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call!call!call!【利準】

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Side Junta


 和サンの不在にも慣れた。
 三年生にとっての夏大が初戦で終わってしまい、しばらくふてくされていたオレを、辛抱強く待ってくれたのが利央で。
 和サンに大きく頼っていた自分が、前に踏み出せたのは利央のおかげと言っても過言じゃない。
 そんなんから利央と一緒にいる時間が長くなって。
 気がつきゃ口説き落とされていた次第……。

 一週間が終わって、ぐっと自分のベッドで伸びをする。
 今日は金曜日――二月一日で。
 明日はオレの誕生日だ。
 利央のヤツに、誕生日プレゼントがどうしても決めらんないから一緒に買いに行こうと泣きつかれ、たまたまオフが重なったこともあって明日は出かけることになってる。
 そういや、一緒に出かけるのを承諾した時に、『やったぁ! 準サンと久しぶりのデートっ、』ってはしゃいだヤツの頭をひっぱたいた気が――
 そんときの利央の顔っつったら。
 思わずクツクツと笑ってしまう。

 明日早いし。いーかげん寝ないとな。
 携帯のアラームをチェックして、ベッドに潜り込む。
 天気いいといいんだけどな。
 ぼんやりと明日へと想いを馳せながら、うとうとし始めた頃。
 携帯の着信で、意識が引き戻された。
(――誰だよ…、)
 覚醒しきらない頭のまま、携帯を開く。携帯の画面のまぶしさに、顔をしかめる。
(…利央……?)
 そこに脳天気に綴られた文面は、間違いなく利央のモノで、オレの誕生日を祝うものだった。
 携帯の時間を見れば、0:03の表示。
 どうやら日付が変わってすぐに送信したらしい。
 どきどきしながら携帯とにらめっこしている利央の姿が浮かんで、思わず頬が緩んだ。
 しょうがねぇ、返事してやっか。
(明日出かけるんだろ、早く寝ろ、バーカ。……でも、サンキュ。)
 そんなような内容を送信してやる。
 もう一度枕元に携帯をおいて、眠りにつこうとしたら。
 また携帯の着信で意識を引き戻された。今度はメールじゃなくて電話、だ。
(あんのバカ……)
「……はい。」
『あ、準サン? もしかして、寝てました……?!』
「…まぁな。」
 オレの声の不機嫌さから携帯の向こうで慌ててる利央がわかる。
『あの、えっと……』
「用件ねぇなら切るぞ。オレは寝る。」
『うわっ、ま、待ってくださいよッ!』
「……何だよ。」
 黙ってしまった利央の後ろで車のエンジン音が聞こえた。――ってお前どこにいるんだよ。
『準サン、実は今――準サンちのそばにいるんスけど……今から出てこられます…?』
「はあぁ?!!」
『うっ…、』
 お前、何考えてんの。いや、考えてることはわかるけど、ホントにやるか? それ。
 オレは大きくため息をつくと訊ねた。
「……どこ。」
『えっと、準サンちの裏にある公園……』
「五分で行く。待ってろ。」
 言うだけ言ってさっさと電話を切る。
 あのバカ。この寒い中、具合悪くしたらどうすんだ、とか。どうせ明日会えるんだろーが、とか。
 色々思うことはあったけど、やっぱり最後に行き着く感情は『ウレシイ』だ。
「くそっ、」
 着替えるだけ着替えて。オレは携帯を握って家を出た。

「あ、準サーン!」
 オレの姿を認めるなり、ぶんぶんと手を振って満面の笑みを見せる利央。まったく、犬かっつーの。
 いや、犬だな。それも超特大の。
「おまえなぁ……、」
 さすがにこれだけ一緒にいればオレが何を言いたいのか分かってるみたいで。ちょっとばつが悪そうな顔をする。
「スンマセン。…でも、どうしても、直接一番に言いたくって…、」
 まぁ、そんなこったろうとは思ってたけどな。ホント、ばかだろ、コイツ。そんなことされたら…来年も、再来年も期待しちまうだろーが。
「準サン、誕生日おめでとう!」
 優しく抱き込まれて、感情の込められた利央の声が上から降ってくる。
 神様に感謝しないと、なんて言って、利央はいつも持ち歩いているクロスにキスをした。こういうのがサマになってしまうのが、また何とも複雑な気分だ。
 じっと睨んでいたら、利央がオレの視線に気づいて。
「あ…、こっちより先に準サンだよネ?」
 そう言うと同時に、目にかかる長いオレの前髪を掻き上げるようにしながら、頬に手を添えて。触れるだけのキスをされる。
 利央のヤツ、こういうことを素でするからハズカシイんだっつーの!
「……気ィ済んだか…?」
 ぼそぼそっと言ったら、利央がふにゃりと笑った。どうやらオレの顔は赤くなっているらしい。
「準サン、大好きっ!!」
 満面の笑みでオレを抱きしめる利央。
「利央、苦しいって!」
 オレの言葉なんてお構いなしに。
「準サン、明日、…じゃなかった、今日! 九時間後! 準サンの誕生日プレゼント買うんですから、ちゃんと考えてきてくださいね!」
「わかってるっつーの。」
 そこでやっと利央の腕が緩んだ。
「それじゃ、準サン――おやすみなさい。」
 ちょっとだけ寂しそうに利央が笑う。
「――利央。」
「……ん?」
「その……サンキュ。…気ィつけて帰れよ。」
 利央が目を瞠る。大方、素直なオレなんて珍しいって思ってんだろ。
「準サ――」
「遅刻なんかしやがったら二度とお前と出かけたりしねーからなっ、」
「ええッ、そんな…っ!!」
 この世の終わりみたいな顔すんな、バカ。
 オレは利央の襟首ひっつかんで、ぐいと引き寄せると口づける。
「――ッ!!」
 あー、らしくねェ。らしくねーんだけど、してやりたくなっちまったんだもんなぁ…。
 オレは利央に背を向けるとすたすたと歩き出す。
「また後でな、利央。」
 ひらひらと手だけ振って後ろは振り返らない。だって絶対利央のヤツだらしねえ顔してるだろうから。
「――準サン…、ありがとっ!!」
 後ろから聞こえる声にちょっとだけ笑みを浮かべながら。
 オレは元来た道を戻っていった。



作品名:call!call!call!【利準】 作家名:りひと