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eclosion

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2.真珠




兄さんがふらふらと歩いていた。
「兄さん!」
ボクは駆け寄って兄さんを支える。
「や、大丈夫だって。今日は結構動けるんだ」
兄さんはそう言って笑う。
今日はリンが来る日だ。リンには兄さんのことを言っていない。リンにはやるべきことがある。だからこの奇妙な現象を…今はまだ光明の見えない兄さんの容態を、リンに告げる気は無かった。それはボクら二人の一致した意見だった。

マスタング准将の主催で盛大な歓迎会が開かれた。
それは次期皇帝リン・ヤオとマスタング准将との、太い絆を内外に知らしめるためでもあったけれど、公式の場なら兄さんが敏捷に動けなくてもバレにくいからだと、そう思ってしまうのはボクの買いかぶりだろうか。
リンは微かに訝しげな視線を、兄さんではなくボクに投げたけれど、「こんな真面目な席、慣れないこいつら緊張しっぱなしでよ」とブレダ大尉のありがたい口添えで事なきを得た。
兄さんは元気いっぱいに、ランファンと機械鎧の腕と腕をぶつけ合った。
「来年また、フルメンテに来るんだろ?」
「そうダ、その時はぜひ手合わせ願おウ」
「おう!楽しみにしてるぜ!」
来年。兄さんは、また組み手ができるくらい元気になっているんだろうか。
元気になっているんだと、ボクは思いたかった。けれどどうしても、そう思いこむことができなかった。


それが真っ当に外出できた、最後だった。
表皮の硬化が進むにつれ、兄さんは元気がなくなっていった。
「何だかやたら眠くてさー」
そう、兄さんは笑う。
「マジで痛くもなんとも無いんだよ。だからそんな顔すんな、アル」
ゆるゆると、兄さんは壁伝いに、動かぬ足を進める。窓の外を見たいのだという。理由なんて何でもよくて、ただ動ける間に動けるだけ動いておきたいのだと、ボクには分かる。
兄さんの動きに合わせ、水色の患者服の裾から、ぱらりぱらりと白い切片がこぼれる。
零れるそれは、兄さんの命そのものなのか。
美しく、残酷な、白い破片。


錬金術師総がかりでも、解けない謎。
「あのヒゲ野郎の仕業だとは思うんだけどさ。意図が全くわかんねーよ」
寝たきりになった兄さんが、右手でぎこちなくメモを取る。
左手も固まってきて、機械鎧の方がまだ文字が書き易いのだという。
師匠もセントラルまできてくれた。主治医のマルコー先生と一緒に色々調べて、兄さんの皮膚はある種の貝の内側と同じ物質になっているということは確定した。
「私も昔、見たことがある。貝からごく稀に取れる、真珠という宝石だ」
兄さんの足を、師匠の掌がするすると撫でる。硬化した皮膚は肥大して、足の指もくるぶしも判別できなくなっている。いびつで滑らかな曲線を描き、淡い虹色を秘めた白い宝石。
おもむろに師匠の手が拳を握り、兄さんの頭を殴った。
「痛エ!」
「お前のようなセンスもクソも無いガキが、宝石なんぞと妙な洒落っ気出しおって!」
「オレがやったんじゃねーよ!」
兄さんが噛み付くように怒鳴り返す。
「そうだ、エドがやったんじゃない」
ふっと静かに、師匠は言う。
師匠は、ボクを振り返る。
「だから、アルのせいでもない」
お前は、だから、身体を取り戻したことを、そのまま素直に受け入れていいんだ。
師匠は厳しい表情で、そして慈愛に満ちた瞳で、ボクにそう告げた。
兄さんも師匠と同じ瞳でボクを見ていた。口元はほんの少し、泣きそうな笑みだった。

作品名:eclosion 作家名:utanekob