こらぼでほすと 逆転
すっかりと、ここでの生活にも馴染んできた。そこで、行方不明者と職務放棄者の集団だと、ふと気付いて、慌てて連絡した。だが、ちゃんと、こちらからあちらへ報告はされていたらしく、それについてはお咎めはなかった。
「でも、一度帰っては来て欲しいのよ。こちらも人員不足だから。」
そういうことなら、一度、帰れるように頼んでみようと思ったら、意外なところに落とし穴があった。
「え? 俺だけ不可? 」
たぶん、あちらでも戦力として期待していただろう自分だけが、ドクターから許可が出なかった。まだ、無理ですよ、と、窘められて、そこに、いつもへばりついているのがいないこともあって、いつも聞きそびれていたことを尋ねた。
「ドクター、確認させて欲しいことがあるんだ。」
確率の問題というのがある。それが二割に満たないものであるなら、リスク回避を考えるのが通常だ。自分たちのやっていることは、一長一短に取得できる技術ではない。だから、新しい人員を補充するには、何年かの研修期間みたいなものが必要になる。
「確率というより技術革新への待ち時間が必要だと答えておきましょう。それは、来月みつかるか、数年先になるのか、わからない。」
ただし、すぐにできるものではないから、やはり数年単位の待ち時間となるだろう。それだけではないので、まあ、最初から判っていたといえば、判っていたことだ。もし、明日、解決策とか治療法が確立されたとしても、それが実用化段階に至るまで数年の時間が必要になる。
「つまり、今の技術では無理だってことだよな? 」
「はっきり言えば、そうです。」
右目だけではないから、ややこしい。負のGN粒子をかなり浴びているから、回復が極端に遅くなるのだと、何度も説明された。体力的には、かなり回復しているのだが、疲れるほどに肉体を酷使した場合、そこから回復するというのが非常に遅いのだそうだ。そんな人間が、マイスターなどできるはずもない。遺伝子段階で壊れている部分があるから、そういうことになる。それを、普通の人間並みにするのは、今のところ不可能だと言われているのだ。
宇宙へ上がることはできない、と、アレルヤたちに告げた。自分の分も、申し訳ないが手伝いをしてきてくれ、と、送り出した。元々、回復の遅さについては、アレルヤもティエリアも気付いていたから、何も反論はされなかった。行かない、と、駄々を捏ねるかもしれないと思われた刹那も、素直に、頷いた。
人革連の天柱経由で、戻ることになって、エアポートで見送ってから、あちらへ暗号通信を送った。
アレルヤたちの迎えの要請。
マイスター候補を探して欲しいこと。
それから、自分の復帰は数年単位で時間がかかること。
纏めて端的に、それらを書いた。やれやれ、と、その文面をざっと読み通して、送信した。実のところ、アレルヤたちには、復帰できないだろうことは教えていない。手伝っているうちに、そのまま、あちらに居座ることになるかもしれない、と、思いつつ送り出した。拾われた先が、ちょっと普通ではないホストクラブだったから、戦況や政情についての情報はいくらでも入ってくる。それらを耳にしながら、自分は無事を祈るぐらいしかすることがないという状況が、とても苦痛だろうな、と、何も写していないスクリーンを眺めて、ため息をついた。まだ、その状況にはないから、心は穏やかだ。
世話するものがないと弱ってしまう、または、退屈で余計な仕事を増やそうとする、そういう生き物を貧乏性と呼ぶ。
「つまりさ、家ですることがないからって、午後一番にやってきて、掃除して夜も戸締りする時間までつきあってるんだろ? それって、どう考えてもオーバーワークって言うんじゃないの? 」
「でも、貧乏性って、そういうもんですからね。」
「おいおい、八戒さん、それ、まずいだろ? 」
「いえ、大人組が、担当してくれるらしいので、僕は手を出さないでくれ、と、鷹さんから念押しされました。」
「はい? 」
「一度、実際に倒れてみないと頭が理解しないだろうということで、今回、僕は注意も説教もしません。悟浄も、そうしてください。」
まあ、鷹の言うことは、もっともだ。説明されて、「はい、そうですか。」 と、頭が理解したフリはするだろうが、実際、それで自重できるものなんて、あまりいない。ちょうど、子猫たちが不在だし、この機会に、それを自覚させるほうが安全だと、八戒も、鷹から説明された。大人組が、若者をうまいこと誘導してやろうということになったらしい。ふう、と、八戒は、頬を緩める。
「こういう時に、鷹さんが年上で、僕らより長生きしてるんだなって感じますね。」
