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ラストダンス

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「……俺、お前が好きだよ」
 ゆっくりとしたバラードは、ひたすらに穏やかで、優しい音色だ。
「初めて会ったときは最悪だったけど、それからいつも俺を助けてくれたよな。俺が無茶して城を飛び出しても、止めずに付いて来てくれた。俺がどこにいてもお前は俺を見つけ出して、弱気な俺を立ち上がらせてくれた。
 お前はどんどん成長して、強くなっていった。それが俺のためだと分かって、俺もお前のために強くなりたいって思った。お前がいれば、何があっても頑張っていけると思う。ずっと一緒にいてほしいんだ。
 お前が好きだよ。……友だちとして、すごく大切だと思う。ごめんな」

「俺は、お前の気持ちに答えられないよ」

 その瞬間の高揚を、どう説明したらいいだろう。
 世界は真っ白に染まったが、すぐに色と音を取り戻し、変わらずにユーリの顔がそこにあった。今にも泣きだしそうな愛しい王の顔が、そこに。
 信じられないことに、自分は笑っていた。熱いものが胸をこみ上げて、視界が滲んだが、確かに笑っていた。
「僕こそ、お前の親愛なる気持ちに答えられなくて、すまなかった」
「………ヴォルフ」
「なんてへなちょこな顔をしてるんだ、ユーリ。僕たちは互いに片思いをしていた。そしてそれが、互いに叶わなかった。それだけだ。そんな顔をするなと言っているだろう」
 もはや動こうとさえしないユーリの手を掴み、腰を引き寄せて、強引にヴォルフラムは踊り続けた。いつのまにか周りに空間ができていて、人々は遠巻きに2人を見つめていた。
「お前の気持ちは分かっていた。だが、敢えてお前が答えを出すのを待っていた。そう言わせてくれ。お前の婚約者という立場は、とても居心地がよかった。そこを離れたくなかったんだ」
「ご…ごめん、俺…、ずっとお前をはぐらかして、お前は真剣に俺のこと…想っててくれたのに、でも俺、恐かったんだ、言ったらお前が離れていきそうで恐かったんだ…!」
「分かっている。僕もだ。言っているだろう、僕たちは互いに片思いをしていたのだと。なぜお前だけが、申し訳ないと思わなければならない?さぁ、踊ろう。失恋記念だ。僕たち2人のな」

 ラストダンスも終わりが近いのか、バラードはさらにゆっくりと、静かになっていく。いわゆるチークというやつだ。公式の舞踏会では本来ない題目だが、王とその婚約者のために、気をきかせてくれたのだろう。
 ヴォルフラムは遠慮なく、愛しい王に身を寄せた。ユーリは戸惑いながらも、ヴォルフラムの背中に手を回し、やがて力を込めて抱き寄せる。
「……幸せになれ。ユーリ、幸せになると約束しろ。お前を世界一の幸せ者にするはずだったこの僕を、ふったんだからな。僕なしでも幸せにならないと、許さないぞ」
「な、何でそんなこと言うんだよ。そんな別れの言葉みたいなの、言うのはやめろよ。俺たちはずっと一緒だろ?これからも、2人で眞魔国を盛り立てていくんだろ?もし、もしだよ、離ればなれになることがあっても、心はいつも一緒だよ。そうだろ?な、ヴォルフラム」
「そう…」
 頬を寄せる肩は、逞しく温かかった。初めて間近に感じる体温が愛しくて、涙が出そうだった。
「心はいつも一緒だ」
 2人のたどり着いた答えを祝福するかのように、バラードはいつまでたっても鳴りやまなかった。ぐすっとユーリが鼻をすする音がして、苦笑してしまう。しっかりしろ、へなちょこめと声をかけると、へなちょこって言うなといつもの答え。
 幸せだった。この上なく、幸福だった。
 最後にユーリがくれた奇跡に感謝しよう。それだけで、自分はこれから生きていける。彼の婚約者という立場でなくても、胸を張って、彼のそばで生きていけるだろう。

 やがて音楽は終わり、2人のラストダンスも終わった。
 身を離すが、ユーリが手を放さない。指先をゆるく掴んだまま、また泣きそうな顔をして、何か必死な眼差しでヴォルフラムを見つめる。この手を離したら、もう二度と今までのような関係に戻れなさそうで、恐いのだろう。
 ヴォルフラムは目を伏せて笑った。笑えるくらい強くなった自分が、少しだけ誇らしかった。ユーリの指先を両手で包み、額を当てて祈りを捧げる。
 彼の母親を侮辱して平手打ちされたあの日からはじまった僕たちの関係は、ここで終わる。けれど、何を恐れることがある?僕たちは2人で様々な苦難を乗り越えて、ここまで来たんじゃないか。片思いが叶わなくて、それでもこんなにも離れがたいほどに、深い絆で結ばれているじゃないか。心はいつも一緒、だ。
 ゆっくりとユーリの手を放す。
 深く礼をとり、背を向けて歩き出す。
 後ろで彼が身じろぎするのが分かったが、振り返らなかった。自分も泣きそうになって、口に手を持っていくのを堪えるのが精一杯だった。
 走りだしたいのを我慢して、一歩一歩、ユーリから離れてゆく足を踏み出す。

 僕たちは変わるだろう。今までとは確実に違う、何かに。
 以前はただ恐ろしかった、その変化の道程に、乗り出す勇気をくれたのはユーリだ。彼はこの国を変え、この国の民を変え、自分を変えた。未来を取り戻し、過去を修正し、現在を変えてゆくことができると教えてくれた。
 ヴォルフラムは姿勢を正し、まっすぐに前を見つめた。頬を濡らして溢れてくるものを拭おうとさえしなかった。
 その涙は、生まれたての炎のように熱く、力強い光の色だった。
作品名:ラストダンス 作家名:あおい