恋人達の
次に選ぶは、色。イタリアは昨夜ドイツにはどんな色が似合うか、ベッドに入ってから眠りにつくまで考えていた。結局結論を出す前に眠ってしまったのだが。
「ドイツには、黒とか紺が思うけど、ちょっと派手な色とかも絶対合うよ! でも、付けてくれなかったらなぁ・・・どうしよー、うーん」
赤から黒まで、見たことのない色まで揃う毛糸達を吟味する。ドイツは暖色系の衣類が多い。なので少し暗みがかったものにしようと思ってはいたのだがその中でも赤から黒まである。もしかしたら編み物よりこっちの方が大変なのでは、なんて思ってしまう程だ。イタリアはいつもの謎の鳴き声を発した。
「イタリア君が一生懸命作ってくれたものなら、必ず身に付けてくれると思いますよ、ドイツさんは」
日本がイタリアを元気づけるように助言する。
「そっかな。・・・じゃ、この色にする!」
「良いじゃないですか、その色」
やや濃いめのターコイズの毛糸玉をイタリアは手にとって元気よく言った。
数十年前、イタリアが着ていた軍服に似た色だ。イタリアは彼の眼の深いブルーを思い浮かべて選んだ。まるで偶然が重なって奇跡になったようですね、と当時の事をよく覚えている日本は柔らかく笑んだ。
「とりあえず、五玉買いましょう。足りなかったらまた買いに来ればいいですし」
「うんー」
同じ色の毛糸を後四玉、手に持ち、二人はレジカウンターへ向かった。
カサカサと音をたてて揺れるビニール袋に入った毛糸を覗いて、イタリアは心臓を高鳴らせる。
レジで支払いをした際、店主は「クリスマスフェア」だからと言って、クリスマスを連想させる柄の紙袋を丁寧に畳んで、毛糸と一緒にビニール袋に入れてくれた。
「もうそんな季節かぁ。ちょうどクリスマスプレゼントになっちゃうねー」
「ふふふ。そうですね。うんと綺麗なの編みましょうね」
「うん!」
日本の家まで、ゆったりと歩いていく。寒波がさった後のこの地域は冷え込む。イタリアは自分が巻いているマフラーの温かさに身を任せる。
話を進めている内に家に着くと、早速日本による編み物講座が始まった。
イタリアはいつものヘタレを発揮しないよう、耳をそばだてて日本の一言一言に集中してスキルを身につけようと必死だった。
実際にやってみせたり、やらせてみたりとすると、手先が器用なイタリアも段々と『ゴム編み』がすらすらと編めるようになった。
一人でも編み目自分で数えて出来るようになると日本は「頑張ってくださいね」と部屋を出ると自分の作業に入った。
(ドイツ喜んでくれるかな・・・。頑張ろっ!)
棒針をカチカチ言わせながら、イタリアは速いペースでどんどんと編み進めて行った。
「イタリア君、お食事はこちらで頂きます? 水炊き鍋は疲れが取れますよ」
「ありがとう日本!時間が勿体ないし、こっちで食べたいな。水炊き鍋かぁ、美味しそう」
「では持ってきますね。・・・調子はどうですか?」
「順調だよ。さっき表目と裏目をちょっと間違えちゃって。でも綺麗に直したから大丈夫!もうスラスラ動くよー」
「イタリア君は器用ですからね。このペースでいけば三日もかからない・・・ですかね」
「うん、頑張るよ」
イタリアは、慣れてくると頭の中では違う事を考えていた。今年は後もう少しで終わってしまうから、残りの日数の予定について考えをめぐらせたり。
そうやって只管編んでいると、いつの間にか糸は五玉目をむかえ終わりに差し掛かっていた。
イタリアははぁ、と大きく息をつく。編み終わりを仕上げてしまえば、完成だ。
数日間只管編み続けたものが、今、完成しようとしている。最後の一目をイタリアは出来る限り丁寧に、ぎゅっと想いを詰め込んで、編んだ。
* * * * * *
「日本、ありがとう。おかげでこんなに良く作れたよー」
「いえいえ。これからドイツさんに渡しに行くんですよね。結果、楽しみにしていますね」
完成して、その後の作業を終えたイタリアは再びスーツケースの中身をきっちり整え、来る時には持っていなかった、完成したドイツへのマフラーを丁寧に畳んで入れたあの紙袋を持って、玄関に立っていた。
紙袋を持つイタリアの白い手はすっかり棒針に慣れていた。イタリアは来た時よりも若干成長した様に、日本には見えた。
「じゃあ、またねー!」
二人共心からの笑顔で、別れを告げる。
歩きだして少ししてからイタリアが手を振ると、日本も振り返してくれた。
イタリアは一旦自分の家へ帰り、それからドイツに会うという予定を立てていた。
マフラーの他に、もう一つプレゼントを用意しようと考えたのだ。
こちらには自信がある。彼の得意分野だから。
家に着くとまずイタリアは旅の疲れを癒すためシャワールームへと向かった。プレゼントはその後、とあまり動いてはいないが集中力を使い疲労した身体を思い遣る、彼らしい選択だった。
その後、『もう一つのプレゼント』の用意を始めると、イタリアは即行の曲を歌い始める。鼻歌を歌う時より気分が良い時だ、即行曲を歌うのは。
「あ、そうだった。ドイツに連絡しなきゃだー」
少し時間が空、その間に電話しようとソファに座りかけた身体を起こす。
突然、押しかけるのはダメ、今日は特別な日なんだ、と心の中にふわり浮かび上がる。
そんな思いを胸に、受話器をを手に取った。
「ドイツー? イタリアだよ、チャオ!」
『あぁ。どうした?』
「えっとさ、今日ドイツん家行っても良い?」
『構わんが、今日は寒気で冷え込んでいてな。大丈夫そうか?』
「全然平気! じゃあ、もう少ししたら行くねー!」
『ああ、解った』
あまり長くはない会話を終え、受話器を置いたイタリアは段々と別の想いを抱き始めた。
柄にもなく、ドキドキと心臓が煩い。イタリアはそれを打ち消すように、頭を振ったがあまり意味はなかった。
(何か、女の子みたいだ。手作りのマフラーにコレとか、うわあ・・・! 超恥ずかしい、かも)
頬が紅く染まる。イタリアはどうしようもない心音を無視して、もう一つのプレゼントの持っていく準備を始めた。
全ての準備を終え、玄関に立つと壁にかけられた鏡の前にイタリアは立って「いつも通り」と繰り返す。
「よおっし、行くぞ、俺!」
* * * * * *
ドイツの家は本当に寒い。厚手のコートを着てきて良かった、とイタリアはぼんやりと思う。
玄関のチャイムを鳴らすと返事が聴こえ、しばらくしてドイツが出てきた。
「やっほードイツー! さっむいねー」
「ああ。今年はやけに冷えてな・・・。まあ入れ、暖房きいてるから」
ドイツにまねかれるまま、イタリアは中へ入ると恒例の"挨拶"を求める。
「ハグして! ハグハグー」
手を伸ばすイタリアにドイツが応えない筈がない。
「はいはい・・・」
両頬に口付けを落とす。そして離れようとするとイタリアが「まだ!」と声を上げた。
「寒かったんだから、一杯ぎゅーってして!」
「お、お前なぁ・・・」
「いいじゃんかー。ドイツのケチー」
「全く。解ったから、その、コートを脱げ。邪魔だろう」
「やったー!」