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日向ぼっこ

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「私が皆で日向ぼっこした方が楽しいって言ったから…カズキくんを連れてきてくれたんだわ」

アキラとカズキとオチャヅケとリッケンバッカー。
四人で浴びる太陽はさっきよりも断然暖かく感じられた。
アキラが無造作に砂の上についた手の先に、同じように手を置いたカズキの指が触れる。
手を引くことも、握ることもないまま、アキラは指先から伝わってくる熱をじわじわと感じていた。

「…たまにはこういう時間もいいものね」

いつもは饒舌すぎるほど何かを話すカズキが、言葉少なに首肯する。
それが珍しくてカズキを見上げると、カズキは普段は絶対に外さない眼鏡をそっと引き抜いて裸眼のままで海を眺め始めた。
何も遮るもののないカズキの灰色の瞳が太陽を浴びて一際明るく瞬いている。
潮風にざらりと煽られる髪の隙間から覗く首の筋や、ちらりとアキラを見て目を緩ませるその表情にどくんと心臓が跳ねた。
いつものカズキとは違って、隔てるものが少ないからだろうか。
カズキは常に自分を隠しているから、こんな風に笑うことも眼鏡を外すことも実はそう多くないのだ。

急に熱を持ち出した頬を自覚し、アキラは慌てて俯いて顔を隠す。
カズキを男として認識したことは今まで一度もない。
一度もなかったのだが、今は勝手が違っていた。

まず、音楽がない。
カズキと二人きりになっても、そこには常に音楽があった。
作曲や作詞をしているときであったり、キーボードを弾いているときであったり、常にカズキとアキラの間には何かしら音楽があった。
だが今はそれがない。
暖かな日差しと波の音、そして穏やかな昼下がりの時間が広がっているだけだ。

「あ、のね、カズキくん…」

じっと見詰められていることに居た堪れなさを感じ、アキラは誤魔化すように喋り始めた。

「カズキくんはさっきまで何をしてたの?」
「ミーかい?ミーはミュージックを掻き鳴らしていたよ。いいメロディが思い浮かんだところで、リッケンがストームのように舞い込んできてミーをプリンセスハグしてゴーしたというわけさ」
「それは…悪いことしちゃったわね…」
「悪いことなんてナッシングさ。さっきのは頭の中からロストしちゃったけど、新しいメロディが浮かんだからね。でもそれに合うワードが浮かばないよ…ミー、しょんぼリング」

大袈裟に肩を竦めたカズキに、アキラは安堵ながら微笑んだ。
いつものカズキの様子に熱がするりと引いていくようだった。
さっきのは錯覚だったのだと自分に言い聞かせ、アキラは触れたままだった手をそっと引いて膝の上に戻す。
カズキがちらりとアキラを見たが気づかないふりをした。

「ミーはね、ティーチャー…ラブソングが書きたいんだ。でもまだミーの中からワードが出てこない…もうちょっとでミーのハートをワードに出来そうなのに…」
「カズキくんのハートを?」
「イエス!ラブは、男子が女子を思うこと、女子が男子を思うこと、だよ」
「えっと…じゃあカズキくんはもう少しで恋をしそう、ってことなの…?」
「フフフ。それはミーのトップシークレット。ティーチャーにも言えないよ」

悪戯に笑ったカズキは、外していた眼鏡を掛け直してレンズ越しにアキラをじっと静かに見詰めてくる。
硬質なレンズに遮られているはずの視線が、アキラの心の中まで見通しているようで落ち着かない。
ざわめく心に気づいたのかオチャヅケが目を覚まして高く鳴いた。
小さな爪がアキラの皮膚を傷つけない程度に伸び、かり、と皮膚を滑る。
釣られたのかリッケンバッカーもぱちりと目を覚ますと、ぐっと身体を伸ばして「ひゃふう」と欠伸のような声を漏らした。

「お目覚めかい、リッケン」
「ひょへひゃへ…」
「おはよう、リッケン。ちょうどオチャヅケも起きたから、そろそろLAGに戻ろうかな」
「じゃあミーがエスコートするよ、マイティーチャー」
「ふふっ、じゃあお願いね」

オチャヅケを片手で抱えて起き上がろうとすると、いち早く立ち上がっていたカズキの手が差し出される。
掌にはスカーレットライダーである確たる証の大きな十字。
聖痕のようだと思いながらアキラは差し出された手にそっと自分の手を重ねた。

「ありがとう、カズキくん」
「これくらいモーニング飯前だよ!」

立ち上がった後もカズキの手はぎゅっとアキラの手を掴んだまま。
長い指、大きな掌。
アキラとは違う、がっしりとした男の人の手だ。

「カズキくん…?」
「カモン、リッケン!」
「ひゃひゃー!」

戸惑うアキラを尻目に、カズキの左手がリッケンのふわふわな右手を掴む。

「フフ、こうすればミー、両手にフラワー」
「ひゅひゃひゃー!」
「こらリッケン、爪を立てるのはノー!バッドボーイ!」
「ひゃっひょひょーひ、ひゅひゅひ…ひゅ…ズキ…」
「スズキって呼ぶのもノー!」

来たときと同じように騒ぎながら、今度は三人と一匹で砂浜を歩いていく。
数分後にこのつかの間の休息が破られることを知らないまま、アキラは思いのほか力強く握り締めてくるカズキの手を握り返した。


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直後、レッドアラート。
作品名:日向ぼっこ 作家名:ユズキ