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璃琉@堕ちている途中
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恋獄、あるいはスウィートララバイ

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とろとろした眠りであった。
何だか、色々な夢を次々に見た気がする。けれど、何一つ覚えていない。
ふ、と目蓋を開けてみる。そこには、自分と同じ色の髪があった。視線を上げると、白い皮膚に閉じた目蓋。薄く開いた唇。
ああ、と思い出す。私は、またこの男と寝てしまったのだと。黒い革張りのソファの上で二回、その後の風呂で一回、自分はいかされてしまったわけである。
考えたら、喉がヒリヒリして来た。腰も怠いし、こんなことで明日(いや、とっくに今日なのだが)の業務は遂行可能なのだろうか。救いは、この男が避妊を欠かさないこと、中で果てないことであった。
どうしてこんな関係になったのか、わからない。こうなる度に考えるが、わからない。
理解しているのは、この男は自分をとても丁寧に、優しく抱くということだった。無理をさせられたことがないのだ。妙な格好をさせられたりアブノーマルな行為に走ることがないし、自分に受け入れる準備が整わない内は絶対に中には入らない。そっと、思わず焦れったくなるような手つきで触れるのだった。そして、いつまでも慣れない自分を、柔らかく肯定してくれる。終わると大抵意識を失ってしまう自分を、世話してくれる。そう、今のように。

「はぁ………」

着た覚えのない寝間着を、私は纏っていた。下着まで着けている。髪も乾かしてから横になったようで、サラサラとした質感は失われていない。
男とて、辛いはずなのだ。特に先刻は宣言通り激しい行為に及んで、終わって自分を抱き締めた腕に力は入らず、息も上がっていた。それでも、私は普段と何ら変わりのない状態だ。男がそうしてくれたとしか、考えられない。
男は、どうして私を、こんな風に扱うのだろうか。
恋人だと思っていると、確かに言った。"恋"をしたのは、私だけだと、縋るように伝えて来た。私が弟を愛していることを、弟しか愛していないことを知りながら、男は尋ねたのだ。私も、男に"恋"しているだろう、と。
答えることは、出来なかった。ただ、また一緒にバスタブに浸かって、シャボン玉でも飛ばして遊べたら良い、と感じただけだった。

「何で、こんなにしてくれるの…?」

考えても、結局答えは出ない。だったら、せめて教えて欲しかった。
眠っているのを承知で、むしろ眠っているからこそ、私は男の前髪を梳きつつ、囁いた。
すると、

「言ったじゃない」
「っ…!」
「"恋"してるから、だよ」

指を掴まれる。次いで、開かれ輝く紅い煌めき。
驚く私を尻目に、男は楽しそうに笑った。

「波江が好きだからだよ。大切にしたくなるからだ。波江が気持ち良くなきゃ意味ないから、無理はしない。当然、避妊だってするさ。何回しても慣れないのは、むしろ可愛い。もっと、感じて欲しくなる。そりゃあ、終わった時は俺もしんどいよ?でも、受け入れてくれる波江の方がきっと辛いし、幾らだって世話したくなっちゃう」

まるで心を読んだような言葉達に、私は呆気に取られていた。そして、じわじわとその台詞の恥ずかしさに頬を赤く染める。
男はそんな私の指をすりすりと撫でつつ、おどけて言った。

「まぁ、でも、そうだね。たまには、上に乗ってくれたり、コンドーム着けてくれたら嬉しいかな」
「………い、」
「冗談だって。君を抱けるだけで、俺は十分」
「良い…わよ…」
「………はい?」

布団を引っ張り上げて顔を隠す。柄でもない答え方になってしまった。案の定、男に穴が開く程見つめられているのを感じる。
しかし、男は小さく声を上げて笑うだけだった。

「可愛い」
「…止めてよ」
「止めないよ、可愛いんだから」
「五月蝿い」
「今すぐして欲しくなっちゃうなー」
「っ、はあ!?いい加減にしてよ!」

ぐい、と力が込められる。あっという間に私は男の腕の中だった。
まさか本当にする気なのかと声を荒げるも、男は「流石に出来ないよ」と笑う。

「波江がして欲しいんなら、頑張らないこともないけど?」
「…無理言わないで」
「だよね。声掠れてるし、腰も庇ってるし…」

男は労るように、私の体側をさする。そこには、性的な意味は含まれていない。ただ、触れた箇所からじんわりと温まるようなものだった。
そして、首筋の赤い花に口づけて、ポツリと零したのだ。

「気持ち良かった?」
「…言わなくてもわかるでしょう」
「言ってよ」
「…良くなかったら、あんなに…声出さないわよ。一緒に…なんて言わない」
「痛くなかった…?ボロボロ泣いてたけど」
「平気よ、あのくらい。それに、泣くのはいつものことじゃない…」
「…そっか。安心した」

ほっと息を吐き、男は私を抱く腕の力を緩める。そこに私は、男の優しさを改めて見た気がした。
だからなのか、私も痛む喉の辺りに引っ掛かっていた疑問を、男へと差し出せた。

「貴方…は…?」
「…ん?」
「貴方は、気持ち良かった…?」
「…あはは、うん。すっごく、良かった」
「爪立てて、引っ掻いたりして、ごめんなさい」
「馬鹿だね、君は。男はね、好きな子にそんなことされると、それでいけちゃうくらいなんだよ」
「…貴方も?」
「勿論。てか、波江の反応はいちいち…煽るというか…やっぱり可愛いというか…うん…俺、凄く好き」

図らずも、常とは異なる覚束ないその物言いが、私の胸をきゅんと締めつける。
男は、心なしか恥ずかしそうに軽く咳払いをすると、話題を変えるとばかりに、声を弾ませた。

「あんまり君が良くてさ、本当、加減出来なかったんだよね。おかげで、くたくただよ」
「だったら、ちゃんと寝なさいよ」
「…だろ?ところがね、」

目ぇ覚めちゃったんだよー。
男は溜息を零し、茶目っ気たっぷりにウィンクをした。…様になっているのが、癪に障る。

「だからね、波江。何か話して?」
「………子供か」
「君はお母さんかぁ」
「死ね」
「勘弁」

口角を上げたまま、男は目を瞑り聴く態勢に入ってしまう。
私は端正につくられた顔を眺めつつ、長い溜息を吐いた。

「………何を、話せば良いの」
「何でも。個人的には、小さい頃のこととか聴きたいなぁ」
「……………」

請われて、私は幼い時分を顧みる。
だだっ広い、静まり返った部屋に、私と弟はいつも二人きりだった。贈られ続ける人形を嫌い、美味くもない食事を口にし、することがないから勉強をした。
そんな昔を語るのは、躊躇われる。

「話したく、ないわ」
「………そう。それなら、仕方ないね」
「……………」

てっきり不満を象るかに見えた唇は、変わらず弧を描いていた。それは、嫌味なものではなく、慈しむような風合いを持っている。
支えるように後頭部に手を添えられ、私の口は、勝手に動いてしまった。

「っ…誠二しかいなかったのよ…話し相手も、食事の相手も。添い寝してくれる母親もいない、どこかに連れて行ってくれる父親もいない。家政婦の作る煮物が甘過ぎて…っ、全っ然、美味しくないのに…そればっかり…!」
「なーみえー…?」
「ん、っ…」

唾を飛ばしそうな程に回っていた唇に、人差し指の腹が押し当てられる。軽いけれど、確かな意志を持ったタッチだった。
ハッと我に返り、指の主を見やれば、その双眸には切なげな色が湛えられていた。