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THW小説③ ~Twilight Zone~

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ここが,どこだかは解らない。
解らないが,暗闇に光るライトを頼って歩いた結果,千葉の国境と思われる場所に行きついた。
デカい門の前に,千葉の警備兵がズラリと並んでいる。
気配を消して,スッと物陰に隠れる。
目を凝らしてよく見ると,門の前で,何やら人が集まっていた。

「パスポート,確認。」
「ジークハルト,入国を許可する。」

聞き覚えのある名前。
あいつだ。

「ど〜も♪」
ジークハルトは,パスポートをひらひらさせている。
ギギッ・・・と,門がゆっくりと,わずかに開いた。
あいつは,口笛なんか吹きながら,ポケットに両手をつっこんだまま,門を通り抜けようとする。
だが,門の中ほどで,ピタッと立ち止まった。
わずかに,こちらへ振り向く。
そして,つぶやいた。
声は,聞こえなかったが,唇の動きで,何を言ったのか,わかった。

「じゃーな,埼玉」

その瞬間。
すさまじいフラッシュバックが,脳内を襲う。

だめだ・・・!!
あいつを,千葉に行かせては・・・!!

「ザ・・・!!」
まだ混乱している脳内をそのままに,身体が先に行動を起こしていた。
物陰から飛び出し,右腕を真っ直ぐ,ザビへと向ける。
俺の前に,何十人もの警備兵が立ちふさがる。
その向こうに,驚いたような,ザビの顔。

ズダァン!!

ザビへと真っ直ぐに伸ばされた右腕は,
見事に警備兵によって,打ち抜かれた。

「ぐうっ・・・!!」
右腕を抑えて,地面を転がり,銃弾を避ける。
その奥で,ゆっくりと,門は閉じた。
ザビを,向こう側に残して。
「ザビッ・・・!!」

「とどめだ。」
冷徹な警備兵が,俺の頭に銃口を向ける。
もう,痛みで,意識も朦朧としてきた。

ここまでか・・・
欲しいものが,向こうにあるのに・・・!!
やっと,見つけたのに・・・!!

「兄貴っ!!!」
いきなり,デカイ怒鳴り声が聞こえた。
と思ったら,周りの警備兵達が,一瞬にして,文字通り凍りつく。
「ちょ,兄貴,平気?血ぃドバドバ出てるしっ・・・!」
突然現れた青髪の男は,そう言って,俺を担ぎ上げる。
・・・誰だ,コイツ?
ああ,また,思い出せない・・・
「待ってな!今すぐ帰るから・・・!それまで死ぬなよ!?」
もう,コイツが誰であろうが,抵抗する力も残っていない。
俺は,成すがままに身を任せ,男の肩の上で揺られながら,意識を手放した。


****************************************


・・・やけに,静かだ。
今度は,どこなんだろう。
ヒヤリと,額に冷たさを感じて,目をうっすらと開ける。
「・・・気が付きましたか?碧風さん。」
俺の額の上に,冷たいタオルを乗せながら,ニッコリと微笑む,光闇の青年。
「大丈夫。ここは本部です。すごいケガでしたよ,碧風さん。また,無茶したんでしょ?」
全身を見ると,今度は丁寧に包帯が巻かれてある。
・・・でも,ここ,どこだ?
不思議と,身体は空気を覚えているようで,警戒心は作動しない。
ぼんやりと,光闇の青年を眺めていると,
ドタドタバタン!!
と,ものすごい足音とともに,息せき切って男が現れた。
「あ・お・か・さんっ!!!」
いきなり男が近づき,俺は両肩をつかまれる。
「また貴方はっ!!単独でどこまで行ってたんですかっ!?」
グワングワンと揺さぶられながら,すごい剣幕でまくしたてられる。
あー・・・そういえば,こんなこと,前にあったような・・・
「ちょっと碧風さん!聞いてるんですかっ!?」
「ふ,副隊長,それぐらいに・・・相手はケガ人ですよ〜?」
光闇の青年は,困ったように(でも楽しそうに)仲裁に入ろうとする。
しかし,二人とも,俺が一言も発しない事に,流石に違和感を感じたようだ。
「・・・碧風さん?どうしました?」
「副隊長」らしき男が,ピタッと揺さぶる手を止めて,俺を覗き込む。
「とうとう,狂っちゃいましたか?」
失礼な事を言う。
だが,当たらずとも遠からずだ。
「・・・ああ。そうかもな。・・・お前ら,誰だ?」
「〜〜〜!!またですかっ!貴方はっ!!」
・・・?また,とは・・・前にもあったのか。
「全く,世話の焼けるお人ですねっ!」
グイっと,今度は,胸ぐらをつかまれる。
「ちょっと,副隊長,何するつもりですか!?」
流石の光闇の青年も,慌てているようだ。
「・・・強い刺激を与えるんですよ。こういう風に!」
副隊長は鬼の形相だ。
怖い。
怖くて,何もできない。
その言葉と共に,

パパパパパパパパパパン!!!

小刻み良い音。
俺は,往復ビンタの応酬を喰らっていた。

あ・・・この場面・・・・ ウ○ビッチで見たことあるな・・・

往復ビンタを喰らいながら,ウサ○ッチの「チャララ ラララ ラララ ララララ ラララララ」というクラシック音楽が頭をよぎった時。

「はっ!!」

信じられないが,俺は,全てを思い出した。

「副隊長,痛いっす。ジンさん,真剣に止めてよ・・・」
両頬をさすりながら,俺は思わずつぶやく。
「あ,碧風さん・・・!」
「ほら,思い出したでしょう?」
得意気な副隊長。
「ほんとに,あれで,思い出すなんてっ・・・!!」
ジンさんは,笑いをこらえるのに必死なようで,ヒクヒクと身体を痙攣させている。

全ては,はっきりと思い出した。
だが,ひとつだけ,思い出せないことがある。
「ねぇ,ジンさん」
「何ですか?」
「俺をここに運んできたの,誰?」
「魚屋さんですか?」
「・・・魚屋?知らない名前だな。なんか,俺のこと,『兄貴』とか何とか・・・」
「あぁ・・・それなら・・・」
と,ジンさんが説明を始めようとした時。
「兄貴―――――――!起きたか――――――!!」
大音量と共に,ドカドカと数名が部屋に入ってきた。
「ほら,噂をすれば,ですよ。」
ニッコリと,ジンさんが,その男を指す。
・・・顔を見ても,やっぱり思い出せない。
「え?兄貴?俺のこと,忘れちゃったの?背中を預けあった仲なのにっ!」
泣きそうな顔で,そんな事を言う。
「・・・すまん。全く覚えがないんだが・・・」
「あぁ!ひどい!まぁ,仕方ないよね,俺,名乗ってないし!」

え―――――――――――――!!!

「なんだよ,そりゃ!!」
「改めて,初めまして,兄貴。俺,『魚屋』っていうの。兄貴とは,腹違いなんだよ。探したよ〜ほんとに!」
「そんな話,聞いてないぞ!」
「ああ,そっちのお袋さんは知らなかったと思うよ〜,仕方ないよ」
・・まぁ,お袋や親父の記憶も,曖昧なままだし・・・
そう言われたら,そう信じるしかないのかもしれない。
「よろしくね!兄貴♪」
助けてもらった縁もある。
「弟ができた」というのは,少なからず,嬉しかった。
身内と呼べるものが,このご時世,とても大切な絆のように思う。