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ベッドタイム・ストーリー

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「ねぇ、もうちょっと足元の方に下がってくれる」

 ハンガリーの表情が輝く。良い事を思いついたという時にするそれは、幼い頃、悪戯を提案した時の顔のままで、プロイセンは嫌な予感がした。

「……毛布から足出ちまう」
「足曲げればいいだけでしょう。ね、下がって」

 お願いの形を借りた命令形にプロイセンはおとなしくベッドの足元の方に体をずらすが、やはり足の先が毛布から出てしまった。
 毛布に収まる程度に抑えて曲げても、どうしてもハンガリーの足と触れ合ってしまう。ハンガリーが少し体勢を変えてくれれば話は違うのだが、その気配も無い。
 一度静まった熱がゆるゆると活動を再開し始める。
 雰囲気的にそんな流れでもないし、どうにか気を逸らそうとしたプロイセンだったが、それも数秒後にあっさり瓦解した。

「ちょっ、おま」
「並んで横になってるのに、いつもと同じアングルなんてつまらないもの」

 うふふ~と笑うハンガリーの両腕に包まれ、引き寄せられたプロイセンの顔は柔らかな感触を真正面から感じていた。
 確かに、先ほどまでプロイセンがしていた腕枕の体勢だと、起きて立っている時とそう変わらない目線だろう。
 だからってこれは、ない。幸せだけど、ない。女に腕枕で抱きしめられるなんて。子供じゃないのに。

「あのな……、この体勢は男がやる浪漫の」
「女が男の浪漫追い求めちゃいけない? 駄目?」

 ふよふよの感触に耐え見上げれば、あどけない顔で純粋に問い返すハンガリーがいた。
 あまりに無垢な目と、あとなんか幸福感溢れる色々に負けて、プロイセンは降参した。

「……駄目じゃないです」
「よろしい。もう寝なさい」

 眠れてなかったんでしょ、最近。と、あっさり見抜かれていたらしい事実を言われ、もう一戦という雰囲気の芽を完全に潰される。無意識でこれだ。敵わない。
 仕方ないのでハンガリーの背中にただそっと手を回す。ついでに髪も一緒に抱きこむ。やわっこいぬくもりとすべらかなその手触りだけを感じる、その事だけにひたすら意識を向けて、それ以外のなんやかやは黙殺して。でも、

「目ぇ覚めた時、勃ってたら責任とってもらうからな」

 生理的現象までは意識だけでどうこうならないので念を押しておく。ハンガリーはあえて返事をしないで、ただひたすらプロイセンの髪を撫で続けるばかり。
 ものの見事にやり込められたが、先ほど迄燻り続けた鬱屈とした重みが綺麗さっぱり消えているのでよしとしてやろう。
 優しく撫で続けるハンガリーの手が暖かくくすぐったくて、プロイセンの意識は次第にまどろんでいった。



『ベッドタイム・ストーリー』
作品名:ベッドタイム・ストーリー 作家名:on