ベッドタイム・ストーリー
長く生きていると、時折波のように訪れるものがある。不安や困惑、そういったものが混ぜこぜになって、唐突に。
寝て起きれば去っている程度の小さい波ならばともかく、時にどうしようもなく大きく感じるそれは、心も体付きも幼かった頃にはなかったもので、いつ頃からやってくるようになったか定かではない。
とにかく誰かにそばにいて欲しい。独りになりたくない。繋がっていたい。
やりきれない寂寞を何も言わず受け入れて欲しいと思う相手は、家族や親友、時に恋人等、人によって違う呼び方はされるが心を許した間柄であることは間違いないだろう。
プロイセンとハンガリーも、互いに互いがそういう相手であった。
何かしら精神的に参っている時に、強がりたがれば強がらせ、甘えたければ甘えさす。それで元の調子に戻るのなら砕身も苦ではない程度に。
今日はプロイセンが一際大きな寂寥感に襲われたらしい。
強く引き結ばれた唇は何も語らず、ただただ強くハンガリーを閉じ込める腕が代わりにそれを訴えた。
がむしゃらな抱き方だった。全身で泣いて甘えて縋って、ここに在るぞと叫ぶかのように激しかったのは波の大きさの表れだ。ここ数年来無かった分一気に訪れたのかもしれない。
今褥を共にして、静かなのはその反動だろう。ハンガリーを気遣う程度には復活したようだが、まだ完全ではない。
落ち着いたか尋ねれば、んー…と曖昧に返された。
プロイセンはサイドテーブルにペットボトルを置くと再びシーツに沈み、先ほどと同じく枕に沿うように腕を投げ出す。胸元近くのシーツを二、三叩いてハンガリーに横になるよう催促してきた。
顔が見れる程度の距離でハンガリーも寝転がる。枕と肩の間、首の下にプロイセンの腕が当たり丁度いい位置を見つけて落ち着くと、空いたもう片方の腕に閉じ込められた。
今回はずいぶん根っこが深いらしい。とはいえ検討はついている。ハンガリーも不安にさせる不確定要素。
「……なんか、怖くなっちゃったの?」
「……ん」
「そう……」
直接には問わず聞き出せば、短いながらも肯定の返事。
意気消沈気味な頬を撫でれば、その感触を追い求めるように紅の目が閉じた。
作品名:ベッドタイム・ストーリー 作家名:on