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吸血

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吸血

 午前中のかったるい授業を不真面目ながらも出席し、昼の給食も終わり良守が屋上へ行った後に、同じく屋上へ向かおうとした閃を呼び止めた者がいた。
「閃くん」
 聞き覚えのある女性の声に振り返ると、雪村時音がそこに立っていた。当然というか高等部の制服を着ているので、中等部では結構目立っている。
「雪村の。良守なら屋上だぞ」
「ううん」
 腰まである長い髪をひとつに結わえたその毛先をたなびかせて、時音は首を左右に振った。
「閃くんに用事があるの。ちょっと高等部まで来てくれないかな?」

 連れて行かれた先は閃と良守のいる中等部と、時音と秀のいる高等部の間の渡り廊下の途中の物陰だった。ちょうど倉庫が建ち並んで普段はあまり素行のよくない生徒などがたむろしているが、今日はそこに真っ青になった秀がうずくまるようにして倒れていた。
「大変、秀君、ますます具合悪いんじゃない?」
「どうした、秀!?」
「閃ちゃん……」
 喧嘩か、因縁をつけられて腹でも蹴られたか。もしそんなことをした奴がいたら、元夜行戦闘班の実力を身体で知ってもらおう。そう決意した閃の耳に届いた言葉は。
「血が……足り、ない……」
 閃は盛大に肩を落とした。数日前の夜、色々あって秀は血を求める妖へと変化してしまったため、それを補うだけの血が足りないのは知っていた。一応その場で轟に(無断で)血をわけてもらい、足りなければ自分の血もやると言いはしたが。
「しゃーねーな」
 閃は学生服を脱ぐと、シャツの前を大きくはだけ肩まで露出してから、秀に近づいて屈み込み、その口元へ自分の喉をさらけ出した。
「ほら、とっととしろよ。昼休み、短けーんだから」
「うん、ありがとう、閃ちゃん……いただきます」
 シャツの上から閃の袖を掴むと、秀は閃の首すじ、頸動脈のある辺りを確認してから牙をたてる。
「ク――」
 柔らかな場所に走る痛み、そしてあたたかなものが沸き上がってきて、秀が舌と唇でその温い血を舐め取り、啜る。
「ねぇもし足りないなら、あたしの血も……」
「あー大丈夫大丈夫、俺も妖混じりだから、ちょっと血抜かれる程度なら全然平気だし」
 時音の提案をやんわりと断る。鼓動と同じリズムで傷口から血があふれ出ているのがわかる。時折、至近距離の秀の喉がゴク、と鳴る音が聞こえる。あまり気分のいいものではない。まして能力者とはいえ一応はか弱い女性に同じ事はさせたくない。
「ホントに大丈夫かしら。あなた偏食酷いし、栄養バランス悪そう」
「ちぇ、勝手言ってくれちゃって。平気だってば。な、秀」
 からかうような口調なのは気遣ってのことだろう。閃もそれに合わせて明るい口調で秀の肩を叩くと、こくこくと小刻みに秀も頷いた。

 結局午後の一時間は三人そろって欠席になった。秀はまだ動くのは怠いらしくしばらくじっとしていれば治ると言っていたが、確かに顔色は戻ってきているようだった。うずくまったままの秀を遠巻きにみながら、閃は時音から手渡された絆創膏を首筋に貼りながら礼を言う。
「悪かったな、秀のことで呼びにこさせちゃって。絆創膏も」
「ううんいいの。ところで閃くん、今夜行から烏森支部に出張に来て集団生活してるのよね?」
「そうだけど」
 時音とはあまり話したことがないので、話題を、それもプライベートなことを訊ねられてドキッとする。雪音は顎に手を当てて考えるようなポーズを取っている。
「夜行の詰め所ってあまり清潔じゃないの?」
 言われて少し考え込む。確かに非常に狭い場所に大人数が寝泊まりしているから、風通しがいいとは言えないが、とりたてて不潔だと感じたことはない。
「そんなことねーよ。何で?」
「閃君がさっきシャツから背中出した時、虫に刺されたような跡がいくつかあったから」
「ぅげほっ、ごほっ!」
 むせた。
「あ、ええと……それは……その、うんまぁその何だ、気にするな」
「そう?ならいいけど、烏森に毎晩来てもらっちゃってるし、あたしも一度くらい掃除しに行ってあげようかななんて思ったんだけど」
「サンキュ。その気持ちだけでいいよ」
 心の中で、閃の背中に数日前赤い徴――キスマークをつけた正守へ呪いの言葉を連ねつつ、時音の心遣いに感謝の意を表す。
 と、チャイムが鳴った。気付くと、次の授業が始まろうとしていた。

