少女兎と獅子皇帝
白いシャツの隙間から覗くのは、ピンク地にチョコレート色のドットが可愛らしいブラジャー。
自分の知識内で女の子の下着っていうのは、グラビアと漫画くらい。
実際目の当たりにすると、あれ以上に興奮できるもんだなと思った。
湿り気のある声が摩れる布音に混ざって俺の気持ちを急かして
小さな桜色の唇が、自分の名前を紡ぐたびに心臓が飛び出しそうになる。
潤んだ紅い瞳に見つめられて、滑りの良い肌に触れて…そしてこの香り。
もう倒れそうなくらいクラクラしている。
誰だよ、教えといてくれよ!!俺、恥かくってのッ!!
「…ねぇ…はやく」
「ご、ごめん」
謝ってみたけど、これ以上どう急げば良い?
差し出されたショッキングピンクの避妊具を受け取って、慌てる俺は滑稽すぎる。
細くて綺麗な白い手が俺の下半身を撫でて、掴んで、それだけでもイキそうだってのに。
俺の目の前には二年の女の子、佐伯華が淫らな姿で教室の床に寝転んでる。
彼女は明るくて、可愛くて…誰にでも好かれる優等生タイプ。
数時間前に告白した。付き合ってほしいと。そしたらば、彼女は笑顔で「良いですよ」と答えてくれた。
答えて、俺の手を引いて…人のいない教室に連れて来られた。
「どうせ、体が目当てでしょ」と、真っ赤な目で見つめながら。
彼女は転校してすぐに噂になった。すぐにヤレるって。それも男女おかまい無し。
一年女子といちゃつくのを見たとか、運動部の部室で複数とか、何処まで本当かは分からないけど彼女の噂はスゴかった。
でも、俺が見た彼女は優等生で周囲の噂とは違っている。清楚で汚れを知らない百合の花、それが俺の見た佐伯華。
だけど、ほんの少し期待してた。噂が本当なら、自分にも望みはあるんじゃないかって。
フラれても、一度きりの思い出を…と。
俺はフラれた。予想通り。良いですよってのは、付き合う了承じゃなくて別な意味。
俺の下に彼女はいる。それもアダルトDVDみたいな格好で。
この展開に俺の頭は追いつかないけど、流れに身を任せろと頭の奥で悪魔な俺が叫んでいる。
天使はどうしたと突っ込みたいが、そんな余裕はない。
(据え膳くわぬは何とかだろッ!)
慎重に、だけど手早く袋の口を切ってゴムを取り出す。
ぬるっとした感触が、今からする行為をリアルにする。
ごくりと口の中で溢れる唾液を飲み込んで、自分のモノにあてが…
「…佐伯くん、ここはきみの部屋ではなく生徒会室という事を理解してくれているかい?」
冷ややかな男の声が、彼女に向けられる。
俺の事なんていないものって感じだ。誰の声?俺の声じゃないぞ。
振り向けば、いつもやかましく正義と規律を掲げる男の姿。
そいつが教室内に入ってくると、彼女はさっきまでの表情とは違う顔を見せる。
そして何事もなかったみたいに、体を起こして俺の傍から離れてしまう。
「小田桐くん、今日は早いんじゃない?」
「いいや、いつもどおりだ」
「…あ、の」
「ふーん…。ねぇ、数学の課題で聞きたい事があるんだけど」
「ねぇ、佐伯さん…?」
この間抜けな格好でどうすべきだろう。
この先どうしたらいい?教えてくれないかな、佐伯さん。
色んな気持ちを込めて、彼女を呼べば桜色の唇を三日月みたいにして
「まだ、いたの?」
甘い時間は終わりなのだと、可愛い顔で可愛い声で吐き捨てられた。
俺の知っている彼女は、どれが本当なんだろうかと思ったけれど、きっとどれもこれも本当で、どれもこれも嘘なんだ。
そう思ったら、淡い恋心も何もかも全部壊れた。
扉が派手な音を立て、生徒会室から駆け出して行く男子生徒。
制服が随分と乱れたままだが、立ち止まらせて指導する程、僕も鬼じゃない。
早く立ち去らせてやるのが、彼の為だ。
そしていい加減、いちいち対応するのにも疲れてきている。
風紀委員として、それはどうなのだと自問自答するが根本的原因を解決できなければ、この問題は解決されない。
「何度言えば、キミは理解するんだ」
全ての原因は彼女、佐伯華である。
先ほどのように、男子生徒を生徒会室に連れ込むのは今回が初めてではない。
「理解したから、ここでするんだよ」
さらりと言う彼女の顔は随分と子供じみている。
彼女の乱れた性について、指導した際、彼女から返ってきた言葉は「乱れてないよ。ちゃんと選んでる」だった。
何をどう選んでいるのだと、やめておけば良いのに僕は彼女と関わった生徒を調べた。
共通点等全く見えず、調べれば調べる程、僕は混乱した。
そして彼女は指導後はほぼ確実に、この生徒会室を使うようになった。
それも僕が来る時間にあわせて。
