Last Memory
『神楽ッ！』
今でも目を閉じると思い出す、兄の優しさに触れていた最後の日々を..
『そろそろ帰ろうか？』
『うん！』
まだ自分の傘を持てない神楽は、神威の傘の中に入り、手をつないだ。
『久しぶりにパピーが帰って来るアルね！』
『...そうだね。神楽はずっと楽しみにしてたからねぇ。』
神楽は、優しく微笑む神威を見上げ嬉しそうに笑った。
たわない会話をしていた神楽は、ふと思い出したように神威の顔を見上げた。
『お兄ちゃん！』
『ん...？何？』
『お兄ちゃんは大きくなったら何になりたいアルか？』
その質問に一瞬、神威の表情が暗くなったが、すぐにニッコリと笑い答えた。
『強くなること。何よりも誰よりも....ね』
『お兄ちゃんは、絶対に優しくて、カッコ良くて、強い人になれるアルよ！！私はネ...』
少し言葉をためて、神楽はあふれんばかりの笑顔で言った。
『お兄ちゃんのお嫁さんになることアル！』
『そっか..。じゃあ神楽も強くなるんだよ？』
『うんッ！！』
「神楽ッ！」
「ぇ...？」
急に名前を呼ばれ、驚いて目を開けた神楽の前には、沖田が立っていた。
「そんなところで何やってんでィ。」
少し呆れたように尋ねる沖田にムッとしながら神楽は答えた。
「お前には関係無いネ。お、お前こそ此処に何の用アルか！？」
「別に。てめぇが、そんな所で目ぇつぶってたから脅かしてやろうと思っただけでィ。」
そう言って、沖田は何かを無造作に投げつけた。
「うわッ！？何するッ...ぇ？ハンカチと酢昆布..？」
「何で泣いてんのか知らねぇけど、それで顔拭いて、のんきに酢昆布でも食っろィ！」
そんな捨て台詞を吐いて沖田は、人ごみに紛れていった。
そして、何か温かいものが頬を伝っていたことに気づいた。
「ったくキザな野郎ﾈ。こんな酸っぱい酢昆布貰っても嬉しくないアルょ...もっと強くならないと駄目アルな..」
そう呟きながら、酢昆布を口に入れた。
作品名：Last Memory 作家名：鈴音