 急いで午後の最後の授業を受けた閃だったが、血を抜かれたのが存外効いているのか、終始ぼんやりしていた。
 良守も最近修行に行き詰まっているのか知らないが悶々としているか寝ているかどちらかという場合が多い。最後の授業は後者にすることに決めたらしい。教壇の前の机で今日も豪快に居眠りしている。
 はわ、と欠伸を一つ噛み殺した時、窓の外に何かの気配を感じた。邪気の類は感じないが、何気ない素振りを装って窓の外を見たとき、閃は驚きで目が覚めてしまった。
 空中に人の影がひとつ浮いている。しかもそれはいかに遠目であってもわかる、見知ったシルエットだった。
(頭領!)
 時計を見る。と、授業が終わるまであと10分。下校時になれば誰の目につくかもわからない。
「先生!早退します!」
「影宮?まだ具合悪いのか?」
 前の授業を休んだのを知っているのか、教師がほどよく誤解してくれたので閃はそれに便乗する。
「はい。ちょっと……すいません」
 殊更にしおらしい素振りを振る舞いながら荷物を持って廊下へ出ると、一目散に正守のもとへと駆けだした。
(たしかこのへん……)
 正守が浮いていたあたりの真下を目指すと、先刻までいた渡り廊下のすぐ近くに辿り着く。木々の切れ目から上を覗くと、正守と確かに目があった。証拠に、正守は結界で足場を作ってトントン、と閃のもとへと降りてくる。丁度正守が体育倉庫の前に降り立って右手を挙げる。
「よお、よく見つけたな」
「気配がしたんで……どうしたんですか頭領、こんな時間にこんな場所で」
「んー、学校生活を見物に来てた」
「見物?烏森の様子を見に来たんじゃなくて?」
 パタパタと手を左右に振ると正守は少し照れたように頭を掻いた。
「だってここ、俺の母校でもあるんだもん」
「ああ……」
 そうなのだ。ここは正守の生まれ、育った場所。全てはここから始まったと言っても過言ではないだろう。正統継承者に選ばれなかった思春期を烏森でいかに過ごしたのか、考えただけで胸が締め付けられそうになる。
「だからOBとして敬えよ、後輩」
「学区外から転入してきてOBもないような気もしますけど……がんばります」
 少ししんみりした気持ちで殊勝に答えると、ガタンと音を立てて正守が体育倉庫の扉を開けた。
「?」
「ここの倉庫の鍵が壊れてるのも、俺が居たときと変わらないんだな」
 苦笑しながら正守が中を覗くので、閃もそれに習って倉庫の内側へ頭を突っ込んだ、その時。
 ドン!
 正守が閃の背中を叩いてその体を倉庫の中へと押し込んだ。
「なー!?」
 たたらを踏んで、結局やみくもに掴んだ壁に立ててあったマットと一緒に倒れ込む。
「っ!?!?」
 マットの上から体を捻って後ろを見ると、正守が扉に砲丸とバーで開かないように細工しているではないか。
「頭領?」
「これでよし、と」
作品名:吸血 作家名:y_kamei