エデンの壁
温かな胎内に包まれ、ゆるい呼吸にあわせて震える襞の感触を感じながら、俺はまどろみに堕ちていく。
眠るエリザの額に唇をあて、独り言のようにつぶやいた。
――髪、綺麗だったのにな、
寝ていると思った彼女の口が、小さくばか、と動いた。
ゆるりと薄く開かれた目蓋の奥、まばゆいエメラルドが覗く。
――あんたのそんな顔、笑っちゃう
――そうかよ
こんな生き方してりゃいいかげん俺だってヤキがまわる
引き留めたのはお前だ。償え
憎まれ口をたたくと、エリザは寝ぼけたような声のまま、うん、ごめん と謝った。
――ねえ、ギル
ねえ、
帰ろうね、わたしたち
俺は目を見開いた。
帰ろうね、
ぜったい帰してあげるからね
小さな子供に聞かせるように、繰り返しエリザが言う。
俺はその背中に手を回し、女の暖かな体温にもぐりこむように顔をこすりつける。
エリザは瞼を閉じたまま俺の髪をなで、目元に口づけ、しょっぱい、と笑う。
エリザベータ。愚かなほどに真っ直ぐで、諦めを知らない女。
お前はきっといつの日か、その望みを叶えるのだろう。
たとえ何十年何百年かかったとしても。
けれど俺は
おまえへの汚い恋情だけでこの生を繋いだ、恥知らずの俺は、
傷つくお前を目にしても、尚、
冷たい壁に囲われたこの偽りの楽園が、
永久に続くことを、祈るように夢見ている。
END