THW小説③ ~Twilight Zone~
「で?兄貴は,何をしに,あんなとこに居たの?」
そうだ。
あんなとこ・・・千葉国境に居た理由。
「やる気スイッチ,見つかるまで,待っててね♪」
と,ザビが攻特隊を抜けて。
数日で戻ってきた時から,事は始まっていた。
「ふっかーーーーつ!」という言葉とは裏腹に,覇気がないザビ。
これは何かあるぞ・・・と思っていたら,案の定。
「さよなら」
と,たった一言,書かれた紙を部屋に残して。
ザビは,またもや消えた。
予想通り,半狂乱になる副隊長。
混乱する攻特隊。
そして,千葉に亡命するらしいという情報。
全てをひっくるめて考えて,単独行動が最適解だと判断した俺は,
亡命するザビを引き留めに,千葉の国境に向かったのだった。
結果,千葉軍に囲まれて,ボコボコにされた挙句,
ザビ本人に助けられ,
しかも,覚えていなかったがために,まんまとザビは亡命してしまったのだが。
「なに?俺の嫁を引き留めに行ってたの?」
ポツポツと事の顛末を話していると,ふいに魚屋が割り込む。
「ヨメ??」
「そ,嫁。ザビーネって,俺の嫁なんだよね〜♪」
「・・・なんと。」
ここにも,ザビを狙う奇特なヤツが居たか。
いや,流石,兄弟というべきか。
とんでもないライバル出現だ。
「俺もさぁ,嫁と復縁しようと,千葉国境まで行ったんだけど,間に合わなかったなぁ。ま,おかげで兄貴を拾えたから良かったけどねん♪」
「・・・ああ,感謝してる・・・」
「なになに?兄弟でザビ隊長ラヴなの?いいじゃな〜い♪まさに血で血を争うってやつ?萌えちゃう♪」
色香を放ちまくるお姉様,めいみさんが,会話を聞きつけてくる。
「隊長は,今はフリーなのよ,チャンスよ,チャンス!」
俺の頬をツンツンしながら,めいみさんは,俺へと顔を寄せる。
唇がもう少しで触れ合う距離。
誰にも聞こえないような,小さい声で囁く。
「奪っちゃいなさいよ,碧風くん。兄弟だからって,遠慮は無用よ?こないだも,い・い・と・こまで行ったし,ね?」
ちゅっ,と俺の頬にキスを落として,鼻歌交じりに,めいみさんは去って行った・・・
カッと俺の顔に血が上り,真っ赤になるのがわかった。
それは,キスのせいか,「こないだの事」を知られていたせいか・・・
「やだやだ!碧風さん,ふけつぅ!!」
めいみさんとのやりとりを見ていた亜雁ちゃんが,いやいやいやっとショートの金髪をブンブン振る。
「いや,亜雁ちゃん,これは違・・・」
「私!!碧風さんと隊長さんのこと,応援してますからっ!!!」
・・・そう言い残して,亜雁ちゃんも,ダッシュで部屋を飛び出して行ってしまった。
ドタバタが去り,残されたのは,俺と副隊長,ジンさん,魚屋。
静けさが部屋に戻る。
「・・・で?」
最初に口を開いたのは,副隊長だ。
「ザビーネ隊長は,本当に千葉に亡命したのですね?」
確認するように,俺に問う。
「・・・はい。はっきりと,この目で見ました。『ジークハルト』と名を変えて,国境の門の向こうへ,行ってしまいました。」
事実だ。
事実は,伝えなくてはならない。
それが,どんなに辛かろうが。
「・・・そうですか。」
ふーっと息をつき,天井を仰ぐ副隊長。
重い空気が部屋を包む。
今後,攻特隊は,どうなってしまうのだろう?
言い表せない,不安。
それぞれに,思うところがある。
だが,誰もが口を開かない。
現実を,受け止めるのが怖くて―――――――
夜のとばりが,また今日も訪れようとしている。
―――――――冷たい夕闇が,俺達の人影を,ゆっくりと浸食していった。
・・・それから,5日後に,ザビが埼玉に帰ってくるのは,また別の話。
2011.02.05
(PCIN 2011.02.06)
作品名:THW小説③ ~Twilight Zone~ 作家名:碧風 -aoka-