手合わせ
道場の中央で、スガタと刹那が向かい合う。
「!」
2人が目を合わせた瞬間に張り詰めた空気は、はっきり言って『異常』だった。
(これ…不味く、ないか?)
タクトが危惧した瞬間、刹那の姿が消える。
(っ、速い!)
ガードに上げた腕が痺れた。
スガタの返した拳は空を切り、気配は既に背後。
今度は避けた。
しかし反撃も虚しく、躱されてしまう。
刹那の動きは、一切の型に嵌っていなかった。
隙があるように見えても、いなされる。
小柄であることも手伝って身が軽く、速い。
そして何よりも。
(! もしかして)
スガタが思考で余所見をしたことが、不味かった。
「っ!!」
「スガタ様っ?!」
左肩に走った電撃のような痛みと、ジャガーたちの叫びが重なる。
痛みの原因はすぐに解放され、スガタは内心でホッとした。
刹那がスガタから離れる。
「…確かに隙はない。だが先を読むことを止めれば、それは隙になる」
離れ際の言葉は、まったくその通りだ。
駆けて来ようとしたジャガーとタイガーを浮かべた笑みで押し止め、スガタは笑った。
「返す言葉も無いな。でも、ありがとう」
「? 何が?」
「俺の我が侭に付き合ってくれて」
率直に礼を告げたのだが、刹那はよく分かっていないらしい。
会話が途切れたそのとき、タクトが大きく息を吐いた。
「ちょっと、何で外野の僕らがこんな緊張しなきゃ駄目なんだよ…」
寿命が縮まりそうだ、と続いた台詞に、ワコが噴き出した。