「…僕が来なければ、キミはどうしていたんだ」
「んー…そのまましてた、かな」
乱れた髪を手で梳きながら、彼女は軽く言う。まるで息をするようにだ。
このやりとりも、何度繰り返しているのか分からない。
「ねぇ、小田桐くん。私ってやっぱり最低?」
窓の外を眺めながら、僕に問いかける彼女の視線の先は見慣れた背。
銀色の髪の男子生徒が、複数の女子生徒に囲まれながら歩いている。
この質問をされるもの、一体何度目なんだ。
最低だと思っているなら、すぐにやめてしまえば良いだろうに。
「さぁ。それは、『彼』の言う事だ。僕には何とも言えない」
彼女の質問に、僕は最低だと答えることが出来ない。
僕は彼女を贔屓目で見てしまうから。
彼女がちゃんと選んでいるといった答えは、結局分からないが
その代わりに別な事が分かった。
僕が彼女を気にしているということだ。
「…まだ、時間あるよね。小田桐くん…」
眺めていた窓から離れ、僕の傍へと歩み寄る彼女。
知っているかい?キミが彼を眺める時、泣きそうな顔だってのを。
過ごす時間の大半を、彼の話題か、キミが僕を誘うかで占めているのを。
少し歪んだパイプ椅子に腰掛ければ、彼女は僕の膝の上に移動する。
そして、胸元をはだけさせたまま、しなを作り僕を誘う。
細い指が僕の唇をなぞり、「いいでしょ?」と彼女は囁く。
きっといつも彼女がしていた通りの仕草なのだと思う。
今までも、そしてさっきも。
最低か最低じゃないか、僕からすればそのどちらでもなく
彼女はとても「可哀想な人」だと思う。
僕を誘う紅い瞳の奥は、いつだって空洞だ。
なにも映してなどいないし、きっと何も感じてないのだろう。
「キミは…空っぽだな」
はだけたシャツのボタンを留めながら、その下の傷を見る。
爪で抉ったような傷は、場所を変えるだけで常に存在し続ける。
「空っぽだと思うなら、私のことを満たしてよ…」
そして彼女は、自分が空っぽだと知っている。
だからこそ、常に満たそうと足掻いている。
けど、誰も彼女を満たせないし彼女も自分を満たせない。
満たせない歯痒さを彼女は自分自身に向ける。
体の傷も、彼女が簡単に足を開くのも、歯痒さからの自傷行為なのだろう。
「…もっと自分を大事にすべきだ」
キッチリと首まで締めたシャツに、赤いリボンを結ぶ。
彼女は文句を言わず、ただ大人しく僕の行動に身を委ねる。
膝の上で小さな子供のように、大人しく。
「…考えとく…」
どうせなら、気がつかなければ良かったと思う。
自分の知識内で女の子の下着っていうのは、グラビアと漫画くらい。
実際目の当たりにすると、あれ以上に興奮できるもんだなと思った。
湿り気のある声が摩れる布音に混ざって俺の気持ちを急かして
小さな桜色の唇が、自分の名前を紡ぐたびに心臓が飛び出しそうになる。
潤んだ紅い瞳に見つめられて、滑りの良い肌に触れて…そしてこの香り。
もう倒れそうなくらいクラクラしている。
誰だよ、教えといてくれよ!!俺、恥かくってのッ!!
「…ねぇ…はやく」
「ご、ごめん」
謝ってみたけど、これ以上どう急げば良い?
差し出されたショッキングピンクの避妊具を受け取って、慌てる俺は滑稽すぎる。
細くて綺麗な白い手が俺の下半身を撫でて、掴んで、それだけでもイキそうだってのに。
俺の目の前には二年の女の子、佐伯華が淫らな姿で教室の床に寝転んでる。
彼女は明るくて、可愛くて…誰にでも好かれる優等生タイプ。
数時間前に告白した。付き合ってほしいと。そしたらば、彼女は笑顔で「良いですよ」と答えてくれた。
答えて、俺の手を引いて…人のいない教室に連れて来られた。
「どうせ、体が目当てでしょ」と、真っ赤な目で見つめながら。
彼女は転校してすぐに噂になった。すぐにヤレるって。それも男女おかまい無し。
一年女子といちゃつくのを見たとか、運動部の部室で複数とか、何処まで本当かは分からないけど彼女の噂はスゴかった。
でも、俺が見た彼女は優等生で周囲の噂とは違っている。清楚で汚れを知らない百合の花、それが俺の見た佐伯華。
だけど、ほんの少し期待してた。噂が本当なら、自分にも望みはあるんじゃないかって。
フラれても、一度きりの思い出を…と。
俺はフラれた。予想通り。良いですよってのは、付き合う了承じゃなくて別な意味。
俺の下に彼女はいる。それもアダルトDVDみたいな格好で。
この展開に俺の頭は追いつかないけど、流れに身を任せろと頭の奥で悪魔な俺が叫んでいる。
天使はどうしたと突っ込みたいが、そんな余裕はない。
(据え膳くわぬは何とかだろッ!)
