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call!call!call!【利準】

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side Rioh



 和サンたち三年生が引退して。目に見えて落ち込んでたのは準サンだった。
 一見それは、ただの我が侭にもとられがちだったけれど、そのくらい和サンと準サンとの絆は深かったって事で。
 オレは準サンのことが好きだった。
 準サンは和サンが好きで。
 それでも、オレは野球でも、それ以外でも、準サンの力になりたい、そう思って。
 必死になって準サンのこと口説き落とした。(今でもウソみたいだけど)

 いつもなら、ただの週末。でも、今日は違う。
 明日は準サンの誕生日だ。
 二ヶ月ちょっとだけの同い年。
 それも今日でおしまい。
 なんとかして、準サンと一緒に誕生日を過ごしたかったから、オレは『一緒に誕生日プレゼントを選ぶ』という理由を付けて、デートの約束をとりつけた。
 でも、それだけじゃ足んない。
 やっぱり、会って直接言いたいもん!
 準サンへの、生まれてきてくれてありがとう、ここにいてくれてありがとう、を。
 オレはジャケットを羽織って携帯を握りしめると、準サンの家へと向かった。

 準サンの家の裏にある、小さな公園。
 そこのブランコで、オレはぼんやりと光る携帯のディスプレイを見つめていた。
 まずはメールで、と思ったから。
 勢いに任せて飛び出てきてしまったけれど、準サン、もう寝てるかもしれないし。
 メールをすれば、起きてて気づいてくれれば、準サンは律儀に返事をくれる。ぶっきらぼうな言葉でも、必ず。
 だから、今も。
 このメールに賭ける。
 オレは考えに考えた文面を打ち込むと、送信ボタンを押した。

 少しの間の後。
 準サンからのメールが届く。
 良かった、起きてたんだ…。
(明日出かけるんだろ、早く寝ろ、バーカ。……でも、サンキュ。)
 メールを開いて、顔が綻ぶ。頬が緩む。
 準サンの『ばーか』は親愛の表れで、だんだんオレは気にならなくなっていた。
 よし、じゃあ電話! 準サンが寝てしまわないうちに。
 オレは準サンの番号をメモリーから呼び出すと、深呼吸をしてから発信ボタンを押した。
 コールが三回…四回…そこでプッとコールが途切れる。
『……はい。』
 電話の向こうの不機嫌そうな声。…これは準サン寝てたな。
「あ、準サン? もしかして、寝てました……?!」
『…まぁな。』
 あー、まずった…かな。
 でも、やっぱりここまで来たからには、オレ準サンに会いたいよ。
「あの、えっと……」
『用件ねぇなら切るぞ。オレは寝る。』
 う、あっ!? ちょっと、準サン、容赦なさ過ぎ!
「うわっ、ま、待ってくださいよッ!」
 オレは慌てて準サンを引き留める。
『……何だよ。』
 呆れられるかな。でも――
「準サン、実は今――準サンちのそばにいるんスけど……今から出てこられます…?」
『はあぁ?!!』
「うっ…、」
 携帯の向こうの準サンの声が、こっちまで響く。
 呆れてるよなぁ…自分でもバカだなって思うし。
『……どこ。』
 低い、ちょっと怒ったふうな声で訊かれる。
「えっと、準サンちの裏にある公園……」
『五分で行く。待ってろ。』
 え? え?!
 混乱してるオレのことなんかお構いなしに、言うだけ言って準サンはさっさと電話を切った。
 これは――いい、んだよね。待ってて。
 あ、ちょっと…いや、すごく、嬉しい…かも…。
 ちょっと頬が熱くなって。オレは、準サンがくるのを待った。

「あ、準サーン!」
 公園の入り口に準サンの姿が見えて。オレは大きく手を振った。
「おまえなぁ……、」
 呆れたような口調で言われて、オレはただただ苦笑する。
 準サンの言いたいことは分かってるつもり、だ。それでも。オレは自分のワガママ通したくって。
「スンマセン。…でも、どうしても、直接一番に言いたくって…、」
 ちらりと準サンの表情を伺えば。
 まったく仕方ねぇな、って声が聞こえてきそうな表情してて。
「準サン、誕生日おめでとう!」
 オレは、ちょっとほっとして、準サンをぎゅっと抱きしめる。
 そうだ、神様にも感謝しないとね。オレはクロスを取り出すとキスをする。
 そしたら、準サンが複雑そうな顔をしてオレをじっと見てるから。
「あ…、こっちより先に準サンだよネ?」
 長い準サンの前髪を掻き上げるようにしながら、頬に手を添えて。触れるだけのキスをする。
「……気ィ済んだか…?」
 ぼそぼそっと準サンが言う。
 準サンの顔、真っ赤だ。
 オレは嬉しくなってふにゃりと笑った。
「準サン、大好きっ!!」
 オレは満面の笑みで準サンを抱きしめる。
 カワイクって、格好良くって、それでいて、ぶっきらぼうだけど、ちゃんとオレのことを思ってくれる準サンが大好き。
「利央、苦しいって!」
 オレはそんなの聞こえなかったフリして、ぎゅうぎゅうと準サンを抱きしめる腕に力を込めた。
「準サン、明日、…じゃなかった、今日! 九時間後! 準サンの誕生日プレゼント買うんですから、ちゃんと考えてきてくださいね!」
「わかってるっつーの。」
 明日――もう今日――は準サンとデート!
 ずっと楽しみにしてたんだから、さ。
「それじゃ、準サン――おやすみなさい。」
 しようと思ってたことは全部できた。
 明日もある。寒い中、ずっと外にいるのは準サンの身体にはイイことじゃない。
 だから、早く帰んないと。
「――利央。」
「……ん?」
「その……サンキュ。…気ィつけて帰れよ。」
 え――ッ
 オレは目を瞠った。素直な準サン…レアだ…。
 ちょっと目を逸らして言った準サンは、真っ赤になってて。
「準サ――」
「遅刻なんかしやがったら二度とお前とでかけたりしねーからなっ、」
「ええッ、そんな…っ!!」
 照れ隠しにしたってそれは酷すぎやしませんか。
 ショックを受けてると唐突に襟首掴まれて、ぐいと引き寄せられる。
 え? と思っている間に、オレの唇に準サンのそれが触れた。
「――ッ!!」
 耳まで真っ赤になってる準サンは、オレに背を向けるとすたすたと歩き出す。
 って、ええっ?!
 準サンからキス、だなんて。
 動揺からまだ立ち直れないオレに。
「また後でな、利央。」
 準サンはひらひらと手だけ振って後ろは振り返らない。
「――準サン…、ありがとっ!!」
 オレは準サンの背中に向かって、小さく叫んだ。
作品名:call!call!call!【利準】 作家名:りひと