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可愛くないけど

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えっと、ちょっと待って。
君さっき俺が女なら死んでも無理、みたいな事言ってなかったっけ?勿論女でなくても最低だと思ってるんだよね、いや最低って言ってもこうして会って呑んでる間柄な訳だし、心底嫌っていたらそんなのは無理な訳だし、ある程度の好意があるのは知っていたというか期待していたけれども、そんな、期待とか。
期待、させないで欲しい。

なのに彼の回らない筈の舌は回らないまま回り続けて。


「いじゃあしゃんはこう見えて一途な人ですからねぇ、ほら人間愛はずっと変わらないし。それはとても深くてそのままを理解して受けとめようとしていて、その為にならどんな犠牲も厭わない、たぶん自分でさえも。それって良い事かどうかはわかりませんけど、でも、もしもそれがただ一人の個人の為にそそがれるなら、それはきっと見ているだけで泣けてしまう位に美しい事だと思うんですよね。そんないじゃあしゃんはその人以外にとっては最低な人かもしれないですけど、その人にとっては最高だと思うんです。僕は園原しゃんが好きですけど、情けない話ですがそこまででは無い気がしてあぁ僕って本当に情けにゃい、でもだから、いじゃあしゃんみたいな人と恋ができたら、きっとぼくは、そのひとは、…、」


段々と彼の声は小さくなっていき、そのままこてん、と意識を失ってしまった。


俺も出来る事なら今すぐ意識を失いたい位だ、ちょっと待って、本当にちょっと待て。

何の裏も目的も無く、ただ誰かと会話を楽しむ事は俺にとって実は結構大事で希少で、息抜きは誰にだって必要って事で。だけど俺の性格というか性質、生き方は少々特殊なのでそれを出来る相手はかなり限られる。俺が相手を認めて相手が俺を知った上で受け入れて。人生を多少なりとも変える様な被害に合ったにも関わらず、呼び出せば親しい知人として対応してくれる帝人くんはかなり貴重な存在だ。
高校生の頃はまだ普通の範囲内だった童顔は大学生から社会人になっても変わらずどんどん範囲外に、その頃からずっと見てきて付き合ってきて、貴重な存在になるにつれてどんどん可愛げが無くなっていって。

でも俺の中ではどんどん可愛い存在になっていって。

社会人なのにキョトン、とした顔が似合う所も胸という単語も口に出来ない所も、口を開けたまま固まる彼の阿呆面もだん!と机を叩いたはいいが拳の方を痛めて挙げ句涙目になっている情けない所も、ですよ?って語尾を疑問系にする所とかもう、本当にもう、可愛いんだよ自覚しろよ。

貴重どころの話じゃない、その程度だったらどんなに良かったか、好きだ。

でも君がずっと園原杏里に淡い恋をし続けている事を知っている、またそんな君のまっすぐで一途な澄んだ思いやそこから出てくる言葉が好きだ声が好きだ表情が好きだ、見ているだけで泣けてしまう位に美しいそれを側で見続けていられるのなら俺はこのままで構わない、だから、だから可愛くないって言い続けて、言い聞かせて、自分の気持ちを、欲を、必死に抑えてきたのに。

可愛くて仕方がない、その想い人を見ればふにゃふにゃといびきとも言えない声を発している。
近寄って耳をすませてみれば、

「いじゃあしゃ…、あたま、らいじょうぶ…れすか…びょういん…」
「…」

やっぱりそういう意味じゃないか、可愛くない。
仕返しに無防備な頬を引っ張ればいひゃい…とこぼす姿に愛しさが募って顔が緩む。

「…あーあ、いいのかなあんな事言っちゃって。俺が本気になれば帝人くんなんか一発だよ。」


覚悟しとけ。今は夢の中にいる可愛くないけど可愛い想い人に、まだ届かない宣戦布告をひっそりと告げた。
作品名:可愛くないけど 作家名:湯鳥