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逢坂@プロフにお知らせ
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【米英】雪の結晶

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 あの日、窓の外には、雪が積もっていた。
 真っ白なそれにはまだ少しの汚れも跡もなくて、日の光を浴び、きらきらと輝いてすごく綺麗だった。
「見てイギリス、雪だよ!」
 物珍しさと喜びで大騒ぎしていたのは、幼い日の俺。横に立ったイギリスは「本当だ、雪だな」と少し驚いたように呟いた。
「そっか、こっちでも降るんだな」
「イギリス、おれ、スノーマンが作りたいんだぞ」
「作りに行くか?」
「うん!」
 イギリスの誘いに勢い良く頷くと、俺は一目散に玄関へと駆け出した。
「アメリカ、そんなに慌てなくても雪は逃げたりしねえよ。それにそんな薄着じゃ寒いだろ、上着を持っていけよ。聞いてるのか、アメリカ? アメリカ――」

 **

「――寒っ」
 目を覚ますと、俺を襲ってきたのは身に染み入るような寒さだった。
 エアコンを付けっぱなしで寝たのにこんなに寒いとは、一体どういうことだろう。ブランケットに包まったまま、裾をずるずると引きずりながら窓辺に近づく。そしてカーテンを引くと、目の前には白銀の世界が広がっていた。
「ワオ!」
 俺は何度か目を瞬いた。あまりに白くて一瞬何だか分からなかったけれど、すぐに思い当たる。――雪、だ。
 寝ている間に降ったらしい、それは見事に家の周り一面を覆っている。既に数センチはありそうだ。俺はため息をついた。
「これじゃ、寒いはずだよ。出かけるのが嫌になってきたんだぞ……」
 だけどそれは許されない。今日はこれから上司と共に重要な会議に出席することになっているからだ。欠席はおろか、遅刻も厳禁だと昨日も釘を刺されたばかりだ。
「しょうがない、用意するか……」
 はぁ、ともう一度吐息を漏らすと、窓から身を離す。

 それから俺は大急ぎで支度をした。顔を洗い、食パンとコーヒーだけの簡単な朝食を済ませて歯を磨き、そしてスーツに着替える。ネクタイを結びながら時計を見るともう出かけなければいけない時間となっている。ジャケットの上にフライトジャケットを引っ掛けて、家を出る。
「ううっ、風も吹いてるじゃないか!」
 日が昇ったばかりとあって、外は予想以上に凍える。ジャケットの前をきっちりと閉め、マフラーを首に巻き、手袋をした手をポケットに突っ込んでも、まだ寒い。身震いをしながらも歩を進める。
 とそのとき、角の家の前に、小さなオブジェが飾ってあることに気がついた。雪で作られた人形のようなそれは、スノーマンだ。思わず近づいて見てしまう。
「はは、可愛らしいな」
 ちいさな子どもが作ったのだろう、それは顔も胴体もまんまるではなくてどこかいびつな形をしていた。顔の造作もなんだかおかしくて、まるでピカソの絵みたいだ。思わず、あはっと笑ってしまった。
「この木の枝の腕だって、なんだい、顔から出てるじゃないか。ちょっと上の方に付けすぎじゃないかい?」
 それでもなんだか幸せな気分になって来るのは、スノーマン本人が笑っているからだろうか。そんなことを思いながら見つめていると、ふと、過去のある記憶が頭の奥を掠めていった。
「……ああ、そうだ。俺も昔、これを作ったっけ」
 彼――イギリスと一緒に。