慎重に、だけど手早く袋の口を切ってゴムを取り出す。
ぬるっとした感触が、今からする行為をリアルにする。
ごくりと口の中で溢れる唾液を飲み込んで、自分のモノにあてが…
「…佐伯くん、ここはきみの部屋ではなく生徒会室という事を理解してくれているかい?」
冷ややかな男の声が、彼女に向けられる。
俺の事なんていないものって感じだ。誰の声?俺の声じゃないぞ。
振り向けば、いつもやかましく正義と規律を掲げる男の姿。
そいつが教室内に入ってくると、彼女はさっきまでの表情とは違う顔を見せる。
そして何事もなかったみたいに、体を起こして俺の傍から離れてしまう。
「小田桐くん、今日は早いんじゃない?」
「いいや、いつもどおりだ」
「…あ、の」
「ふーん…。ねぇ、数学の課題で聞きたい事があるんだけど」
「ねぇ、佐伯さん…?」
この間抜けな格好でどうすべきだろう。
この先どうしたらいい?教えてくれないかな、佐伯さん。
色んな気持ちを込めて、彼女を呼べば桜色の唇を三日月みたいにして
「まだ、いたの?」
甘い時間は終わりなのだと、可愛い顔で可愛い声で吐き捨てられた。
俺の知っている彼女は、どれが本当なんだろうかと思ったけれど、きっとどれもこれも本当で、どれもこれも嘘なんだ。
そう思ったら、淡い恋心も何もかも全部壊れた。
扉が派手な音を立て、生徒会室から駆け出して行く男子生徒。
制服が随分と乱れたままだが、立ち止まらせて指導する程、僕も鬼じゃない。
早く立ち去らせてやるのが、彼の為だ。
そしていい加減、いちいち対応するのにも疲れてきている。
風紀委員として、それはどうなのだと自問自答するが根本的原因を解決できなければ、この問題は解決されない。
「何度言えば、キミは理解するんだ」
全ての原因は彼女、佐伯華である。
先ほどのように、男子生徒を生徒会室に連れ込むのは今回が初めてではない。
「理解したから、ここでするんだよ」
さらりと言う彼女の顔は随分と子供じみている。
彼女の乱れた性について、指導した際、彼女から返ってきた言葉は「乱れてないよ。ちゃんと選んでる」だった。
何をどう選んでいるのだと、やめておけば良いのに僕は彼女と関わった生徒を調べた。
共通点等全く見えず、調べれば調べる程、僕は混乱した。
そして彼女は指導後はほぼ確実に、この生徒会室を使うようになった。
それも僕が来る時間にあわせて。
「…僕が来なければ、キミはどうしていたんだ」
「んー…そのまましてた、かな」
乱れた髪を手で梳きながら、彼女は軽く言う。まるで息をするようにだ。
このやりとりも、何度繰り返しているのか分からない。
「ねぇ、小田桐くん。私ってやっぱり最低?」
窓の外を眺めながら、僕に問いかける彼女の視線の先は見慣れた背。
銀色の髪の男子生徒が、複数の女子生徒に囲まれながら歩いている。
この質問をされるもの、一体何度目なんだ。
最低だと思っているなら、すぐにやめてしまえば良いだろうに。
「さぁ。それは、『彼』の言う事だ。僕には何とも言えない」
彼女の質問に、僕は最低だと答えることが出来ない。
僕は彼女を贔屓目で見てしまうから。
彼女がちゃんと選んでいるといった答えは、結局分からないが
その代わりに別な事が分かった。
僕が彼女を気にしているということだ。
「…まだ、時間あるよね。小田桐くん…」
眺めていた窓から離れ、僕の傍へと歩み寄る彼女。
知っているかい?キミが彼を眺める時、泣きそうな顔だってのを。
過ごす時間の大半を、彼の話題か、キミが僕を誘うかで占めているのを。
少し歪んだパイプ椅子に腰掛ければ、彼女は僕の膝の上に移動する。
そして、胸元をはだけさせたまま、しなを作り僕を誘う。
細い指が僕の唇をなぞり、「いいでしょ?」と彼女は囁く。
きっといつも彼女がしていた通りの仕草なのだと思う。
今までも、そしてさっきも。
最低か最低じゃないか、僕からすればそのどちらでもなく
彼女はとても「可哀想な人」だと思う。
僕を誘う紅い瞳の奥は、いつだって空洞だ。
なにも映してなどいないし、きっと何も感じてないのだろう。
「キミは…空っぽだな」
はだけたシャツのボタンを留めながら、その下の傷を見る。
爪で抉ったような傷は、場所を変えるだけで常に存在し続ける。
「空っぽだと思うなら、私のことを満たしてよ…」
そして彼女は、自分が空っぽだと知っている。
だからこそ、常に満たそうと足掻いている。
けど、誰も彼女を満たせないし彼女も自分を満たせない。
満たせない歯痒さを彼女は自分自身に向ける。
体の傷も、彼女が簡単に足を開くのも、歯痒さからの自傷行為なのだろう。
「…もっと自分を大事にすべきだ」
キッチリと首まで締めたシャツに、赤いリボンを結ぶ。
彼女は文句を言わず、ただ大人しく僕の行動に身を委ねる。
膝の上で小さな子供のように、大人しく。
「…考えとく…」
どうせなら、気がつかなければ良かったと思う。