ぬくもり【巣西】
暗い部屋の中だから、このくらい近くないと顔は見えないんだけど、この距離はキスする時を思い出してしまって落ち着かない。
「すや、ま…?」
何も言わずにじっとオレの目を巣山が見つめる。
突然、携帯のバイブが鳴り出して。オレのは切ってあるから巣山のだ。
「ね、ケータイ鳴ってる…っ」
この距離と空気に耐えられずに言ってはみるものの、巣山の目はオレから逸らされることはない。
「オレがかけたアラームだから平気」
巣山はぼそりと言うと、オレの頬にそっと手を伸ばして、触れるだけのキスを落とす。
「…っ」
何度しても緊張する上に、いつもはだいたい訊いてくれるのに。今日は突然で、心臓が壊れてしまうんじゃないかと思った。
そっと唇が離れて、巣山がやわらかく微笑む。
「──西広、誕生日おめでと」
「ええっ?!」
誕生日?! っていうか、巣山知ってたの? じゃあさっきの携帯は…
「…良かった。オレが最初、だな。西広の誕生日祝うの」
確かに、これだったら一番最初…だ。それでもって、もうちょっとしたら、携帯の方にはみんなからそれぞれのお祝いのメールが来るんだろう。
でも、どんな言葉をもらっても、きっと巣山の朴訥な、飾りっ気のない言葉が一番嬉しいんだ。
「巣山……っ」
ありがとうは、もう言葉にならなかった。
心の中で溢れたものが姿を変えて双眸から流れ落ちる。
「え、ちょ、っと…西広っ?!」
「ごめ、んっ、…オレ、嬉しいよ。ありがとう」
ちゃんと伝えなきゃ。
オレは顔を上げて笑顔を作る。
泣き笑いみたいになっちゃったけど。
ホントに、ホントにオレ嬉しかったんだ。
オレの表情を見て、巣山がほっとした顔をする。
「今日は西広のプレゼント、選びたいんだ。だから……寝るぞ。朝起きらんなくなる」
「……うん」
宥めるように頭をくしゃくしゃと撫でられて。そのまま二人で一緒に横になる。
人の体温に安心しきったオレは、気づけばもうすっかり寝入ってしまって。
「…ったく、人の気も知らないで…」
ぼそりと呟かれる言葉と、ふわりと唇に触れた温もりを。
オレは夢の中でぼんやりと感じた。