手合わせ
刹那・F・セイエイが『普通』ではないのだと思ったのは、何となく感じた違和感からだった。
それは古武術の師範代を名乗るスガタだからこそ、気づけたのかもしれない。
タクトに剣術の指南をしてほしいと頼まれた、それは切っ掛けだった。
その場にシンと刹那も居たから、彼らも誘うのは自然なことで。
結果としてシンドウ家の道場には、タクトとワコ、そしてシンと刹那が居た。
もちろん、世話役としてジャガーとタイガーも居る。
スガタは古武術だけでなく、剣道でも有段者だ。
タクトも二刀流などと、普通では扱い得ない流儀を手にしている。
しかし独学の多いタクトの剣術は、隙が多い。
1回、2回、3回。
ついにタクトが音を上げた。
「あああ、だめだー! スガタ、全っ然隙がねえよ…」
おまけに息も上がっていない。
思わず苦笑が出た。
「伊達に師範代じゃないからな」
「ですよね…」
がっくりと項垂れたタクトに、シンが嬉しそうに笑う。
「タクト、凄く強くなったんだな」
オレが知ってるタクトより、ずっと強いよ。
彼の言葉に、ふと疑問が湧く。
タクトは、昔から剣術をやっていたのだろうか?
同じく気になったのか、タイガーがシンへ問い掛ける。
「お2人は、武術などされているのですか?」
「…うん、まあ」
シンは頷いたが、返答は曖昧だ。
スガタは彼の隣で沈黙を貫く刹那へ、単刀直入に意見を述べた。
「アスカ君は分からないけど、君は相当に強そうだな。セイエイ君」
表情は変わらなかったが、赤褐色の眼が軽く見開かれる。
(図星か…)
そしてタクトが何かしらの理由に思い当たり、困惑する様子を見せた。
誰もに目的があるように、シンと刹那もただの転校生ではない。
けれど、理由は彼らにしか分からない。
タクト自身もまだ、聞けていない。
(凄いな、スガタは…)
武術を極めている彼だからこそ、他者のそれを見抜けるのだろう。
だが今回は、勧められない。
口を開こうとしたが、スガタの方が早かった。
「鍛錬するにしても、同じ相手ばかりじゃ鈍(なま)ってしまうと思うけど」
刹那の目は、如実に『止めておけ』と語っていた。
彼は言葉でも表情でもなく、目に感情が現れるのだとスガタは気づく。
携帯電話で何かを確認してたシンが、不意に声を上げた。
「タクト。この人たちは、本当に"大丈夫"なのか?」
一度全員を見回してから吐かれた言葉は、真実『秤』だった。
それはタクトとてよく分かる。
だからこそ、彼は迷いなく頷いた。
「ああ。大丈夫だ」
溜め息のように、刹那が言葉を零す。
「…さすがに、タクトは疑えない」
それは信頼の深さなのだろう。
数年ぶりに再会したという事実も、無意味になるくらいに。
刹那の強い視線が、スガタへと向けられた。
「条件がある」
「条件?」
「そうだ。得物を使うなら、防具を身につけろ。それが無理なら素手でやる」
それから、と彼の目はジャガーとタイガーを捉える。
「あんたたちは、危ないと思ったらすぐに止めに入れ」
「え?」
まさかそのようなことを告げられるとは思わず、彼女らは揃って返答を逃した。
どういう意味なのだろう?
―――それに気がついたのは、忠告虚しく終わった後だった。
それは古武術の師範代を名乗るスガタだからこそ、気づけたのかもしれない。
タクトに剣術の指南をしてほしいと頼まれた、それは切っ掛けだった。
その場にシンと刹那も居たから、彼らも誘うのは自然なことで。
結果としてシンドウ家の道場には、タクトとワコ、そしてシンと刹那が居た。
もちろん、世話役としてジャガーとタイガーも居る。
スガタは古武術だけでなく、剣道でも有段者だ。
タクトも二刀流などと、普通では扱い得ない流儀を手にしている。
しかし独学の多いタクトの剣術は、隙が多い。
1回、2回、3回。
ついにタクトが音を上げた。
「あああ、だめだー! スガタ、全っ然隙がねえよ…」
おまけに息も上がっていない。
思わず苦笑が出た。
「伊達に師範代じゃないからな」
「ですよね…」
がっくりと項垂れたタクトに、シンが嬉しそうに笑う。
「タクト、凄く強くなったんだな」
オレが知ってるタクトより、ずっと強いよ。
彼の言葉に、ふと疑問が湧く。
タクトは、昔から剣術をやっていたのだろうか?
同じく気になったのか、タイガーがシンへ問い掛ける。
「お2人は、武術などされているのですか?」
「…うん、まあ」
シンは頷いたが、返答は曖昧だ。
スガタは彼の隣で沈黙を貫く刹那へ、単刀直入に意見を述べた。
「アスカ君は分からないけど、君は相当に強そうだな。セイエイ君」
表情は変わらなかったが、赤褐色の眼が軽く見開かれる。
(図星か…)
そしてタクトが何かしらの理由に思い当たり、困惑する様子を見せた。
誰もに目的があるように、シンと刹那もただの転校生ではない。
けれど、理由は彼らにしか分からない。
タクト自身もまだ、聞けていない。
(凄いな、スガタは…)
武術を極めている彼だからこそ、他者のそれを見抜けるのだろう。
だが今回は、勧められない。
口を開こうとしたが、スガタの方が早かった。
「鍛錬するにしても、同じ相手ばかりじゃ鈍(なま)ってしまうと思うけど」
刹那の目は、如実に『止めておけ』と語っていた。
彼は言葉でも表情でもなく、目に感情が現れるのだとスガタは気づく。
携帯電話で何かを確認してたシンが、不意に声を上げた。
「タクト。この人たちは、本当に"大丈夫"なのか?」
一度全員を見回してから吐かれた言葉は、真実『秤』だった。
それはタクトとてよく分かる。
だからこそ、彼は迷いなく頷いた。
「ああ。大丈夫だ」
溜め息のように、刹那が言葉を零す。
「…さすがに、タクトは疑えない」
それは信頼の深さなのだろう。
数年ぶりに再会したという事実も、無意味になるくらいに。
刹那の強い視線が、スガタへと向けられた。
「条件がある」
「条件?」
「そうだ。得物を使うなら、防具を身につけろ。それが無理なら素手でやる」
それから、と彼の目はジャガーとタイガーを捉える。
「あんたたちは、危ないと思ったらすぐに止めに入れ」
「え?」
まさかそのようなことを告げられるとは思わず、彼女らは揃って返答を逃した。
どういう意味なのだろう?
―――それに気がついたのは、忠告虚しく終わった後だった。