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小話詰め合わせその1(英米)

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1.喧嘩(英米/アメリカ視点)


「今日こそは我慢ならねえ!!そんな我儘ばっか言うなら別れてやる!!」
「勝手にすればいいじゃないか!!キミのような口煩い人と別れて清々するよ」

勢いに任せたいつもの喧嘩だった。
だけど、いつもと違ったのはイギリスが俺と別れるって啖呵を切ったこと。
今までイギリスはどんなにひどい喧嘩をしても別れるなんて言葉を
口にしたことはなかった。
イギリスは100人に聞いても100人が俺を甘やかしているというくらい
俺のことをずっと甘やかしていて、俺は冗談じゃない、子供じゃないんだぞという
態度を取りつつも、彼の伸ばす手を振り払うことなんてできなくて
なんだかんだ言いながらも俺たちはうまくやっていた。
そりゃあ喧嘩することもあったし、周りの国がびっくりするくらい
険悪な雰囲気になったこともある。
でも、そんなときだって別れるなんて話は出なかった。
だから彼の別れるって言葉は正真正銘初めて聞いたわけで、それでも俺は意地で
引くことなんてできなくて、とんでもない言葉を口にしてしまった。
その言葉を聞いたイギリスは皮肉っぽく笑って、ポケットから出した何かを
俺に投げ寄越した。
ベースボールで鍛えたキャッチングで危なげなく受け取ったのは鈍く光る指輪。
それが何かなんてわからないほどガキじゃない。
俺とイギリスが付き合い始めて一年経ったときに互いに交換した指輪だ。

「もうそれもいらねえだろ。別れるんだから」

感情の窺えない冷え切った声は独立後、初めてイギリスに声をかけた時と
同じ響きだった。
あのときもイギリスは俺のことをいらないと言った。
弟でも何でもない俺なんていらないって―――――
じわりと肺の奥から分厚い空気のようなものがこみ上げて来て
俺は慌てて下を向いた。
上を向いたらみっともなく泣きだしてしまいそうだった。
だって、イギリスが酷いから。
俺と別れるなんて言うから。

「なんか言えよ。アメリカ」

声を荒げて、肩を荒々しく掴まれて―――――ああ、もう駄目だ。
視界がじわりと滲むと共にぼたぼたと信じられないくらい大きな涙が
俺の瞳から流れ落ちた。

「お、おい!何、泣いているんだよ」

イギリスの動揺しきった声が聞こえたけど、それくらいじゃ俺の涙は止まらなかった。
だってキミが言ったんじゃないか。俺と別れるって。
なのに何で泣くんだって聞くんだい?
泣かせたのはキミなのに。
と言えればよかったけれど、泣きすぎてちゃんとした言葉をしゃべれなかった。
しん、とした空気が胸に痛い。
イギリスはまだ動揺している。
すん、と鼻を鳴らすとおろおろとしていたイギリスがハンカチを差し出してきた。
俺はその差し出されたハンカチでごしごしと目元を拭く。
ついでに鼻も噛んでやろうかと思ったけど、何だか子供っぽく感じたから
涙を拭くだけにした。

「ああもう!ごしごし拭くな!肌が赤くなるだろ」
「ほっといてくれよ!俺とキミはもう恋人じゃないんだから」

自分で言ったのに恋人じゃないというフレーズに大ダメージを受けて
また涙がぼろぼろと零れる。
もう別れるって言ったくせに世話を焼くのはこの人の習性みたいなものだけど
俺とイギリスは恋人だったわけで、こんな風に世話を焼かれたかったわけじゃない。
それでもイギリスは恋人であった期間もこういう風に俺の世話を焼いていた。
俺はそれは恋人としてなのだと思っていた。
なのに別れたての今も、変わらず世話を焼くってことはつまりはそういうことなんだろう。
彼は最初から俺を恋人とは、恋愛の対象だとは思っていなかったってことだ。
これが日本の貸してくれる恋愛シュミレーションだったら、もうバッドエンド
間違えなしだ。
そのことに気づいてしまった俺はそれこそ号泣といっていいほど涙を零していた。

「・・・・・・悪かったよアル。別れるなんて言わないから泣くな」

優しく涙を指先で拭われながら囁かれた言葉に俺は首を振った。
だって、こんなの酷いじゃないか。
最初から恋人じゃなかったなんて。