恋人達の
半ば呆れ顔、しかしその裏に反対の思いが滲んでいるのを発見し、イタリアはパァッと顔を輝かせる。急いでコートを脱いでしまうと、ドイツに思い切り抱き着いた。ドイツはそれを難なく受け止め、その身体を包み込む様に抱きしめてやる。
イタリアは嬉しそうな息を吐いた。
「今日はドイツにプレゼントを持ってきたであります!」
温かいリビングへ通され、ソファに座るとイタリアが口を開いた。緊張しているのを隠す口調だった。
「何だ?」
「これっ」
不思議そうな顔のドイツの目の前にバッと、紙袋を掲げた。クリスマスカラーのそれにドイツは素っ頓狂な声を上げ瞬きをする。どれを見てイタリアは笑った。
「クッキー焼いてきたんだ」
紙袋から缶を取り出しながらイタリアが言う。『もう一つのプレゼント』とはこのクッキーの事だ。菓子はドイツの方が上手いかも知れないが、折角だし、と日本の家からの帰りに思いついたのだ。
ドイツはいきなりのプレゼントに驚いて、缶を見ている。
「それとー、もう一つ。手作りなんだよ、はい」
「あ、ああ」
残った紙袋をドイツに差し出し、イタリアは「渡せた!」と心の中で喜ぶ。しかしまだ終わりではない。
「開けてみて?」
言われるままにドイツは紙袋の口を開く。その中に入ったターコイズのマフラーを徐に取り出した。
ふわりとした感触。ドイツは更に驚き、固まってしまう。
(て、手作りだと・・・!)
ドイツの頭からは今にも爆発音がしそうだ。
「お、俺に、か?」
やっと反応を示すと、イタリアは再びここに来るまでの緊張を思い出してしまう。
「うん。お前に、俺から、だよ。もしかして、気に入らなかった?」
緊張と、色を選んだ時にあった迷いが舞い上がりそうになる。
派手すぎたかな、としゅんとするとドイツは慌てて弁解した。目が泳いでいる。
「いや、そうではなくて、そ、そのだな、あ、ありがとう・・・うむ」
ドイツは顔を赤くして、それに気付かれない様、明後日の方向を向いていたが、耳が紅く染まっているのにイタリアは気付いた。
花が咲く様な笑顔に一瞬で変えると、勢いのままに早口で喋りだす。
「よ、良かった!日本に編み物教わったんだ。初めてなんだよ。この色はね、ドイツに絶対似合うと思ったんだ。だって、ドイツ、すっげー綺麗な青い目に、金髪で、・・・あっ!」
今度はイタリアが紅くなる番だった。口をパクパクさせ慌てる。
幾分か落ち着いたドイツはイタリアのその様子に笑う。
「で、?」
その先は、とドイツが促す。
イタリアは「ドイツの意地悪ー」と思いながら、もう言ってやる!と顔を赤くしたまま口を開く。
「か、かっこいいんだもん!」
お前、すっごく。
後に続いた言葉はしぼんでいって、それと同様に、イタリアも呻りながらソファに沈み込んだ。頬が熱い。心臓もドキドキうるさい。
(な、何でこんなにドキドキしてんだろ。女の子ナンパする時とか、普通に可愛いって言うのに・・・!)
日本がいればきっと「若いですねぇ」なんて言いそうだ。
ずるずると小さくなるイタリアにドイツは、打ちのめされていた。
(か、かわいい・・・っ)
イタリアが顔を赤く染めふてくされる様は、胸が締め付けられる何かがある。可愛いのだ、彼は。
その整った顔立ちが織りなす、泣き顔も怒り顔も、無論、笑顔も。ドイツは可愛い、愛おしいと思ってしまう。
重症だな、なんて思う暇もない。
「・・・・・・」
妙な空気が流れていた。
何か言わなければ、と互いに考える。口を開いたのはイタリアで、ソファに今度は普通に座っている。
「巻いてみて!」
ドイツの手にあるマフラーを指示しイタリアが言うと、ドイツもそれに返答を返した。
「お前が、してくれるか?」
「ヴェ?」
「お前が、俺の首に、」
マフラーをドイツは差し出しながら最早心音なんて気にしないというように言ってやる。最初、意味が解っていなかったイタリアは理解するとえへへ、と笑んだ。そしてマフラーを受け取る。
「了解であります!」
丁寧に畳まれたマフラーを、慎重な手付きで開くと、ドイツの方へ手を伸ばす。
その首にふわりとかけ、包むようにゆるりと巻き、あまりを後ろへ垂らす。
妙に緊張していた。
「はい、出来上がり」
「・・・温かい」
ターコイズのマフラーは、イタリアが思った通り、ドイツによく似合っていた。瞳の色とマッチしている。
イタリアの気持ち、想いが込められたマフラー。ドイツはその温かさを肌と心両方に感じた。あまり顔に出していないが、実際は天まで飛んで行けそうなくらいに、心の中では喜んでいた。
俺のために作ってくれたんだ、と思うとどうしようもなくイタリアが愛おしかった。
「イタリア」
「ん、何?」
愛おしさを伝えるように、口元まできているマフラーを下げ、イタリアの色付きの良い唇にふっと軽いキスをした。
もう一度、もう一度、と繰り返す度、想いは深まってゆく。
愛している、永遠に。
まるで天使が優しい羽音と共に舞い降りてくる、そんな温かなキスだった。