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ぐらにる 眠り姫1

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 背中に一箇所、そして、首筋に一箇所、彼には傷がつけられた。ひとつは、仮の認識票 としてのマイクロチップ、そして、頚動脈の横には、発信機と小型の起爆装置と爆薬だ。どこかに逃げようとすれば、すぐに場所が確認できるし、それを取り外すには、頚動脈を傷つける結果になる。万が一、逃亡できたとしても、起爆装置を起動させれば、そこにいる人間もろとも吹き飛ばせるぐらいの効果はある。眠り姫に、それを説明したが、興味はない様子で、なんの反応も示さなかった。軍部のほうも、これといった成果を得られない正体不明の男には、早々に見切りをつけていたから、楽に話は通ったが、条件だけは飲まされた。
「物好きだね。」 と、友人は苦笑したが、起きている眠り姫には興味があったのか、退院した私の移動には同行した。



 軍の住居に住まわせて問題はないのか、と、友人は心配したが、それは杞憂というものだ。眠り姫は、ほとんど一日を眠って過ごす。どこかへ移動することなどできるわけがない。
「だが、記憶が戻ったら・・・・」
「戻ったとしても、別に構わないさ。軍施設内部から逃げ出すのは、逆に不可能だろう。」
 もし、その時が来たら・・・・そう考えて、私は胸が躍るのを止められない。逃げ出し
て、あの青い機体のパイロットの許へ導いてくれるのか、それとも、私に掴みかかってくるのか、それとも、逃げられないことを嘆くのか、どれであろうとも、眠り姫の反応が、 きっと新鮮で、私は、また、惚れ直すだろうと思うからだ。


 それまでは、私だけの眠り姫だ。誰にも逢わずに、ここで眠っていればいい。そのうち、また、何かを囀ることがあるだろう。その言葉は、私には心地よいものだろう。死を畏れることすら忘れた眠り姫は、淡々と、それについて語るからだ。



 共同生活というには、かなり不思議な生活は、始まった。退院して、しばらくは、自宅療養をしろ、と、医者からは言われたものの、それよりは、職場でふらふらして勘を取り戻すほうがいいだろうと、軍の宿舎に戻った。ついでに、眠り姫も一緒だから、そのほうが都合もよかったのだ。宛がった部屋から、眠り姫は、ほとんど出て来ない。生理的欲求の行動で、日に何度かトイレまでは往復しているが、それだけだ。たまに、力尽きるのか、居間で寝ていることもあるが、慣れれば気にならなくなる。
 最低限の身だしなみだけは、してほしいと頼んだので、むさくるしいひげ面の眠り姫とは対面しなくて済んでいる。





 これと言った進展も何もないままに、一ヶ月が過ぎた。そろそろ、本格的に復帰しようと準備する段階になった。たまには、酒に付き合わせようと、いつものように眠り姫の首を絞めたら、咳き込んで目を開けた。別に、これは、私の趣味ではない。眠り姫自身からのリクエストがあったから、そうしているに過ぎない。
「あんたの起こし方は、生きている実感があっていい。」
 半分くらい死んでいる眠り姫でも、呼吸だけは必要で、それを鎖されると苦しいから、生きていると判るということらしい。
「痛みだって生きている証拠だと思うが? 」
 叩き起こして、酒を舐めさせてみたが、これといった反応はしなかった。
「ああ、言ってなかったかな。」
 ふらりと立ち上がると、眠り姫は、机からカッターを持ってきて、私の目の前で手の甲に傷をつけた。さほど深くはなくても、赤い血が流れるほどの傷だが、眠り姫の表情に僅かの変化もない。
「この通り、痛覚が麻痺している。」
「わざわざ実演する必要はあるのか? 」
 手当てをするのは、私じゃないか、と、文句を吐きつつメディカルボックスを用意する。傷口にスプレー式のクスリを吹き付けるぐらいのことだが。
「わかりやすいだろ? 」
「それは、いつからだ? 」
「さあ、わからない・・・・・・」
 だから、生きているのか死んでいるのか、とても曖昧なんだろうな、と、言葉が続けられた。他国の捕虜なら、ある程度のところでやめる。向こうへ生きて帰られたら、その報告がされるからだ。だが、この眠り姫には、返還を求めるところがなかった。何をされたかは、わからないが、それすら感じなくなるほどのことをされたということだろう。当人は覚えていないのが、幸いだ。
「少しは施設内を案内したほうがいいか? 眠り姫。」
「いや、別に。・・・・それより、あんたは、俺をどうしたいんだ? 今、実証したように、俺は痛みは感じない。だから、性欲処理に使いたいというなら、それは構わないんだがな。」
「ほおう、私という人間は、そういう評価をされているのか? 」
「それぐらいしか使い道はないだろう? 」
「使い道は、今こうやって、きみと語らうような使い道だってあると思わないか? 」
「これのために、あんたは、俺を生かすわけか? 」
「そういうところだな。私は、生憎と、そちらの趣味はないんだ。溜まっているのなら、コールガールでも呼んでやろうか? 」
 公には、そういうものは存在しないが、やはり、そういう商売は存在している。正常な男性なら、たまに使うことがある。
「いらないな。たぶん、使えないだろうからさ。」
「じゃあ、そちらのがいいのか? 」
「わざわざやりたいわけじゃない。ただ、あんたが、そのつもりなら、と、思っただけだ。」
「今日は調子が良さそうだな? 眠り姫。話がウェットに富んでいるぞ。」
「そうか、ずっと考えてたからだろう。」
「きみの思考は、私の予想を凌駕する。ははははは・・・・・・もし、その気になったら頼むことにしよう。それでいいか? 」
「好きにすればいい。」
 うっすらと頬を引き上げた眠り姫には、それなりの色香があった。病院に居た時よりも、かなり表情は増えた。右目の包帯は、そのままなので、やはりひとつのセルリアンブルーの瞳が、そこにある。



 生かされる代価があれば、と、眠り姫は言う。代価といっても、何も持っていない眠り姫が支払えるものは、ないだろう。たまに、まともになることもあるが、それだって週に一度ぐらいしか現れない。
・・・・ああ、だから・・・
 覚えていられないから、そういう使い方をしてもよい、と、言うのだろう、と、気付いた。そんな卑屈にならなくてもいいのに、と、私は思う。唯一、頼みたいことがあるとしたら、あの右側の瞳を治して欲しいということぐらいだ。双眸のセルリアンブルーを見てみたい、という単純な願いだ。
 酒を過ごして、そのままソファで眠って、朝を迎えてしまった。だが、寒いということはなく、ちゃんと、私の身体に毛布が被せてあった。ふたりしかいない住居なので、私でなければ、もう一方ということになる。壊れていても現れる動作は、おそらく長年に渡って染み付いたものか、その人物の生来のものだ。
・・・きみは一体、どんな生き方をしていたんだろうな・・・・とても、テロリストには思えないんだ・・・・・
 自然な温かみを感じさせる行動が、眠り姫の過去と、あまりにもそぐわない。


作品名:ぐらにる 眠り姫1 作家名:篠義