Maria.
終.
「花喃」
買い物帰りの道で、つないでいた手を突然振りほどいて走り出した花喃に、悟能はちょっと驚いたように声をかけた。道を少しそれた所にしゃがみ込んだ花喃を上から覗き込むと、彼女は何やらじっと見ているようだった。
「花喃?」
「たんぽぽ」
顔を上へ向け、花喃は嬉しそうに言った。
「ほんとだ、もう冬になるっていうのに珍しいね」
「昔ね、これをくれた男の子がいたの。ちょうどお母さんが亡くなった頃で…そしたらね、私には似合わないって。もっと、優しい色がいいって…そういえばあの子、何ていう名前だったかしら?」
また花に見入ってしまう花喃の手を、悟能は握って強引に歩き出した。手を引かれながら花喃は声になりそうな笑いを懸命にこらえている。
「どうしたの悟能。あ、わかった、妬いてるんでしょお」
「……」
くるりと踊るようにして、花喃はむきになって前を歩く悟能を逆に引っ張るように体を入れかえると、悪戯っぽく笑って見せる。彼女の思った通り、悟能はふくれ顔で眉間に皺を寄せていて、目を合わせないようにしている。
「悟能。今度、二人であの子に会いに行きましょうよ。私約束したの。弟が見つかったら、きっと紹介するって」
「…同じ所にいるとは限らないよ」
「大丈夫。私ね、会いたいって思った人には絶対会えるのよ…きっと二人とも、いいお友達になれるわ。私にはわかるんだから」
了.