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ベッドタイム・ストーリー

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 いつの間にか落ちていたらしい。
 意識が飛ぶ前の激しい熱は嘘のように鳴りを潜め、今はひたすらに優しく柔らかなぬくもりのみが在った。
 ふわふわとした暖かさと眠気に、再び夢へ誘い込まれた意識が覚醒へ傾いたのは、ほんの僅かな感触を認識したからだ。髪の一束を誰かに触れられている。
 体の鋭敏さはまだ残っているらしく、撫でられているのは髪の末端だというのにこそばゆい。身じろぎと共に意図せず小さく声が出て、その手が止まる。

「……悪ぃ。起こしたか」

 おでこよりも上のほうから低い声がする。鼓膜より骨格を通して浸透するそれはバツの悪そうな響きを含んでいた。
 ゆるゆると目を開ける。まず飛び込んできたのは筋肉のしっかりとついた胸板。浮き出た太い鎖骨。せり出たのど仏。そこから上を見るには密着しすぎていて、ハンガリーは肘をついて重たい体を少し浮かせた。
 暗がりの中、間近に見るプロイセンの顔は、普段のものや先ほどまでのそれを動とするならば、今はまさしく裏の、静の一色でハンガリーを見上げていた。
 囁かれた言葉に否定の意を込め、ゆっくりかぶりをふると、髪の一部が時折ぴんと張るのがわかった。掴まれた髪の末端は、プロイセンが伸ばした、先ほどまで枕にしていた腕の先で再びいじられている。どうにも落ち着かない。
 離してよと抗議すれば、声が掠れていた。馴染みのない自分の声が少し可笑しい。支えにしてない手で喉を押さえ軽く咳きをし、あーと調子を確かめる。
 と、硬い手がハンガリーの頭に触れた。いつの間に起き上がったのか、プロイセンは緩やかな強制力でハンガリーを引き寄せる。視界の端に清涼飲料水のペットボトルが見えた。
 強く唇を重ねられ、こじ開けられた口内に生温い液体が満ちる。さらさらとしたそれを水と認識し嚥下し始めると拘束力は弱まったが、注がれた全てを飲み終えるまで触れ合う箇所は固く塞がれ、一息ついたのは口の端から零れた水も舐めとられてからだった。

「…は…ぁっ…。自分で…飲めたのに」
「さっきよりマシになったな」

 ケセと笑う声はいつもと同じなのにやはり彩りが冴えない。
 目覚めかけた熱を隠して、ハンガリーはなるべくいつもの調子で、お陰様でと二重の意を込めて返した。

作品名:ベッドタイム・ストーリー 作家名:on