは僕にいつもお菓子をくれるんだろう。いや、小さいから大きくなれって気持ちでくれてるのは分かってるんだけど)
 では、なぜ帝人を大きくさせたがるのだろうか。