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eclosion

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1.雲母


兄弟メイン。ノマカプ(たぶん)。こんなオチでごめん。



「完全なる存在にしてやろう」
奴がそう言った時、何しやがるんだ、と思ったけれど構っちゃおれなかった。
何しろオレはアルの錬成の真っ最中だった。だからアルにさえ手出しされないなら他はまあどうだって良かった。
ヒゲ野郎は相変わらずモーションもクソも無くオレに手を当て、オレの身体にはボン!と衝撃が走った。
でも、それだけだった。
そしてそいつはやはり勝手に「うむ」とか何とか納得して、気味悪いくらい嬉しそうに微笑んで、オレの描いた錬成陣から吹き上がる錬成風に、ばらばらに吹き飛ばされて消えていった。


オレはアルの身体を取り戻し、ついでに左足も取り戻した。
完璧な錬成だったが、何故かオレの右腕は機械鎧のままだった。

ガリガリだったアルの身体は、みるみる力を取り戻した。
オレは心配で嬉しくてそわそわし通しだった。アルがパン粥を食って、パンを食って果物を食って、その度に目を丸くしたり懐かしそうに鼻を鳴らしたり口元に手をやって笑ったりするのが、もう嬉しくて嬉しくて、オレはずっとアルのベッドに張り付いていた。

ある日、オレは自分の左足首のあたりに、白い、半透明の、魚のウロコみたいのが付いているのに気付いた。ウロコよりはよほどでかく、コインくらいの大きさだった。触るとはがれて、指で揉むとぱらぱらと粉になった。
錬成の反動で、表皮細胞が何かカンチガイでもしたのかな、と思った。

アルはすぐ立ち上がり動き回れるようになり、オレはアルの後をずっとついて回って、大佐やノックス先生に呆れられ、仕舞いにアルにもうっとおしがられた。

その頃だったと思う。右足の甲にも、その半透明の硬い膜みたいのが出来ていたのは。
やっぱり、はがすとぱらぱらと崩れて、指先にキラキラ細かい粉が残った。

世話になったセントラルの皆に礼をいい、オレ達はリゼンブールへ帰った。
おかえりと言って、ウィンリィはわんわん泣いた。それからオレの右腕を、大好きな機械鎧だっつーのに、どっか寂しそうに撫でて、指の関節でコンコンと叩き、しょうがないわねこれからもこいつの面倒はみてやるわよ、と言った。
アルがこいつって兄さんのこと?とか茶化しやがるので蹴りをいれてやった。
ロックベル家の居候として、穏やかな生活が始まった。

そのうち、アルもオレのヘンな皮みたいのに気付いた。あのウロコみたいのはふくらはぎあたりにも表れるようになってた。
痛くも痒くもないし、剥がせば終わりだが、ばっちゃんも首をひねるばかりだった。

ウロコの成分はカルシウムとたんぱく質のようだった。生体を構成する成分から出来ているのに、まるで鉱物のような光沢があった。
「これだけ見るとキレイだけど、これってエドのフケな訳?」などとウィンリィは言いやがる。
痛くも痒くもなかったが、ウロコの箇所はだんだん上へ広がってきた。剥がした後の皮膚にも白っぽい光沢が残るようになった。

朝起きるとシーツをたたむ。
裏庭に出て、ぱっとシーツを振り上げる。
白い結晶が舞う。ぱらぱらと湿った地面に落ちる。黒い土の上で、朝日を反射しキラキラ輝く白い破片。
宝石のようなオレのフケ。
あほらしい。


そしてオレは、階段でこけた。
足首が、思うように動かなくなっていた。

セントラルの病院で検査を受けた。が、やはり原因は不明だった。
石化(とセントラルの医者は名付けた)は徐々にその速度を上げていた。
痛くも痒くも無いけれど、ゆっくりとだるさが足元に溜まるようになって。
足首が固まり、膝も曲がらなくなり、いずれ歩けなくなるだろう。
そして、その先は。

ずっとアルが付き添ってくれていた。
アルの辛そうな顔を見るのが、オレは一番辛かった。




作品名:eclosion 作家名:utanekob