「たまに、マトモなことしてくれないと忘れるんだよな。」
鷹の意図に、悟浄もくくくく・・・っと肩を揺らす。まだ、二十代半ばの自分たちと、三十過ぎている鷹では、それなりに経験に差がある。それに、鷹は、あのコーディネーターたちの中にあっても、少しも引けを取らないほどの戦績があって、上手い具合に空気を緩めてくれるバイブレーターの役目もできる貴重な存在だ。普段は、だらしない美少年キラーだが、こういう時は、世話好きになるらしい。
「キラくんも、なんだかんだ罵るけど、鷹さんと仲良いですもんね。」
「まあ、いろいろ辛いことがあった時は、ちゃんとフォローしてたって言うからな。あのおっさんも、貧乏性入ってるんじゃねぇーか? 」
「貧乏性というより兄貴風を吹かせたいってとこですかね? 」
年上として、年下の暴走を止めてやらねば、と、思うものらしい。三蔵も、散々に説教はしたらしいが、頭で理解したとしても、身体には感じていないと、怒っていたから、その部分を自覚させるつもりだろう。
「大人組って呼び方はやめてくれ。それでは八戒も悟浄も、こっちに入るのに、他人事になってるぞ。」
ふたりが、のんびりと帳簿の整理をしていたら、虎がコーヒーカップを、ふたつ運んで来た。どうやら美味しいブレンドができたらしい。
「じゃあ、年寄り組か? あんたと鷹さんとトダカさんは、年寄り組だろ? 」
「悟浄、それは、あまりにダイレクトですよ。ミソジーズではいかがてす? 虎さん。」
「八戒、それだとトダカさんは、イソジーズになるから却下だ。とりあえず、あの親猫に、自分が守ってもらえる場所があることを判らせるつもりだからな。」
余計なことはするなよ? と、ウインクして事務室から、虎は出て行く。一瞬の隙に、悟浄の頭に肘鉄を食らわせた技は年の功というところだろう。
あちらと、おいそれと連絡はしないのだが、組織が壊滅的にやられている事実から考えて、マイスター候補のデータを検索できるのか、という部分について疑問に思った。以前なら、ヴェーダから、検索すれば、すぐに出てきただろう情報だが、それが使えないとなれば、難しいかもしれない。どこかで生きているとは思うのだが、どうしているかまでは、よくわからない。大きな紛争になったから、世界も混乱している。だから、居場所が変わっているとも思えた。
「キラ、オーナーに頼みたいことがあるんだが? 」
「急ぎ? 」
「俺的には。」
「どんなこと? 」
「でも、一度帰っては来て欲しいのよ。こちらも人員不足だから。」
そういうことなら、一度、帰れるように頼んでみようと思ったら、意外なところに落とし穴があった。
「え? 俺だけ不可? 」
たぶん、あちらでも戦力として期待していただろう自分だけが、ドクターから許可が出なかった。まだ、無理ですよ、と、窘められて、そこに、いつもへばりついているのがいないこともあって、いつも聞きそびれていたことを尋ねた。
「ドクター、確認させて欲しいことがあるんだ。」
確率の問題というのがある。それが二割に満たないものであるなら、リスク回避を考えるのが通常だ。自分たちのやっていることは、一長一短に取得できる技術ではない。だから、新しい人員を補充するには、何年かの研修期間みたいなものが必要になる。
「確率というより技術革新への待ち時間が必要だと答えておきましょう。それは、来月みつかるか、数年先になるのか、わからない。」
ただし、すぐにできるものではないから、やはり数年単位の待ち時間となるだろう。それだけではないので、まあ、最初から判っていたといえば、判っていたことだ。もし、明日、解決策とか治療法が確立されたとしても、それが実用化段階に至るまで数年の時間が必要になる。
「つまり、今の技術では無理だってことだよな? 」
「はっきり言えば、そうです。」
右目だけではないから、ややこしい。負のGN粒子をかなり浴びているから、回復が極端に遅くなるのだと、何度も説明された。体力的には、かなり回復しているのだが、疲れるほどに肉体を酷使した場合、そこから回復するというのが非常に遅いのだそうだ。そんな人間が、マイスターなどできるはずもない。遺伝子段階で壊れている部分があるから、そういうことになる。それを、普通の人間並みにするのは、今のところ不可能だと言われているのだ。
宇宙へ上がることはできない、と、アレルヤたちに告げた。自分の分も、申し訳ないが手伝いをしてきてくれ、と、送り出した。元々、回復の遅さについては、アレルヤもティエリアも気付いていたから、何も反論はされなかった。行かない、と、駄々を捏ねるかもしれないと思われた刹那も、素直に、頷いた。