 **

 家を飛び出したあと、夢中になってスノーマンを作っていた俺は、それの冷たさや寒さというものをまるで感じていなかった。だから後から来たイギリスから手袋を手渡されたときには、この手はすっかり真っ赤になっていた。イギリスは呆れたように笑ったが、俺の手を取ると、はあ、と息を吹きかけてから嵌めてくれた。
「まったく、無茶すんなよ。確かにお前は他の子たちと比べたら丈夫かもしれないけどな、風邪引かないとは限らないし、お前に万が一のことでもあったら皆が困る。俺も困るけど、ここの民が誰よりも困る」
「ごめん、イギリス」
 謝ると、イギリスはふわりと微笑んで俺の頭を撫でた。
「分かればいいんだ。良い子だ、アメリカ」
 イギリスはいつも俺に本気で怒ったりしなかった。素直に謝ればすぐに許してくれ、優しくしてくれる。今も俺に触れる彼の手つきは柔らかい。と、二人の間にひらひらと雪が舞い降りてきた。
「アメリカ、見てみろよ。雪の結晶だ」
 落ちてきたそれらは、手袋を嵌めた俺の右手の甲に着地した。促されて見てみると、まるで花のような六角形の形をしている。
「わあ、きれいだね」
「これは全部、ひとつひとつ形が違うんだぞ」
「ほんとに?」
 尋ねると彼は二つ目の結晶を指で示した。
「ああ、比べて見たら分かるだろ?」
「ほんとうだ。これとこれ、ちょっとずつ違うぞ!」
 イギリスはこくりと頷き、云った。
「だからこれとこれは、世界でひとつずつしかない雪の結晶なんだ」
「へえー、すごいね。……あぁ、でも、なくなっちゃった」
 感心して見ていると、それらは端から消えていって水になった。雪が解けたのだ。もったいないね、と呟くと、そうだなとイギリスも返す。
「なぁアメリカ。雪の結晶って、人みたいだと思わないか」
「ひと?」
 首をかしげた俺に対して、イギリスはまた首を縦に振る。
「そうだよ。ひとりひとりが違っていて、誰一人として同じ人間はいなくて、それに綺麗だ。けれど、一人では脆くて、ちっぽけな存在……まるでこの雪の結晶みたいだと思わないか?」
「……うん」
 突然語りだした彼に驚きながらも、何となく云いたいことは分かって相づちを打つ。
「だけどな、人も、誰かと一緒なら、強くなれるんだよ。雪の結晶をたくさん集めた、お前のスノーマンみたいに」
「溶けなくなる?」
「んー、そうだな、溶けにくくなる。……でも、いつかは溶けちまう」
「死んじゃうってこと?」
 イギリスは少し驚いたように俺を見たが、すぐに口元を綻ばせた。
「……お前はかしこいな、アメリカ」
「死んじゃうのはいやだよ。寂しいよ……」
 そのとき、俺は思い出していた。俺が生まれてからどれだけの人が死んでいったかを。それはもう数え切れないほどだったが、それでも俺にとって人の死は、いつもつらく哀しいことだった。その想いが分かるのだろう、イギリスは俺を強く抱きしめた。
「ああ、そうだな。でも、ただ消えていくだけじゃない。雪解け水が土や木や人を潤すように、人は生まれてから死ぬまでの間に、いろんなことが出来るんだ。自分のために、そして誰かのために。意味のない人生なんてない。彼の人生が終わっても、それを受け継いでまた新しいいのちが生まれる。人類の歴史に終わりはないんだ」
 それは俺をなだめるようにも、自らに言い聞かすようにも聴こえた。イギリスは俺以上に、いや、生まれたての俺なんか比べ物にならないくらいの人の死を経験したのだろう。身体を離すと、力強い眼差しで俺を見つめた。
「人が雪なら、俺は……俺という国は、大地でありたい。降り注ぐ雪を受け入れ、その短い一生を見守り、新たな雪へと還元するための礎でありたい」
「イギリス、おれは?」
「そうだな、お前は俺の一部だから……一緒に雪を迎えようか」
「……うん、分かったよ、イギリス」
 俺は頷いた。本当はその意味をほとんど理解出来ていなかったけれど。イギリスと一緒にまた雪を見たい、そうとだけ思いながら。

 **