自鳴琴
このオルゴールのメリーゴーランドのように戦いと平和を繰り返しつつも、誰も外見が全く変わらないでいる中で、博士だけが一人歳を取っていく。その様を目にし、何も思わないといえば嘘になる。
が、博士の老いが進んでいくのと比例して、不思議と、心の棘はなりを潜めた。
代わりに大きく育ったのは、いつまでも元気で長生きして欲しいという望み。実の家族を失った今となっては、博士はまさに「もう一人の親」である。出来れば、もう不眠不休で研究や読書に没頭なんて無茶はしないで欲しい。
サイボーグ技術を会得した科学者は他にいるかも知れないが、アイザック・ギルモアは、世界でたった一人しかいないのだから。
「……今回は、何度徹夜を止めることになるかな」
ぽつりとそう呟いたちょうどその時、キッチンから玄関に向かって、ぱたぱたとスリッパで駆けるフランソワーズの足音がした。
程なくして、玄関のドアが開く気配がする。それを耳にしたピュンマも、くつろげていた襟元を正し、ネクタイを締め直して、立ち上がった。
――博士が、帰って来た。