はじまりの場所で
「フェイ、…フェイ?」
「こんなところで寝てると風邪引くぞ」
懐かしい声が聞こえる。今はもういない、とても大切だった友人たちの声。
あぁ、これは夢なんだとぼんやり思った。
「ほら、早く起きないと、ティモシーが村まで引きずってくぞって言ってるわよ」
小さな手が優しく肩をゆらす。そのあたたかさに思わず涙が出そうになった。
目を開きたくない。彼らの姿を見てしまったら涙腺が壊れてみっともないことになってしまうだろうから。
それに何より、彼らに合わせる顔がない。
けれどそんな気持ちを無視して、夢の中の自分は目を開けようとしている。その前に現実の自分が目を覚まして夢を掻き消してくれればと思ったが無駄だった。
「やっと起きたな。…何だぁ、その顔。嫌な夢でも見たのか?」
「やだ、大丈夫? 泣くほど怖い夢だったの?」
ティモシーとアルルの困ったような苦笑顔すらまぶしすぎて思わず目を伏せた。
「ごめん」
彼らにはもう情けない姿を見せたくなくて言葉で誤魔化そうと思ったけれど、口からこぼれたのは涙にかすれた謝罪の言葉だった。何に対しての謝罪なのかは、自分でも分からなかったが。
ティモシーは居眠りしていたことを謝ったのだと解釈したらしく、呆れたような顔で額を小突いてきた。
「まったくだぜ。みんなで先生の家に遊びに行こうって言い出したのは誰だよ。アルルがちょっと休憩したいって言った途端に寝ちまいやがって」
「ちょっとティモシー! フェイはあなたと違ってリー村長の畑の手伝いをちゃんとしてるのよ? 疲れてるんだから仕方ないでしょう!」
「…あーあ。俺の花嫁さんはいっつもフェイの肩を持つんだよなー! なんて可愛そうな俺!!」
「ティモシーっ!!!!」
大げさな身振りで天を仰いだティモシーの背中をアルルが思いっきり叩く。谷に響いた悲鳴に思わず笑みが零れた。
「ホント、俺には容赦ねぇよなアルル。少しは手加減しろって」
「……ほらフェイ、早く行こう。ユイさんのご馳走食べそこなっちゃう」
無視かよ、と呟いたティモシーの手を借りて立ち上がる。
谷を駆け巡る風はあたたかく心地いい。そんな中で二人の笑い声に包まれて過ごす時間は、このままずっと続けばいいと思ってしまうほど幸せなものだった。
『……イ、……フ……イ!』
けれど、これは夢でしかないのだと思い知らせるように、空の向こうから自分たち以外の声が響いてくる。その声に引きずられるように意識が浮上していくのが分かる。
それに合わせて急速に色褪せていく風景と二人の笑顔を守りたくて、咄嗟に手を伸ばしていた。しかしその手は届かず、静かに首を振った二人に拒絶されてしまった。
「フェイ、私たちは大丈夫よ。だからもう、泣かないで」
「お前にはやることがあるんだろ? だったらいつまでもうじうじしてないで、ちゃんと前を見て歩いて行けよな!」
そしてどうか、幸せになって。
二人の想いが痛いほどに伝わってくる。
これが本当に彼らが語りかけてくれているものなのか、それともただ単に自分の罪悪感を軽くするために心と脳が見せた都合のいい『夢』なのかは分からないけれど。
しっかりと頷けば彼らの笑みが深くなったから。
だから俺は、何度も頷くことしか出来なかった――
「こんなところで寝てると風邪引くぞ」
懐かしい声が聞こえる。今はもういない、とても大切だった友人たちの声。
あぁ、これは夢なんだとぼんやり思った。
「ほら、早く起きないと、ティモシーが村まで引きずってくぞって言ってるわよ」
小さな手が優しく肩をゆらす。そのあたたかさに思わず涙が出そうになった。
目を開きたくない。彼らの姿を見てしまったら涙腺が壊れてみっともないことになってしまうだろうから。
それに何より、彼らに合わせる顔がない。
けれどそんな気持ちを無視して、夢の中の自分は目を開けようとしている。その前に現実の自分が目を覚まして夢を掻き消してくれればと思ったが無駄だった。
「やっと起きたな。…何だぁ、その顔。嫌な夢でも見たのか?」
「やだ、大丈夫? 泣くほど怖い夢だったの?」
ティモシーとアルルの困ったような苦笑顔すらまぶしすぎて思わず目を伏せた。
「ごめん」
彼らにはもう情けない姿を見せたくなくて言葉で誤魔化そうと思ったけれど、口からこぼれたのは涙にかすれた謝罪の言葉だった。何に対しての謝罪なのかは、自分でも分からなかったが。
ティモシーは居眠りしていたことを謝ったのだと解釈したらしく、呆れたような顔で額を小突いてきた。
「まったくだぜ。みんなで先生の家に遊びに行こうって言い出したのは誰だよ。アルルがちょっと休憩したいって言った途端に寝ちまいやがって」
「ちょっとティモシー! フェイはあなたと違ってリー村長の畑の手伝いをちゃんとしてるのよ? 疲れてるんだから仕方ないでしょう!」
「…あーあ。俺の花嫁さんはいっつもフェイの肩を持つんだよなー! なんて可愛そうな俺!!」
「ティモシーっ!!!!」
大げさな身振りで天を仰いだティモシーの背中をアルルが思いっきり叩く。谷に響いた悲鳴に思わず笑みが零れた。
「ホント、俺には容赦ねぇよなアルル。少しは手加減しろって」
「……ほらフェイ、早く行こう。ユイさんのご馳走食べそこなっちゃう」
無視かよ、と呟いたティモシーの手を借りて立ち上がる。
谷を駆け巡る風はあたたかく心地いい。そんな中で二人の笑い声に包まれて過ごす時間は、このままずっと続けばいいと思ってしまうほど幸せなものだった。
『……イ、……フ……イ!』
けれど、これは夢でしかないのだと思い知らせるように、空の向こうから自分たち以外の声が響いてくる。その声に引きずられるように意識が浮上していくのが分かる。
それに合わせて急速に色褪せていく風景と二人の笑顔を守りたくて、咄嗟に手を伸ばしていた。しかしその手は届かず、静かに首を振った二人に拒絶されてしまった。
「フェイ、私たちは大丈夫よ。だからもう、泣かないで」
「お前にはやることがあるんだろ? だったらいつまでもうじうじしてないで、ちゃんと前を見て歩いて行けよな!」
そしてどうか、幸せになって。
二人の想いが痛いほどに伝わってくる。
これが本当に彼らが語りかけてくれているものなのか、それともただ単に自分の罪悪感を軽くするために心と脳が見せた都合のいい『夢』なのかは分からないけれど。
しっかりと頷けば彼らの笑みが深くなったから。
だから俺は、何度も頷くことしか出来なかった――