ふたり兄弟【前編】
「まぁ、ええやん!大事ないし。それよりもこの剣ってもん探してみぃひん?」
熊が促せば、
「そうだぜ!ちょっと見てみようぜ」
と狼がケセセと笑いました。
「…ジャガイモ野郎。行かねぇのか?」
口の悪いウサギもルートヴィッヒにたずねます。
ルートヴィッヒは頷き、教会の裏へ向かいました。
そこには確かに一振りの剣がありました。
ルートヴィッヒが近寄り剣に触ると、剣はひとりでに抜け、ルートヴィッヒの手にしっくり収まります。
「これは…素晴らしい。」
ルートヴィッヒが呟けば、獣達もうんうんと頷きました。
そんな中、狼が言いました。
「なぁ、この国の美しく清らかなお姫様って奴は明日ここに来るんだろう?なら今日はここで休もうぜ。」
体力は万全に、だろ?
狼の意見は満場一致で受け入れられ、ルートヴィッヒと動物達は教会で一夜を明かしました。
次の日、麓から沢山の足音が聞こえました。
お姫さま一行が山に来たのです。
山の中腹で王様は悲しみにくれながら姫と別れました。
贄は竜の元へ一人で来なければならないのが掟でした。
王様はこっそり近くにいた近衛隊長に言いました。
「お前は姫の後ろからこっそり付いていき、最後まで見届けるんだ。」
近衛隊長は頷き、王様の指示通りに動きました。
姫が山の頂上についたとき、一人の猟師と出会いました。
「まぁ、このような場所でどうなさったのですか?これから私を食べに竜がやって来ます。ここにいては危ないですわ。」
それに対し、猟師は言いました。
「初めまして、お姫様。私の名前はルートヴィッヒと申します。大それながら、貴女とお国が不憫に感じ、竜を退治しようと思いました。」
貴女が来たことを竜も知っているでしょう。
竜は私に任せて、貴女はこの教会に隠れていてください。
姫は、尚更貴方が危ないとすがりましたが、結局ルートヴィッヒの押しに負けて隠れました。
だんだん風が強くなってきました。
「…そろそろみたいやね。」
熊が言いました。
空の向こうからどんどん竜が近付いてきます。
そうして、どおんと大きな地響きをたて竜は降り立ちました。
「貴様、誰だ。」
地を這うような恐ろしい声で聞く竜に、ルートヴィッヒはお前を退治しに来たと答えます。
竜はそれにひとしきり笑ったあと、言いました。
「数多くの人間がやって来たが、ことごとく殺してやったわ!貴様も同じ運命にしてやる!」
竜は口から沢山の炎を吐きました。
ルートヴィッヒはそれを避けつつ竜に近寄ります。
後ろで獣達はその炎を踏み消していきました。
竜の隙を見計らい、ルートヴィッヒが竜の首を一回で三本ぶった斬ると、がくりと力が抜ける感覚がしました。
ふむ。どうやらこの剣は一振りするだけで、体力を大幅に持っていくらしい。
長期戦は無理だと判断したルートヴィッヒは、畳み掛けるよう一気に残りの竜の首四本と尾を斬ると、後は獣達が次々に竜を襲って止めを刺しました。