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小話詰め合わせその1(英米)

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「寂しい思いをさせてごめんな」
「ううん。平気だぞ。ごめんねアーティ。我儘を言って」
今にも泣きだしそうに涙を瞳に溜めたアルフレッドは震えた声で謝った。
そのあまりの健気さに胸が詰まる。
謝るのはこちらの方なのにアルフレッドは自分が悪いかのような言い方をする。
「いいんだ。もっと我儘を言え。お前はいい子すぎるよ」
「俺、ちっともいい子じゃないんだぞ。アーティをこんなに困らせているもん」
とうとう泣きだしてしまったアルフレッドの涙をアーサーは唇で拭った。
紳士の嗜みとしてハンカチも携帯していたが、今はそれよりもアルフレッドに
触れたいという思いの方が強かった。
何度か繰り返していると「くすぐったいよアーティ」と少し笑ったアルフレッドが言う。
まだ目は赤いが涙は止まったらしい。
安堵して彼の頭を撫でるときゃらきゃらと笑い声を上げた。
「ほら、泣きやんだらティータイムの続きだ。紅茶が冷める前に飲まないとな」
「うん。アーティのお菓子も食べないとね」
にこりと笑ったアルフレッドはアーサーから離れて席に戻る。
アーサーも同じく席に着き、ティーカップを手に取った。
口をつけて温度を確かめるとまだ冷めきっていない。
向かい側に座ったアルフレッドはぼろぼろ零しながらもアーサーお手製のスコーンを
頬張っていた。
昔の、アルフレッドと出会う前のアーサーならば子供であってもマナーの悪さに顔を顰め
注意をしていただろう。
けれど今は仕方ないなと苦笑しかこみ上げてこない。
零れているぞと指摘して、慌てて食べかすを片付けようとするアルフレッドの姿が
愛おしくてしょうがなかった。
 (俺も丸くなったもんだな)
しみじみと思うのはアーサーの背景には壮絶な歴史があるからだ。
正直、今だってヨーロッパに帰ればすぐにここにいるアーサーはいなくなり
冷酷無比、二枚舌外交でヨーロッパを掻きまわす『イギリス』に戻る。
けれどここに居る間だけはそういった事情を忘れて、アーサーはアーサーでいられる。
そうした環境をもたらしてくれたのも全部アルフレッドだ。
(この時間がいつまでも続けば)
どんなに幸せなことか。
このままこうしてアルフレッドと二人で、何もかも忘れて。
(―――――いや、無理だな)
そんなことは夢物語だ。アーサーは愛するべき王と国民を捨てることなんてできない。
アルフレッドとて、今はまだ自覚が薄いかもしれないが、まぎれもない国だ。
国民を捨てることなんて到底できないだろう。
それでも考えてしまうのだ。
このまま二人で共に過ごせたらどんなに幸せなのかと。
「アーティ大丈夫かい?」
「大丈夫だ。ただ、今夜は何を作ろうか悩んでいただけだよ」
「え?アーティ、泊まっていけるのかい?」
「ああ。今日だけじゃないぞ。明日もここに泊まっていく」
「やったあ!!すっごくすっごく嬉しいんだぞ!」
「コラ立ち上がるな。紳士はティータイムの最中に立ち上がってはいけないんだぞ」
今すぐにでも飛び跳ねそうなアルフレッドを好ましく思いながらも
アーサーはきちんと注意をした。
自由奔放な子だが、将来的には立派な紳士になってほしい。
その一心で告げた注意にも「はあい」と返事をして、素直にアルフレッドは座り直した。
それでも嬉しさを隠しきれないようで満面の笑みを浮かべている。
それほどまでに喜んでくれているアルフレッドを目前にし、アーサーはとりあえず
先ほどまでの考えを奥底に仕舞うことにした。
悩むのならば、アルフレッドの前で無い方がいい。
「ティータイムが終わったらウサギの仔を見に行こうよ。この前、とっても可愛い仔が
 生れたんだ」
「ああ。行こうな」
微笑んでアーサーは目を伏せる。
今、このときだけはただのアーサーでいよう。
他の誰の為でもない。愛しい子の為に。
彼の傍にいられる時間は自分が思っているよりも少ない。
だから慕ってくれるこの子に最大の幸せと祝福を。
ウサギの仔について熱心に語るアルフレッドの話に耳を傾けながら
アーサーはそう願った。