二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

不思議の国の亡霊

INDEX|8ページ/11ページ|

次のページ前のページ
 

5.2011/04/12更新




 八月初旬、アルフレッドとアーサーはイギリスの土を踏んでいた。
 アルフレッドがイギリスへの旅行に行きたい、それもアーサーとふたりでと話した時は父も母も当のアーサー自身もひどく驚いていたけれど、父と母はすぐにその真意に気がついたようで、快く賛成してくれた。
 軍資金と言って父と母にすこし融通してもらい、旅行の段取りはテンポよく決まった。一番あれこれと用意してくれたのはアーサーで、旅行の話をもちかけたときは不機嫌そうな顔をして頷いたくせに、実際はだれよりも一番楽しみにしていたらしい。
 そんなわけで夏休みに入るとすぐに渡英したアルフレッドとアーサーはこの国に三日間滞在することになる。
 イギリスとは言ってもこの島は四つの国に分かれているらしいと、旅行が決まったときアーサーに教えられた。そして、主にどこに行きたいのかと問いかけられた。
 アルフレッドにとってイギリスと言えばかろうじて知識としてあるのが、首都がロンドンだということだけだ。なのでロンドンと答えれば、アーサーは満足そうにうなずいて「三日しかないし、博物館とか回ること考えたらロンドンが妥当だよな、やっぱり」と納得していた。
 飛行機に乗っている時間を省いてたった三日。あちこち行けるわけでもなさそうで、ほぼ全日程を通してロンドンを観光することになった。アーサーはそれでもひどく嬉しそうで、あちこちを眺めては瞳を輝かせている。
 イギリスについて今日で二日目。一日目はロンドンの有名な場所をすこし見てホテルに行ったし、明日はホテルをチェックアウトしたら空港に行かなくてはならないので、本格的に観光ができるのは今日だけだ。
 アーサーはあちこち行きたいところがあるらしく、瞳をきらきらさせて町を眺めている。
「楽しいかい?」
 アルフレッドが訊くと、アーサーは表情を輝かせたまま頷いた。
「楽しいし、懐かしなと思って」
「懐かしい?」
「ああ、こうしてちゃんとイギリスを見てなかったからな、しばらく」
 アーサーはこうしてイギリスに来るのは初めてのはずだ。それはフランシスにも聞いたし、アーサーの母親にも確認した。
 なのに彼はイギリスの風景を懐かしいと言う。この国に来たこともないだろうとか、テレビで観たのなら懐かしいなんて言葉はおかしいよとか、そんなふうに言うのは簡単だ。けれど頭ごなしに否定したり、間違っていると怒るだけじゃ意味がない。アーサーが自分で、自分自身の思考がおかしいことを理解しないと治療にならないのだ。
 だからアルフレッドはあいまいな返事をして、できるだけ優しく笑っておくことにする。なにも知らないアーサーがそれに微笑み返してくれるのが、なんだかすこし胸に痛かった。
「それで、キミの考えた観光プランってやつを教えてくれよ」
「ああ! えーとな……」
 バッキンガム宮殿、グリーンパーク、ロンドンアイ、ウェストミンスター寺院、タワーブリッジに国会議事堂。観光ガイドに載っている主要な場所をアーサーは次々とあげていく。
「行きたいところがたくさんあるのは良いけど、一日って無限じゃないんだぞ」
 呆れて言うと、アーサーは頬を真っ赤にしてぷうと頬を膨らませる。
「しかたねえだろ。行きたい場所が多いんだから」
「まあ、全部行けるかはわからないけど、とにかく観光しよう。時間がもったいないぞ」
「あ、ああ。そうだな」
 よほど嬉しいのかいつもより足取りの軽いアーサーの隣をアルフレッドは付き従うように歩く。
 そのときふと、背後から視線を感じた気がしてアルフレッドは立ち止まった。振り返り、視線を泳がせてみるが当然のように異国のこの地でアルフレッドのことを見ている人物などいない。
 ちりり、と首筋に不思議な違和感が走った気がして、思わずそこにてのひらをあてる。
「気の……せいかな」
 ちいさく呟くアルフレッドの背後で、アーサーが「なにしてるんだ?」と声をかけてきた。それになんでもないと答えて、アルフレッドは前へ向き直る。
 目の前に広がるのはイギリスという国だ。アルフレッドの育ったアメリカという国よりも緑が多く、空気もしっとりしている気がする。
 見たこともない、異国の土地。なのになぜか、既視感を感じた気がした。
 これじゃあアーサーのことをおかしいとは言えないな。自嘲気味に笑って、足取り軽やか先を歩くアーサーの隣に小走りに並んだのだった。


作品名:不思議の国の亡霊 作家名:ことは