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ベッドタイム・ストーリー

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 消失。

 亡国となり半世紀以上を経て尚プロイセンは存在している。だが国家の三要素、領土・人民・権力の内、領土・権力はとうに無く、プロイセン出身の人民も最早数は少ない。
 元々国としてではなく修道会、つまり人の集まりし拠所のひとつとして生れ落ちた身。
 国が解体した時であっても存在せしめたのは、そういった由来があったからかもしれない。
 或いは弟であるドイツの半身としての要素が強いおかげかもしれない。
 不安を、確証のない、耳に心地いい題目で懸命に誤魔化してやり過ごしているのだ。

 当人の性格もあってか、普段は微塵もそんな素振りは見せないが、やはり時に言い知れぬ恐怖が鎌首をもたげるのだ。
 今、不安定なのはプロイセンであってハンガリーではない。
 予想通りとはいえ、引きずられて揺らぐ訳にいかない。

「……私も…怖い、な」

 紅が再び現れる。感情の振れ幅がそこに僅かに浮かんでいた。
 考えうる存在理由を並べて励ます事も考えたが、同調し、静かに降り積もった分いっそ全部吐き出せてしまう方を選んだ。
 嘘は無い。
 ハンガリー自身も幾度かそれを考え、怖くなって動けなくなる程に不安になる事があったからだ。

「……なあ」
「ん?」

 ハンガリーを抱きしめる腕に力がこもる。
 深く根を張るその淵を覗き込むようにハンガリーはまっすぐにプロイセンと向かい合う。
 今ハンガリーを見つめる不安の色は、彼女自身の持つそれと同じものだ。

「俺が消えても、忘れないでいてくれるか?」
「……」
「忘れないでいてくれたら、お前の記憶の中の『俺』はお前と生きていられるだろ。だったら……」

 ああ……そんなことを考えていたのか。

「忘れないよ」
「ハンガリー…」

 やせ我慢のか細い安心に縋るプロイセンが、無性に腹立たしかった。

「忘れないで、時々思い出すの。私とプロイセンとの思い出。時間が経つにつれてどんどん美化されてくの」
「ハンガリー?」

 流れを変えるように。ハンガリーは声の調子も意識してゆっくりと紡ぐ。

「あの時ああだった、こうだったって思い返すのが、ちょっとずつ綺麗な思い出ばかりになって、私の中のプロイセンがどんどん都合のいい男になってくの。
 いつかおばあちゃんになる頃には、もう記憶の中のプロイセンは誰ってくらい違う人になってるわね。ビフォーアフター比べたいくらいに。どう?」

 飲み込むまでに時間がかかったのか、やや面食らっていたプロイセンに違う色が広がる。
 憮然とした表情と連動して、返された声が一層低く不機嫌になっているのがわかりやすかった。

「……面白くねぇ。俺が俺の偽者になってるあたりが特に」
「私もよ」

 それはそれは楽しそうにしゃべったお陰か、プロイセンの紅がまん丸になる。
 私にとって都合のいいだけのプロイセンなんてプロイセンじゃない。
 うざくて馬鹿でずる賢くてお調子者で行儀が悪くて突拍子も無いことするうざい男がプロイセン。大事な事なので二回言いましたとも、ええ。
 長く生きる者故の、記憶の改竄なんかで捻じ曲げたくない。だから――

「面白くないから、一緒におじいちゃんになってよ、ね?」

 ぶっはとプロイセンが吹き出す。
 よし笑ったと心中でガッツポーズをするものの、プロイセンはしばらく喉をくつくつと鳴らして笑い続けるばかり。
 それがあまりにも長く続くものだから、段々ハンガリーの機嫌が斜めに傾き始める。

「ちょっと、笑いすぎじゃない」
「わ、悪い。でも…お前、そう、くるとは思わなかった」

 涙すらうっすらと浮かべ、若干酸素が足りなくなってきたのか顔に朱すら差してなお、プロイセンは笑い続けた。
 いい加減にしろとばかりに頬を撫でていた手に力を込めると、ようやく笑いが止まった。強制的に止めさせた、という方が正しいかもしれない。
 まあそんなことはどちらでもいい。

「返事は」
「お前がヘコんだ時にしてやるよ」

 ほら、こういう所がずるくてうざい。

作品名:ベッドタイム・ストーリー 作家名:on