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小話詰め合わせその1(英米)

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4.通信手段(英子米/本家3巻くらいの子米/人名表記)


強い波風に煽られる前髪を抑えながらアーサーはアメリカの地に立った。
このところ、ヨーロッパでの情勢があまり思わしくなく、なかなかここに
来ることができなかった。
以前は無かった英国風の建物がかなり増えていることに息をつく。
これだけ建物が増える間、アメリカに来ることができなかったのだ。
あの子はどうしているのだろうか。

「アーティー!!」

教会の鐘のように清らかな声に名を呼ばれ、アーサーは視線を
声の聞こえる方角へ向ける。
おぼろげに見えてきた人影に思わず笑みを零した。
子犬が駆けてくるように全力で舗装された道を少年が走ってくる。
アーサーの予想していた通り、前に逢った時よりもずっと大きくなっていた。
そのことに寂寥感を感じつつも成長しても変わらず慕ってくれることに幸せを感じる。
「アーティ、来てくれたんだね」
「ああ。久しぶりになっちまってごめんなアルフレッド」
「ううん、アーティに会えたから大丈夫だよ」
アーサーに抱きついて、胸に顔を押し付けていたアルフレッドは顔を上げて
無邪気な笑みを零す。
敵意のない透明な笑みに心を癒されたアーサーはじんわりと染み込んでくる幸せを甘受し
まあるい頭に軽くキスを落とした。
この世に幸せというものがあるのならば、今こそ幸せと呼ぶべきときなのだろう。
アーティ、かがんでという声に合わせてかがんでアルフレッドからの祝福のキスを
受け取りながら、そうアーサーは胸の中で呟いた。

□ ■ □ ■

「アーティに会えない間、俺、字を練習していたんだ」
ひとしきり再会を喜んだ後、二人は馬車に乗りアメリカの家に赴き、二人の近況を
報告しあっている中、はにかんだアメリカの言葉に知っているとアーサーは
相槌を打った。
アルフレッドに会えない間、彼の様子を窺い知ることができる手段はアメリカに赴いた
開拓員の報告の言葉と月に一度程度の頻度で届くアルフレッドの手紙だけだった。
アーサーは手紙の届くころになると日に何度もレターボックスを覗きに行った。
手紙が届くのは決まった時間だとわかっていたが、それでも到着日が近づくと
あまりにも待ち遠しくて覗きに行ってしまい、使用人によく笑われたものだった。
それでもアーサーは習慣を変えることはなかった。
彼にとって一番大事なのはアルフレッドであったから。
「たくさんスペルの練習をしたんだな」
「うん。まだアーティみたいには書けないけど、たくさん書いたんだぞ。
「手紙もちゃんと届くかわからないからたくさん書いたんだ。けど良かった。
 きちんとアーティに届いて」
心の底から嬉しそうに微笑むアルフレッドにつられてアーサーもごく自然に
笑みを浮かべる。
だが胸には少しだけ痛みが走っていた。
手紙がちゃんと届くかわからないからたくさん書いたのだと言うアルフレッド。
彼の言葉はとても素直だ。
だから言葉通り、たくさん手紙を書いたのだろう。
だが、アーサーの手に届いたのはごく一部にしか過ぎない。
届かなかった手紙の行く末を思うと胸が痛い。
「アーティ、大丈夫?どこか痛いの?」
「ああ大丈夫だ。ただ、届かなかったお前の手紙が読みたかったなと思って」
「アーティもそう思うの?」
「もちろんだ。お前がくれるもので大切じゃないものなんてないよ」
「うれしい」
はにかんだアルフレッドは立ち上がってアーサーにハグをせがむ。
同じようにアーサーも立ち上がってアルフレッドを抱きしめると
ふふっと幸せに彩られた笑い声がアルフレッドから零れた。
もう少し彼が幼い頃、アルフレッドの身長が腰より少し高い程度のときは
椅子に座ったまま膝に乗せていたが、さすがにこれほど大きくなった
アルフレッドをそうするのは少々きつい。
彼の成長は嬉しいけれど、代わりにできないことも増えていく。
そのたびにアーサーは嬉しさともどかしさを味わうのだ。
「俺、早く大きくなりたいな」
まるでアーサーの胸中を読んでいるかのような台詞にドキリとする。
「そしたら海を渡ってアーティに会いに行ける。手紙が届かない心配とかしなくて済む」
「アルフレッド」
「アーティが大好き。だから俺も会いに行きたい」
「アルフレッド・・・ッ」
たまらずアーサーはアルフレッドを抱きしめる腕に力を入れた。
苦しいよアーティと苦しげな声が聞こえたが、アーサーの腕の力は緩まない。
(俺はこいつにこんな思いをさせているのか)
会えないのが寂しいのはアーサーだけではない。
むしろ幼いアルフレッドの方が寂しい思いをしている。
わかっていたはずだった。理解しているはずだった。
自分にも同じような時期があったのだから。
だが結局はちっともわかっていなかったのだ。