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こた@ついった
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novelistID. 1633
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恋人達の

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 イタリアははぁ、と息を吐いた。それは憂鬱なものではなく、楽しみで仕方がないという高揚した心を落ち着かせる為のもの。あるいはその心の内がうっかり漏れてしまったものだ。
 ブランド物のスーツケースに数日分の衣類を詰めながら、頭の中では明日の事を考えている。自然と鼻歌を歌っていた。幸いか否か、ロマーノは出掛けており家には居ない為、「うるさい」と怒られる事もない。
「後ー、歯ブラシ! それと、」
 長年の知恵もあり量の多い衣類もスペースが余るぐらいに無駄なく詰められている。
 他に必要なものは、と余ったスペースにタオルや歯ブラシ、その他のものも詰めこんだイタリアは上機嫌だ。
 何故かと言うと、それは一時間ほど前に遡る。


 ドイツに会う時いつも、イタリアは彼の薄着を気にしていた。コートは真冬には間に合わなさそうなもの、マフラーや手袋はない。冬場はかなり冷え込むのに、と思い直接言って見れば「慣れているから平気だ」と一言。
 慣れているからってダメだよ!とイタリアはその旨を日本に伝えるべく電話をかけたのだ。
『では、マフラーをプレゼントしてみてはどうでしょう?』
「それいいねー! じゃあ、早速買いに・・・」
『いや、待って下さい。折角ですから、手作りなんて良いんじゃないですか?』
「手作り?」
『ええ、そうです。そっちのほうが想いがこもっている気がして。素敵でしょう?』
「ヴェー。そんな気する・・・。でも俺編み物とかした事ないし・・・」
『私が教えて差し上げます。なんなら明日にでも家にいらして下さい。毛糸選びもしましょう。予定が無ければ何日か泊まって行って下さい。お手伝いしますので』
「いいの?じゃあ行く! ありがとう日本!」
『いいえ』
 流石は日本、とイタリアは飛び上がる勢いで喜んだ。
 その後時間等を合わせイタリアと日本は明日、会う約束をした。


(ドイツに手作りマフラーかぁ・・・。わくわくしてきた〜!)
 支度を終えたイタリアはチョコラータが湯気を立てるマグカップを手に、ソファに深く座り込んでいた。
 甘い香りが鼻をくすぐる。まるで心とシンクロしているかの様だった。


