kisses.【栄口総受】
01 勇気をだして(泉×栄口)
オレと、水谷と、栄口。
3人でつるんでることが結構多くて、一緒にいると「ああ、またあいつらか」みたいな反応されて、それが心地よかった。
水谷のどこまで天然だか分からない発言にオレが突っ込む。それを見て栄口が笑う。時にはオレと一緒に突っ込む。
そんなやり取りが楽しかったのに。
3人のバランスが狂ったのは、水谷が抜けたから、だ。
別にケンカしたワケじゃない。
単に、あいつに『コイビト』ってヤツができただけ。
好きなヤツと少しでも一緒にいたい、その気持ちは分かるから、オレも栄口も、水谷の行動を咎め立てたりはしなかった。
ただ、困ったのは、オレが栄口のことを『そーいう意味』で好きだってことだった。
3人だからこそ、保たれていた微妙なバランス。
じわじわと、それが崩れていく。
今までだったら、3人いれば常に誰かがしゃべってて。沈黙が訪れることなんてなかった。
けれど、今はどこかぎこちない。
同時にしゃべろうとして口を開いて、二人して譲ろうとして黙り込んだり。
そんな空気が栄口にも伝わってしまうのか、視線を逸らされることが増えた気ぃする。
なんか水谷と3人といた時より、オレたちの関係後退してね?
そう思ってちょっと落ち込んだ。
もやもやした気持ちを抱えたまま一週間が経って。
一緒に見たい店があるから、と約束してたから、栄口が部誌を書き終えるのを、オレは手持ち無沙汰に携帯をいじりながら待っていた。
さらさらと紙の上を走るシャープペンシルの音。
それがふと止んで。
終わったのか? とオレは顔を上げる。
「泉…、ごめんね。」
「ん? イヤ、別に急いでねーし。」
「や、そうじゃなくて──」
一瞬、栄口は視線を手元に落とすと、オレの顔を見て苦笑いを浮かべる。
「オレと一緒にいて、楽しいのかなって。なんか、泉、あんましゃべんなくなったし──」
オレは目を瞠った。栄口がそんなこと思ってるなんて思わなかった。
「あ……、変なこと言って、ゴメンね。オレは、泉と一緒にいるの、なんていうか、ウレシイっつーか、落ち着くっつーか、なんだ、けど、」
だんだん言葉がぼそぼそと小さくなっていって、俯いてしまった栄口をまじまじと見る。
つか、なんで赤くなってんの。
もしかして、オレとおんなじこと思ってた? ここんとこ栄口が落ちてたのは、オレと一緒にいるのがつまんないんじゃなくて──
「栄口…っ、」
オレは栄口の目をちゃんと見たくて、机の上に置かれていた栄口の左手首を掴んだ。
「……っ、」
驚いて、栄口の身体がビクッと揺れる。
オレはしっかりと栄口を掴まえたまま、真っ直ぐに栄口の目を見た。
「オレも、お前とおんなじ。」
今度は栄口が目を瞠る番だった。
「え…、…それ、って、…、」
困ってるような、泣いてるような顔してオレの言った言葉の意味を一生懸命汲み取ろうとしてる栄口。多分、どこまでが同じなのかと迷ってるんだ。
お互いに相手の出方を探る。そういったとこでオレたちは似ていた。石橋をこれでもか、と叩く。
でも、それじゃあ進まないことだってあんだ。
根性見せろよ、ココで退いたら男じゃねぇ!
オレは掴んでいた左腕を強く引いて、栄口を引き寄せる。
「わ……、」
バランスを崩したところを支えて、オレはそのままキスをする。
「……ッ!!」
「……好きだっつってんの!」
「え? え、えぇ…っ?!」
真っ赤になってただオレの顔を見つめる栄口。逃げないってことはイヤじゃないんだろ? 野郎とキスしてイヤじゃないってんならそれは好きってことじゃねぇの。
「気づけ、バカ!」
バカって言われたのがムッとしたのか、栄口の眉間にシワが寄る。
「バカって……、泉だって気づかなかっただろ!!」
そこまで言って、栄口はハッとした顔をする。
これだから栄口はまだまだ甘いぜ。
「へぇぇ、気づかなかったって、何。」
「……うぅ…、」
「オレが何に気づかなかったってぇ? 栄口勇人クン。」
意地悪く笑って、オレは栄口の顔を覗き込んだ。
「だ、だから…っ!」
栄口は、耳まで真っ赤にしてきゅっと唇を引き結んでいる。
ちょっとイジメすぎたかな? そう思った刹那。
「──ッ!?」
栄口がその唇をオレの唇に押しつけた。つまりは──キスされたってこと。
「こーいうコトだよッ!」
なんでそういう予想外のことをするかね、コイツは。
「えー? わっかんねぇな~。」
やっべぇ、にやけて笑いが止まんねー。
「もうっ!泉が意地悪だぁッ!!」
涙目になってる栄口の頭を宥めるようにポンポンとたたく。
「悪かったって。」
苦笑して言うオレを、栄口は上目遣いに睨む。
ったく。しょーがねーヤツ。
オレは栄口の耳元に唇を寄せて。
「──栄口、好きだぜ。」
囁くように言ってやる。
ビクリとしてオレの方を振り向いた栄口に。
オレはもう一度、キスを落とした。
作品名:kisses.【栄口総受】 作家名:りひと