一日一ミハエルチャレンジ
２／９ ヘスラー
ミハの今日のお題は『三日月』『支え』『通信』です。
http://shindanmaker.com/14509 #twnv_3ということで^^
ふうと吐く息が白い。
肌にあたる夜気は頬の体温を奪ってつるりと流れていく。
この、耳がきんと冷える感覚は嫌いではない。
しんとたゆたう冬の澄んだ外気に混ざりこむことができるようで、どこか清々しいからだ。
ゆっくりと歩みを進める自分を、
「寒くありませんか？」
気遣う声はすぐ背後から。
「うん、平気」
振り返らずに答えても、きっとまだ少し心配そうにしているだろう顔が思い浮かんだ。
（心配性だなあ）
多少過保護に過ぎると思わないこともないが、それも自分を思う故、と思えば悪い気はしない。
「そういうヘスラーは？ 寒くない？」
「大丈夫です」
「じゃあもう少し歩こう」
夜道の散歩に行こう、なんて言うのはもちろん自分が言いだしたことだ。
ちょっと散歩に行きたいと言えば、こんな時間にとシュミットが眉をひそめ、エーリッヒが困った顔になる。
二人ともが手を放せないらしく一人で出すわけにはという思案顔はまるでミハエルの保護者である。
そこへたまたまやってきたのがヘスラーで、
「散歩、行こう！」
ヘスラーと二人でならと、渋々許したシュミットとミハエルの顔を、はじめは訳がわからずにヘスラーがきょとんとする。
しかしもとより人のいいヘスラーがミハエルの頼みを断ろうはずもなく、こうして二人で夜道を歩いている訳だ。
「どうして突然散歩だなんて？」
歩きながらの質問に、ミハエルもまた、足を止めることなく答える。
「うん、月がね、」
「月？」
見上げた先で冴えざえと光るのは、細く丸い三日月。
高度をずいぶん落として西に傾いたそれは、木々の梢に支えられるようにして空に浮かんでいる。
「あんまりきれいでね。あそこまで行けたら、なんて言ったらブレットたちみたいになっちゃうけど」
将来像に宇宙を描いている彼らの心理も、もしかすると意外に単純な星への憧れからなっているのかもしれないとふと思う。
「ちょっとでも近くで見られたらなって思ったんだ」
「……じゃあ、もう少し歩きましょうか」
数分前のミハエルの言葉を今度はヘスラーが口に乗せて、笑った。
ミハエルの気が済むまでお付き合いしますとその顔には書かれていて、
「うん」
返事ひとつでまた、歩き出す。
空に揺れる月に向かって。
作品名：一日一ミハエルチャレンジ 作家名：ことかた