一日一ミハエルチャレンジ
2/3 アドルフ
ミハエルさんへ「夢中」「新月」「真実」で楽しいお話を書いてね。
http://shindanmaker.com/50113 ということで^^
一応、形ばかりとはいえコツコツと二回鳴らしたノックに反応がなく、仕方がないので(その実たいしてそんなことには頓着せずに)勢い良く扉を開けると、
「相変わらずアドルフは、ピアノに夢中だなあ」
鍵盤に向かう背中を見つけた。
「ミハエル」
やっと気付いたのか、アドルフが慌てたように振り返る。
「僕が入ってきたの、気付きもしないんだから」
腰に手を当てて怒ったふり。
「すみません」
途端に頭を下げる彼は、基本的にミハエルにはいつも忠実だ。
「いいよ。こっそり聞きに来たの、僕だし」
軽く手を振って笑顔に切り替えてそう言えば、すみません、ともう一度繰り返して、それからアドルフも小さく笑った。
もとより、アドルフとて本気でミハエルが怒っているとは思っていない。
冗談めかして尋ねてくる。
「何か、お詫びにリクエストでも?」
何でも弾きますよ、と鍵盤を指し示したのに、ミハエルはふふ、と笑う。
「実は始めからそのつもり」
時間が空くと、アドルフのピアノを聞きに来るのはままあることなのだ。
そうだなあ、と口元に指を立てて考える。
「月光、って言いたいところだけど、今日、新月だしなあ」
窓の外を見上げても、姿を隠した月はどこにも光を落とさない。
ただ、月明かりのない分、星はよく見える。
ちかちかと輝く光の粒に、ひとつ、曲名を思いついた。
「リクエスト、いい?」
「はい、なんなりと」
畏まってみせるアドルフに、にこり。
「星に願いを」
こんな星空の下でなら、どんな願い事でもかないそうだ。
2010.02.03
作品名:一日一ミハエルチャレンジ 作家名:ことかた