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ぐらにる 眠り姫1

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軍人というのは、認識票というものを、身体のどこかに埋め込まれている。どこかで死 んだ場合、身体的特徴では判別できなければ、それでわかるからだ。だが、それがみつか らない人間というのも、稀にいる。埋め込まれたマイクロチップを吹き飛ばしてしましっ た場合と、元から埋め込まれていない人間だ。
 元から埋め込まれていないということは、軍人ではない。軍という組織では、それは世界共通事項である。



 つまり、それは敵だということになる。

 認識票のない眠り姫の噂は、友人によってもたらされた。埋め込まれた形跡のない人間 で、さらに、厄介なのは記憶が定かではないらしい。
「眠り姫? 女性か? 」
「いや、男なんだけど、派手な美人なんだよ。ただねぇー、眠ってるほうが長いんで、な かなか瞳の色を見ることができないのさ。もちろん、僕も五戦五敗というところだ。」
 カタギリも、それほど暇ではないはずだが、サボりがてらに見舞いに来る。その回数と 同じだけ、そこへ通っているということは、かなりご執心だ。
「物好きだな? ビリー。」
「きみほどじゃないと思うけどね。」
「つまり、その眠り姫は、そういうことか? 」
 敵だった可能性があるということは、つまり、ガンダムマイスターもしくは、それに付
随したスタッフかもしれないと言うことだ。 私が執心しているガンダムという機体を動かしていたか、もしくは、そのサポートをしていただろう人物。確かに、興味は湧いた。
「まあ、そういうことになるね。ね? なかなか、きみには興味深い話だろ? 案内し ようか? 」
 それまでは、私も怪我で動けなかったから、わざと話題にしなかったらしい。歩行許可 が下りたから、友人は、そう言って散歩に連れ出した。軍の病院ともなると、外からの見 舞いにもチェックは厳しいが、さらに、そのブロックは厳重だった。私も友人も、それな りの地位にあるから、そのチェックを掻い潜るのは簡単で、呆気ないほどだったが。
 そのブロックにいるのは、今の所、彼だけだという。それ以外の怪我人は、ちゃんと認 識票があったからだ。
 だから、扉のロックもされていない。眠ってばかりの怪我人なので、ロックする必要も ないのだと言われて、偽装しているのではないのか、と、友人に尋ねた。
「それはないね。脳波測定もして、自白剤も使って、それでも喋らないなんて有り得ない 。それだけの強い意思があるのなら、さすが、ソレスタルビーイングというところだ。」
 それなりの検査も尋問もされているらしい。だが、何も出てこなかった。名前すらわか らない状態では、そこから先が、どうとか言う問題ではない。元から弱っていたはずの怪我人は、それらの処置をされて、余計に悪くなったのか、それからは、眠ってばかりいるのだと言う。どうせ、軍人のやることだ。限界まで自白剤を使ったのだろう。ある意味、廃人みたいな状態だろうと予想はしていた。

 開いた扉の向こうには、真っ白な空間だ。部屋には窓がない。白い壁ばかりである。その真ん中に、ぽつんと置かれたベッドがある。
「ああ、やっぱり眠っている。」
 ビリーが言う通り、それは眠っていた。白い肌とこげ茶色の髪の、ごく普通の男だ。確 かに、造詣は整っているだろう。片目は包帯で閉じられていて目が開いたとしても、見え ない。ベッドに近寄って、本当に廃人同然なのか確かめることにした。その眠っている男 の首を両手で絞めてみた。
「ちょっと、グラハム。」
「これで、偽装かどうかはっきりするだろう。」
 力を少しずつ込めて、縊ていくと、息苦しさから、その瞳は開いた。セルリアンブルー の綺麗な青だった。人間には、防衛本能というものが備わっている。もし、記憶喪失だと 意思の力で偽っていたとしても、首を絞められれば、それが勝手に反応する。抵抗する力 を帯びた瞳が見られるのかと、わくわくとしたが、結果は違っていた。
 息苦しさの原因を確認すると、その瞳は閉じて、身体からも力が抜けた。抵抗する意思は皆無だと言うことだ。
「なぜ、抵抗しない? 」
 縊ていた手を緩めたら、げぼげほと咳き込んでいたが、返事はない。息が整うのを待っ て、再度、尋ねたら、それは、「半分くらい死んでいるんだ。そろそろ完全に死んでも構わないだろ? 」 と、抑揚のない言葉で返事した。それが、とても眠り姫の台詞には相 応しくなくて、私は、かなり笑い転げた。


 退院するまで、日に一度、眠り姫の許を訪れた。けれど、その名前通り、ほぼ100パ ーセントの確率で彼は眠っていて、私との会話など成立するはずもなかった。無理に叩き起こして、会話すると、それはそれで、まるで、ちぐはぐなことしか言わない。

「私は乙女座なんだが、眠り姫は、なんだろうな? 」

「オリオン座。」

「そうか、きみの住んでいた世界には、そんな星座があるんだな? 」

「宇宙共通だろ? 星座は。」
「きみは誰だ? 」
「さあ? あんたらで勝手に名づければいいだろ? 」
「じゃあ、仮に名前をつけよう。何がいい? 」
「好きにしてくれ。」
 からかっているような投げ遣りな言葉しか紡がない口は、それだけで、また噤まれてしまう。時間も何もかもが、あやふやになっていて、彼は、何も感じないらしい。真夜中であろうと、早朝であろうと、訪れて叩き起こせば、同じような態度しか取らないからだ。
 ある日、なぜか、彼は起きていた。そして、自分を確認すると、「なあ。」 と、声を
かけてくる。
「なぜ、俺は殺されないんだ? 」
「『疑わしきは罰せず』 というのが、我々の法律だ。きみは、黒に限りなく近い存在だ
が、黒と判じるための決定的な証拠がない。」
「それは、でっち上げれば、済むことだろう。俺の頭はイカれてて、どんなに中身を混ぜ返しても、何も出て来ない。生かしている意味はないと思うんだ。」
「珍しいな、きみが、理路整然と話しているのは。」
 それまでとは、明らかに違う。はっきりとした意思を感じられる言葉だった。セルリア
ンブルーの片目は、私を見て、少し細められた。
「自分では、よくわからない。ただ、憎悪の対象になっていたのは、判った。だから、不 思議に思ったのさ。・・・・そして、憎悪しないあんたも不思議だよ。その怪我、俺がつ
けたかもしれないんだろ? 」
 私の身体にも、いくつもの傷がある。これをつけたのは、青い機体だ。あの機体のパイ ロットは、もっと若いだろうと、私は思っている。だから、この眠り姫ではないはずだ。
「これは、きみではない。もっと、若いパイロットだった。・・・・よしんば、きみだっ
たとしても、私は、きみを憎悪しない。」
「なぜ? 」
「さあ、なぜだろう。眠り姫に一目惚れしたのかもしれないな。」
 その言葉に、彼は肩を震わせて、「あんたは、やっぱり不思議だ。」 と、少し声を出
して笑った。
 そんな会話ができたのは、その一日だけで、やっぱり、眠り姫は、眠ってばかりだった 。

 だが、退院する時に、私は彼を連れて行くことに決めた。
作品名:ぐらにる 眠り姫1 作家名:篠義