kisses.【栄口総受】
02 あふれる感情を唇にのせて(水谷×栄口)
カーテンから漏れる陽の明かりで、珍しく自分が先に目を覚ました。
隣には、まだ穏やかな寝息を立てて眠る栄口。
昨日も昨日で無理をさせた自覚はある。
でも、一度知ってしまったらもう手離せなくなっていた。
欲しがるキモチに終わりなんてなくて。オレに懸命にしがみつく骨張った手だとか。見上げる潤んだ瞳とか。オレの名を呼ぶ掠れた声とか。触れるとうっすらと色づく肌、とか。
全部それはオレだけのモノだって、オレしか知らないものなんだって思うと、それだけできゅっと胸が締めつけられて、そのあとにふわふわと幸せな気持ちになる。
「さかえぐち……、」
大切に、大切にその響きを口唇にのせる。
ずっと、こうしていたい。栄口と離れるなんて考えらんない。そんなこと言われたら、オレはみっともなく、離れるのなんてイヤだって泣くかもしんないな。
起こさないように、指先でそうっと目蓋をなぞる。頬をたどって、顎のラインをなぞって、首筋へ。
あ、…痕ついてる。また怒られちゃうな。『アトつけんなって言ってんだろっ!!』って、真っ赤になって咬みつくように言う栄口ですらカワイイ、なんてオレ重症だ。
そっと、口唇でまるい額に触れる。それから、形のいい耳を軽く食む。うっすらと赤みの差す頬にも、やわらかく触れる。
最後に、軽く閉じられている栄口の口唇にキスをする……と、なんかの童話みたいに、栄口が軽く眉間にシワを寄せて目を覚ました。
「……お前、恥ずかしすぎ。」
目を覚ました第一声がそれ。ちょっと、も少しこう、甘い空気作ろうとないんですか、栄口サン。
でも、よくよく見ると、さっきキスをした耳朶が赤くなってて、なんだか瞳も潤んでる。
「……もしかして──起きてた?」
オレは恐る恐る訊いてみる。
したら、布団で顔を半分隠しながら、栄口は小さく頷いた。
わ、マジですか。超ハズい。
「えーっと。……いつから?」
「……名前、呼ばれたくらいから…っ」
それって、ほとんど最初っからじゃんかぁ!! 寝たフリなんてズルいってば。
かあっと頬に熱が集まる。だって、自分でもハズカシイことしたって自覚あんもん! 栄口寝てるしいいかな~、なんて思ったんだよぅ。
でも、栄口はオレ以上になんか赤くなってる。
え、なんで…? オレがぽかんと栄口の顔を見てると、栄口がちらりと上目遣いにオレの顔を見た。
「あんなふうに呼ぶなよ。反則だよ…っ」
え? えっ? どゆことっ?
栄口の言う意味が分かんなくて、混乱してたら、栄口の腕が伸びてきて。
オレはやんわりと抱き寄せられる。
「……っ」
「なんつーかッ、キモチ伝わりすぎて痛いんだよ。……幸せすぎて、困る。」
言いながら、もう耳元でグスグスと鼻をすする音が聞こえた。
それって……ヤなんじゃないよ、ね?
「それに、寝てる間にキスすんのもズルい。──寂しい、だろ。だから──」
照れ隠しなのか、栄口の腕にぎゅっと力がこもる。
「…するなら、オレが起きてる時にしろよ……、」
「…!!」
今、煽ったよね?! 煽られていいよね?!
「さかえ、ぐち…っ、」
名前を呼ぶと少し腕が緩んだ。
オレは栄口の顔を覗き込む。鼻先が赤くなっているのは、さっき少し泣いたからだ。
「……好き。」
「…ワカッてる。」
「スゲー好き。」
「……うん、」
「だから──」
「うん?」
「──キスしてい?」
「…………うん、」
目と鼻の先で、栄口がやわらかく笑う。
「さかえぐち、だいすき!」
オレは栄口の指に自分の指を絡めると、ありったけの感情を込めて、栄口にキスを落とした。
作品名:kisses.【栄口総受】 作家名:りひと