  *  *  *  *  *  *  


「にほーん! 俺だよ、イタリアだよー」
「おや、いらっしゃい、イタリア君。お疲れでしょう。お茶でも飲みますか」
「うん。俺、緑茶が良いなぁ」
 まるで小さい子供の様に中々寝付けなかった夜を越し、イタリアは日本の家へ長い時間を経て到着した。
 神秘の国と呼ばれる日本のふわりとした独特の雰囲気に包まれた笑みを見てイタリアも陽気なラティラーノらしく笑う。
「さ、入ってください。買いに行くのは温まってからにしましょう」
「はーい。お邪魔します!」
 日本の、欧州では見られない取り次ぎ、次の間、と階段の様に三段になった玄関。初めて来た時は「家が浮いてる!」とはしゃいだのを覚えている。何十年も訪れ、慣れた今は靴を脱ぎきちんと揃えるまでの動作を自然に行う。
 茶の間へ通されると何故かいるもホッと安心感に包まれる。今日もイタリアは、「お茶を淹れてきます」と部屋を出た日本を尻目に心地好さにうっとりしていた。
 どこか良い香りのする畳に、平たいのにふかふかと馴染む座布団。イタリアはそれが気に入って自分の家に座布団を買ったほどだ。
「お待たせしました。どうぞ、お飲みになって下さい」
「ん、グラッツェー」
 日本が静かな足音をたて、戻ってきた。茶碗二つと茶菓子の盛られた木製の器、湯気が口から漏れる緑茶の入った急須を盆に乗せており、テーブルにそれらを置き、茶碗に緑茶を注ぐ。
 薄緑色の茶が白い茶碗に美しく映える。差し出されたそれを受け取ると手が温まった。ふぅ、と息を吐き熱を冷まし、口をつける。
 じわりじわりと構内に広がる独特の味や香、喉に温かさが伝わる。身体の芯まで温まるようだ。
「マフラーなのですが、どんな形にしますか?一般的なのはゴム編みですが、メリヤス編みやガーター編みなんかもありますよ」
 自分の分も注ぎ終えた日本が早速、という風に切り出した。
「えっと、どんなの?」
「ゴム編みは表目と裏目を一目ずつ交互に組み合わせたもので、断片で見ると・・・あ、イタリア君のそのマフラーがそうですね。こんな感じです」
「へー! これゴム編みって言うのかぁ」
「左右に伸縮性があります。それと厚めなので温かいです、ね」
 イタリアが巻いてきたブラウンのマフラーを指し示し、説明する日本にイタリアは沢山の知識を持っている事に感心した。
 日本は茶を一口飲むと、再び説明を始める。
「ガーター編みは先程のゴム編みと似ています。表目と裏目を交互に、一目ではなく一段ずつ、交互に編むのです。それから、メリヤス編みは簡単で、棒針編みの最も基本的な編地です。あまりマフラーには向いてないかもしれませんが。・・・後は、難しいですけれど縄編みとか・・・」
「色々あるんだねぇ。うーん、どうしよ・・」
「イタリア君のと同じ、ゴム編みはどうでしょう?編み目を間違えなければ綺麗に編めますよ」
 編み物について全く知識の無いイタリアが頭を悩ませたところで、日本が助け舟を出した。マフラーとしては一般的な編地でちょっとしたデザイン性もある。日本はそれを考えた上で進めた。
 チョコレートや飴玉などの茶菓子の中から煎餅を取り出すと日本は「どうしますか」と微笑みを浮かべ、尋ねる。
「うん、その、ゴム編みにする!」
 それと煎餅俺にも! と付け加え、イタリアはオレンジに近い色の眼をキラキラと輝かせ、言った。
「決定ですね。では、そろそろ温まってきましたし、行きましょう。ああ、お煎餅食べ終わってからですよ」
 器から海苔巻き煎餅を一つ取り出しイタリアに手渡す。イタリアと同様、日本も"楽しみだ"と思っていた。
 二人の体温が上がるのと一緒に、外の気温もまるで歓迎しているかの様に上がり始めた。



 日本の家からそう遠くはない、手芸店に二人は来ていた。
「すっげぇー・・・」
 様々な手芸用品がずらりと並ぶ店内でイタリアは感嘆の息を漏らす。こういった店に来るのは初めてなのだ。
 日本はその様子を見てくすりと笑う。
 「さ、毛糸を選びましょう。そこの棚がコーナーみたいですね・・・」
 種類別、色別に並べられた毛糸のコーナーを見つけた日本がイタリアの手を引いた。
「色は考えてきましたか? あ、でも沢山ありますからゆっくり選びましょう」
「うん。あ、この毛糸あったかーい」
「ウールですね。ぎゅっと強めに編めばとても温かいものになると思いますよ」
「こっちのモコモコしてるのもかわい、あ、ドイツのだったー。可愛いのはダメだね、はは」
 ウールの毛糸とふわふわした特殊毛糸を持って、触り心地を試したり、色見本のカタログをめくっては「多すぎ!」なんて言って一ページ一ページをじっくりと眺めてみたり。イタリアは毛糸選びに夢中になった。
 それだけドイツさんの事が好きなのですね、と日本は思いながら自分の持つ毛糸の知識を昔話を混ぜながら話して聞かせる。
 毛糸の形や太さ。たくさんある中から選んだのは最初に見つけたウールだった。
作品名:恋人達の 作家名:こた@ついった