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犠牲など無い

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※ あるいは、こんな未来も。最終回枝分かれパラレル。




『犠牲など無い』


澄み切った青空が広がる。
初夏のリゼンブール駅に降り立ち、ブレダは清々しい空を仰いだ。
広い空。澄んだ空気。からりとした風。
田舎だなあ。
それが、心地いい。

穏やかな顔つきの村人らに混じり、改札を抜ける。
相変わらず何も無い駅前。ぽつぽつと木造の店が立ち、その前を小麦の袋を積んだ荷馬車がのんびりと歩いている。

前の駅で電話していたとおり、迎えが来ていた。
「ブレダさん!」
明るく手を振る少年。アルフォンス。
「よう」
片手を上げて応える。おお、でかくなって。
会うのは1年ぶりくらいか?あの時はガリガリだった少年は、すっかり健康を取り戻したようだ。
その後ろには、馬に乗った少年。
「よ!」
手綱をもったまま、ニカリと笑う。
「上からで悪ィな!久しぶり!」
人の頭より高い位置からの眺めは、そりゃあコイツにとっちゃ嬉しいだろう。なるほどな、馬か。
「よう。元気そうじゃねーか」
「たりめーだ。荷物載せろよ。ウチまではちょっと歩くけどいいか?」
「ああ、座りっぱなしで来たからな。歩く方がいい」
田舎道を三人と馬が歩く。
「いい馬だな」
「だろ?」
「そいつが脚か」
「おう。どこへでも行けるぜ」

アルは元の身体を取り戻した。
そしてエドも手足を取り戻した。動かぬ手足であったけれども。


左右に広がる麦畑を過ぎ、羊の点在する牧場を過ぎ、暑くなって上着を肩にかけた頃、ようやく丘の上の家が見えてきた。
「オレ先に行ってるな!」
せっかちは相変わらずだ。
片手で手綱を軽く打つ。馬は素早く反応し、並足から速足へ。後ろ姿の、ケツが鞍から跳ねて無い。ちゃんとふんばれているということだ。
「機械鎧か?」
「いえ、歩行補助具みたいな」
「嬢ちゃん、頑張ってるだろ」
「楽しそうですよ」
「だろうな!」

ロックベル家に着いた時は、エドはもう馬をテラスの柱に繋いでいた。黒犬デンが足元で尻尾を振っている。
馬の尻にくくりつけたブレダのトランクを外すのに、片手で少し難儀しているようだ。が、こちらが手を出す前に、皮ひもはするりと解ける。アルも分かって結んでいるということか。
それでも、トランクを持ったまま歩くのは少し難しいらしい。ひょい、と左足を振り上げて、上半身を揺らしてバランスを取り、また一歩。
ブレダは「エド!」と呼びかけ、エドの歩みを止める。
「自分で持つさ」
「悪ィな」
「何で」ブレダは笑う。「階段は、手助けいるか?」
「大丈夫」
玄関ポーチの短い階段を、左手で手すりを掴んでひょこ、ひょこ、と登る。それを追い越してアルが先に扉を開ける。
「ただいまー!」

冷えた井戸水に柑橘の汁を垂らしたのをコップに注いでもらう。
一気に飲み干して、一息つく。爽やかな香りが鼻から抜ける。
「もう一杯どうです?」
「おう、もらおうか」
ウィンリィはコップを受け取り、素焼きのポットから水を注ぐ
「そんでおっさん。こんな田舎町に何の用?」
オレもおかわり、とカップを突き出しながらエドが聞く。
「お前らの顔見に」
「マジでそれだけ?」
「悪いか」
ちょいと睨んでやると、
「サンキュー」
生意気なガキは素直に笑った。

「マスタングさんはお元気ですか?」
アルはブレダから受け取った土産の包みを丁寧にほどく。中から菓子が出てきて、ウィンリィが小さな歓声を上げる。
「まー、相変わらずぼやいているな」
「リザさんは」
「も、相変わらずだ。まあ、皆元気にやってるよ」
軍部は相変わらずごたごたしているが、まあ特段事件も無いし、こいつらが気にすることでも無い。とブレダが思っていることを、三人も分かっている。
「ここに来る前に、ハボックのところにも寄ってな」
むしろそっちがこの休暇の主な目的で。
「ハボックさん!どーしてた?」
「凹んでた」
正直に言ってやる。と、思い出した。
「ロックベル嬢、ハボから伝言。自走車椅子の設計図とか、ありがとう、だと」
「ほんと!?」
ウィンリィが、さっと前のめりになる。
「でも、いらんとさ。そんな便利な物があると、腕までなまっちまうからだと」
「そう」
しゅん、と姿勢を戻す。
「だから、老後の楽しみに取っといてやってくれ。まだ何十年もある。スゲーの開発してくれよな」
「はい」
ウィンリィは眉尻を下げて、笑った。

エドとウィンリィはそこで席を立った。左足につけている補助具はまだ開発途中で、長く続けて付けられないのだという。
「ウィンリィ、やっぱズボンの外側につける奴のがいい。汗かいちまうし」
「そっかー。これから暑くなるから、肌のためにもその方がいいのかなー」
神経が全く通っていないので、暑い、痛いも感じない。擦れて出血すると面倒なので、生身のメンテも考えて造らないといけない。
補助具は機械鎧と違い、神経電圧を拾うのではなく、もっとローテクに筋肉の動きと反動を利用している。着脱に負担は無いが、機能の制限も多い。
ウィンリィと入れ替わりに席に着いたピナコが解説する。
「手の方は全く?」
「肩から動かないからねえ」
ぷらぷらとぶら下がるだけの腕。ぶつけた時に怪我をしないようにか、機械鎧の頃と同じように白い手袋をしている。覗く手首は干からびたように細い。
「でも、筋肉が固まっちゃうと良くないから、マッサージしたり、兄さんもずっと大変だよ」
静かにアルが言う。
あえて、ブレダは口にする。
「機械鎧の方が、便利だな」
そして、分かりきった答えを続ける。
「それでも、かけがえの無い手足だ」
作品名:犠牲など無い 作家名:utanekob