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やさしい気持ち

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足元ゆれた


ホームに着いた電車はぎゅうぎゅう詰めで、ドアが開いてもなかなか車両へ入れない。
あぶれてしまって隣のドアから入る。阿部と田島、二人だけ。
車内は混んでいて吊り革に掴まることもできないけれど、人の間には僅かに隙間があった。
電車が激しく揺れる。減速、停止、出発、加速のたびに。
疲れ切った体をゆらゆらしながら、二人だけで大人たちの隙間に埋まっていた。向かい合って。

大きなカーブに差し掛かる。足元は泥沼に突っ込んだような重さ、踏ん張ることができない。下に置いたエナメルバッグに足をとられ、田島はバランスを崩す。あと少しで本当に倒れかかるというとき、阿部が強く引いた。
「ここ掴んどけ」
言うと、田島は緩く笑った。手を伸ばす、阿部の心臓に近い場所へ。

それから、さっきから気になっていたことを尋ねた。
「ここどこ」
「さあ」
「あと何駅」
「俺が知るかよ」
くたびれた背広に囲まれて、自然、声のトーンが下がる。
顔を上げてもよく見通せなかった。
田島は阿部のバッグの端をぎゅうと握る。

「どこで降りるんだっけ」
バチリ、目が合って、心臓が跳ねたみたいだった。
返ってきたのはいかにも悩ましげな溜息一つ。
減速、停止、ドアが開く音。ますます奥へ押し込まれる。
二人同じ不安を抱え、同じだけの疲労に覆われ、同じリズムで揺られるほかなかった。

作品名:やさしい気持ち 作家名:kyoa