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こらぼでほすと 逆転

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「探して欲しい人間がいるんだ。今どこで何をやってるかってことを。」
 そういうことなら、と、キラはすぐに直通ホットラインで歌姫様を捉まえてくれた。歌姫様のほうも、快く引き受けてくれたが、さすがに、名前しかわからない相手だから時間は多少かかると、それだけは言い渡された。
「その方が、どういう方か、お聞きしてもよろしいですか? 」
「ぶっちゃけDNA共有してる相手だから、顔見りゃわかるよ。」
「ああ、そういうことですか。わかりました。しばらく、お時間をくださいね。」
 察しの良い歌姫様は、それだけで、納得してくれた。キラは、まったく会話を聞いていないので、こっちの言い分すら耳を素通りしていた。携帯端末を返すと、「次は、いつ会えるの?」 と、今までとまったく違う会話に突入している。
 それを横目にして、そのまま部屋を出た。内緒の話だから、と、八戒の施術用の部屋にキラを連れ込んでいたからだ。扉を開けて、ぎょっとした。扉の横の壁に、鷹が立っていた。
「なあ、ママ。子猫たちが留守の間に飲みにでも行かないか? 」
「・・・・遠慮する。」
「ああ、俺の好みから外れてるから、そういう心配はしなくていいぞ。たまには、大人だけで、のんびりするのもいいだろうってぐらいのことでさ。虎さんとハイネとトダカさんあたりも一緒だから。うちの店、閉店するのが早いし、それほど飲み倒す必要もないからさ。大人だけで、たまに飲みっていうのもあるんだよ。」
 今まで、おまえさんは子猫の世話があったから誘わなかったんだ、と、言われれば、どうせ帰ってもやることもないロックオンだって素直に誘いを受ける。
「本当に、虎さんたちも一緒なんだろうな? 」
 ただし、確認はする。騙されては、洒落にならない。
「ああ、トダカさんに聞いてみるといいさ。」
 一番年長で、店の責任者でもあるトダカなら、信用できる。すかさず、カウンターへ行って尋ねたら、すんなりと肯定された。
「うちのアマギたちも一緒だから、かなり大人数になるよ。」
 ボトルを、きゅっきゅっと磨きつつ、トダカが、そう言うので、ロックオンも安心して、「ご一緒させてください。」 と、返事した。



 その数日前にも、大人組というか、三十路オーバーの面子が集って、閉店後の『吉祥富貴』で飲み会をやっていた。話題は、ニューフェイスの若者の動向について、だったりする。
「ドクターの話だと、そういうことらしい。だから、限界までやらせてみるほうがいいかな? と、俺は思うんだけどさ。どう思う? 」
「それでいいんじゃないか? けど、襲うなよ? 鷹さん。」
「年齢制限にひっかかってるから襲いません。というか、あれを襲ったら紫の子猫ちゃんに殺される。」
 CBという組織は、かなり特殊で、組織自体は、相当の人間が所属しているのだが、各機関ごとが独立しているから繋がりがないし、代替わりも激しいから、どうしても若年層が多い。24歳でマイスターのリーダーというのは、早くはないが、指揮官も同年代で、メカニックとドクターぐらいしか、年上がいないという状況だから、頼ったりすることはできなかっただろう。だからこそ、ここにいる間は、普段はいない兄貴分になる自分たちに甘えろ、と、言いたいのだ。大人組は、三人ともが退役軍人で、軍は、年齢としては、上下かなりの幅があり、若い頃は、三人だって、それなりに頼ったりしていたから、余計に、そういうものがない組織にいる親猫を心配する。
「慣れないんだと思うな。元々、スナイパーという商売だったのなら、その時も単独行だろうし、CBに入ってからも、年下か同年代ばかりという環境だったのだから、我々と接することで慣れさせるしかないんじゃないかな? 」
 いつもはカウンターの内側にいるトダカもソファで一緒に飲んでいる。ちょっと遠い目で微笑んでいる。
「誰か該当者がいる? 」
「シンが、そうだったから・・・あの子は長男で、一人になってからレイと友達になって、それから、キラ様たちと出会った。最初は、アスラン君にも、つっけんどんで苦労したらしい。」
 だが、戦争が終わって、キラたち『吉祥富貴』のスタッフと付き合うようになって、年相応に年上には甘えたり頼るようになった。甘ったれるというのではない。笑って許してくれる年上という存在を、ようやく認識したということだ。
「ああ、ありゃ大変だったらしいからな。アスランが苦労したって言ってた。」
「シンも、最初は野良猫だったからなあ。」
 鷹と虎は、その当時のことを思い出して笑っている。ちょうど、その頃、トダカとは知り合いでもなかったので、当時のことを、ふたりして話して聞かせた。彼らが知っているのは、戦争の最後のほうからのことだ。途中のことは、アスランとレイから、トダカも聞いている。
「そういうことだろ? おふたりさん? ロックオン君も、少しは頼って、落ち着けばいいと。」
「そういうことだ。三蔵さんの説教ぐらいでは改心しなかった頑固者だ。あまり弱らせたくはないんだが、当人のためにも、自覚はさせないとならない。」
 カコンとグラスの氷を揺らして、虎が苦笑する。いつもは、守る立場にいる親猫に、守られる立場でいられる場所があることを提示したい。ここにいる間は、率先する必要も、先手先手を考える必要もない。とりあえず、ゆったりとした気分で、身体を休ませて欲しいと思っている。誰だって、ずっと緊張した状態では疲れてしまう。誰かが、助けてくれると分かっていれば、それに頼ることもできるし、その相手が自分より年上で信頼できるなら、なおのこと、落ち着ける。その場所が、ここだと、そう教えたいから、大人組は、その相談をしていた。




 アマギたち、トダカ親衛隊は、本業のある身だが、それでも呼び出しがかかれば、どうにか時間を捻出してやってくる。二、三人だと予想していたトダカの予想を遥かに上回り、十人ほどが深夜過ぎた『吉祥富貴』の現れた。
「もう、ここでいいんじゃないか? これだけ多いと、どっかに行っても貸切になっちまう。」
 さすがに、十数人の男たちともなると、小さな店では貸切だ。そこまで派手にする必要もないだろう。それに、ここには、飲むには困らないだけの酒がある。
「じゃあ、おつまみの用意でも・・・・」
 バックヤードの厨房担当者が帰ってしまったから、自分が、どうにかしようとロックオンが動こうとして、トダカに止められた。
「何か、そこのコンビニに見繕ってきてくれないか? 」
 命じる相手は、トダカ親衛隊の面々だ。五人ばかりが、「了解しました。」 と、さっさと表へ走り出て行く。
「きみは、ここに座っていなさい。アマギ、ビールを冷蔵庫から出してくれるか? 」
「わかりました。箱単位で計算しておきますから。」
 もちろん、ここでの飲み食いに関しては、会費制になるから、アマギがメモをつけている。すでに、鷹とハイネは、自分たちのキープしているボトルを机に並べている。親衛隊が動き回っているから座っていられなくてロックオンも立ち上がって手伝おうとするのだが、トダカが、それを有無を言わさず、ソファに座らせる。
「俺、一番年下ですよね? こういう時は、手伝うのが普通ですよ? トダカさん。」
作品名:こらぼでほすと 逆転 作家名:篠義