不思議の国の亡霊
「そうだよ……実行すればいいんだよ!」
「は?」
アルフレッドは大声で叫んで、自分の携帯を取り出す。そしてスケジュール機能を呼びだし、今月と来月の予定を確認した。それをテーブルを挟んだ向かいに座っているフランシスが不思議そうに眺めながら問いかけてくる。
「おいおい、どうしたんだよ」
「行けばいいんだよ、それに気がついたんだ」
「行く? どこへ?」
「イギリスだよっ」
「はあ? おまえ、マジで言ってんのかよ」
「あたりまえじゃないか! イギリスがキーワードっていうのなら、そこに行けばいいんだよ。ずっと原因もわからずまごまごしてるんなら、可能性のあることを全部試してみたらいいのさ!」
アルフレッドは明朗快活に言いきって、スケジュールの確認を済ませる。夏休み中のバイトの予定がまだ決まっていないので、旅行に行くのは難しいことではなさそうだ。問題はアーサーだが、お願いすれば何日かの予定くらい空けてくれるだろう。
問題は旅費か。飛行機にも乗るので、貯金を崩してもすこし苦しいかもしれない。父に話してすこし融通してもらおう。アーサーはあの性格なので、きっと旅費には困らないくらい貯金しているはずだ。
「そうと決まれば、さっそくアーサーに言わなくちゃ!」
「あ、おい!」
「というわけで、オレは行くねフランシス! バイ!」
アルフレッド、と名前を呼ばれた気がしたが、アルフレッドは気にせず店の外へ出た。
空気はすでに夏のにおいをまとっている。イギリスの夏は暑いのだろうか。星がひとつもない夜空を見上げながら、アルフレッドは胸を弾ませた。