人革連の天柱経由で、戻ることになって、エアポートで見送ってから、あちらへ暗号通信を送った。
アレルヤたちの迎えの要請。
マイスター候補を探して欲しいこと。
それから、自分の復帰は数年単位で時間がかかること。
纏めて端的に、それらを書いた。やれやれ、と、その文面をざっと読み通して、送信した。実のところ、アレルヤたちには、復帰できないだろうことは教えていない。手伝っているうちに、そのまま、あちらに居座ることになるかもしれない、と、思いつつ送り出した。拾われた先が、ちょっと普通ではないホストクラブだったから、戦況や政情についての情報はいくらでも入ってくる。それらを耳にしながら、自分は無事を祈るぐらいしかすることがないという状況が、とても苦痛だろうな、と、何も写していないスクリーンを眺めて、ため息をついた。まだ、その状況にはないから、心は穏やかだ。
世話するものがないと弱ってしまう、または、退屈で余計な仕事を増やそうとする、そういう生き物を貧乏性と呼ぶ。
「つまりさ、家ですることがないからって、午後一番にやってきて、掃除して夜も戸締りする時間までつきあってるんだろ? それって、どう考えてもオーバーワークって言うんじゃないの? 」
「でも、貧乏性って、そういうもんですからね。」
「おいおい、八戒さん、それ、まずいだろ? 」
「いえ、大人組が、担当してくれるらしいので、僕は手を出さないでくれ、と、鷹さんから念押しされました。」
「はい? 」
「一度、実際に倒れてみないと頭が理解しないだろうということで、今回、僕は注意も説教もしません。悟浄も、そうしてください。」
まあ、鷹の言うことは、もっともだ。説明されて、「はい、そうですか。」 と、頭が理解したフリはするだろうが、実際、それで自重できるものなんて、あまりいない。ちょうど、子猫たちが不在だし、この機会に、それを自覚させるほうが安全だと、八戒も、鷹から説明された。大人組が、若者をうまいこと誘導してやろうということになったらしい。ふう、と、八戒は、頬を緩める。
「こういう時に、鷹さんが年上で、僕らより長生きしてるんだなって感じますね。」
「たまに、マトモなことしてくれないと忘れるんだよな。」
鷹の意図に、悟浄もくくくく・・・っと肩を揺らす。まだ、二十代半ばの自分たちと、三十過ぎている鷹では、それなりに経験に差がある。それに、鷹は、あのコーディネーターたちの中にあっても、少しも引けを取らないほどの戦績があって、上手い具合に空気を緩めてくれるバイブレーターの役目もできる貴重な存在だ。普段は、だらしない美少年キラーだが、こういう時は、世話好きになるらしい。
「キラくんも、なんだかんだ罵るけど、鷹さんと仲良いですもんね。」
「まあ、いろいろ辛いことがあった時は、ちゃんとフォローしてたって言うからな。あのおっさんも、貧乏性入ってるんじゃねぇーか? 」
「貧乏性というより兄貴風を吹かせたいってとこですかね? 」
年上として、年下の暴走を止めてやらねば、と、思うものらしい。三蔵も、散々に説教はしたらしいが、頭で理解したとしても、身体には感じていないと、怒っていたから、その部分を自覚させるつもりだろう。
「大人組って呼び方はやめてくれ。それでは八戒も悟浄も、こっちに入るのに、他人事になってるぞ。」
ふたりが、のんびりと帳簿の整理をしていたら、虎がコーヒーカップを、ふたつ運んで来た。どうやら美味しいブレンドができたらしい。
「じゃあ、年寄り組か? あんたと鷹さんとトダカさんは、年寄り組だろ? 」
「悟浄、それは、あまりにダイレクトですよ。ミソジーズではいかがてす? 虎さん。」
「八戒、それだとトダカさんは、イソジーズになるから却下だ。とりあえず、あの親猫に、自分が守ってもらえる場所があることを判らせるつもりだからな。」
余計なことはするなよ? と、ウインクして事務室から、虎は出て行く。一瞬の隙に、悟浄の頭に肘鉄を食らわせた技は年の功というところだろう。
あちらと、おいそれと連絡はしないのだが、組織が壊滅的にやられている事実から考えて、マイスター候補のデータを検索できるのか、という部分について疑問に思った。以前なら、ヴェーダから、検索すれば、すぐに出てきただろう情報だが、それが使えないとなれば、難しいかもしれない。どこかで生きているとは思うのだが、どうしているかまでは、よくわからない。大きな紛争になったから、世界も混乱している。だから、居場所が変わっているとも思えた。
「キラ、オーナーに頼みたいことがあるんだが? 」
「急ぎ? 」
「俺的には。」
「どんなこと? 」
作品名:こらぼでほすと 逆転 作家名:篠義