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そうして、マスタングとエドの新婚生活は始まった。
マスタングは準備万端を整えていた。市街に程近い住宅地にこじんまりと居心地の良い一戸建て。家具と食器とリネン類。庭には花壇をつくり、書斎は本で埋め尽くし、そして通いのハウスキーパー。
ハウスキーパーを選ぶにあたり、マスタングはアームストロングに助言を求めた。するとアームストロングは即座に答えた。
「最適な人物がおります。我が妹、キャサリン部屋付きであったハウスキーパーで、代々我が家に仕えてくれるとても優秀な女性であります」
いくら何でも、アメストリス随一の豪邸アームストロング家に仕える人物が、田舎の東部の二人暮しに相応しいとは思えない。
が、マスタングは即決した。
「では週五日で頼む」

「オレがやること、無いじゃんか…」
ふかふかのベッドで起きて、ぴかぴかの廊下を歩き、ほかほかの朝食を前にして、エドは呆れかえって言った。
「それが私の務めでございますもの。どうぞ若奥様はごゆっくりなさってくださいませ」
差し出された紅茶は思わず小さな鼻の穴が膨らんでしまうほど良い香り。
さすがはアームストロング家に仕える人物だけあって、家事も人の扱いも完璧。マスタングは満足気にうなずいた。

しかし、これはエドにとっては大問題である。
ハウスキーパーのいない休日は、今度は一切をロイがやる。洗濯籠を持ち上げただけで叱られてしまう。
「オレ、ロイにちょっとでも何かしてあげたくて、こっち来たのにー」
なのに何もさせてもらえない。だから現状を打破すべくアルに相談したのに、電話の向こうのアルは「兄さん、それは『のろけ』って言うんだよ」と呆れているのだ。
「違うー!オレは恩を返したいの!」
今の己があるのは、ロイのお陰だ。ロイが居なければ自分はもうとっくに死んでいた。何一つ残すことなく、アルを置いて。
だからずっと決めていたのだ。時が来たら、その後の人生は猫ではなくヒトとして、ロイのために。
「けどさ、准将は、何もしなくていい、兄さんが側にいれば、そう言ってるんでしょ?」
「何で知ってんの?」
「・・・・・・分かるよそれは」
なぜかアルは溜息をついた。それからアルはくすりと笑って、受話器越しにも優しい声でこう言った。
「兄さんが幸せそうで、よかった。兄さんが幸せなだけ、准将も幸せなんだよ」

「だから」
エドはデザートのオレンジのムースを舐めながら言った。
「オレが幸せ?てゆーか、んっとね。オレがね、楽しい!って思うのは何かなーって思ったら、お弁当になったんだ!」
そしてそれを説明したら、優秀なハウスキーパーも台所の使用を許してくれたのだという。
「そうなの。とっても美味しかったわ。ご馳走様」
ホークアイは笑顔で礼を言った。
「マジで旨かったわ!」「いやあ満足したー。エドのお陰だよ」
夫と、そしてその仲間たちも一緒に、自分が作ったお弁当を食べる。それが、幸せ。
なんて、いとおしい子。
「ロイも、おいしかった?」
マスタングは空になった皿を置き、愛する妻を引き寄せた。
「美味しかったよ。ありがとう」
「えへへー。よかった!」
エドはムースのかけらを口の傍につけたまま、照れたように笑った。
空っぽになったバスケット。ピクニックシートの脇には小さなシロツメ草の花。その周りにはイヌフグリの美しい藍色の花がいくつも。その向こうにはホトケノザの濃ピンクの小花たち。萌えいずる瑞々しい若草、咲き誇るアンズの花。
うららかなうららかな春の日差し。青い空。
エドは朝から奮闘したのだろう。腹もくちて、眠気がやってきたらしい。マスタングにもたれたまま小さく欠伸をした。
「寝ていなさい」
マスタングはそっと金色の頭を肩にもたせかける。
「うーんんー」
「昼休みが終わったら、起こすから」
「んー・・・・・・」
とろとろと、金の睫毛のまぶたが落ちる。
フュリーがそっと立ち上がり、人差し指でバツを示して頷いてから、放送室へ行った。午後の始業の鐘を止めるのだろう。
ハボックが煙草のジェスチャーをして、やはり音を立てずに立ち上がる。
ブレダとファルマンも、同じく静かに立ち去った。
皆一様に、柔らかい笑顔を残して。

ぽっかりと静けさに包まれた、中庭。
花の香りの微かな風が、マスタングの肩にもたれてすやすやと眠る猫の、満足げに緩んだ頬を撫でてゆく。
「ホークアイ大尉」
ゆるやかに、マスタングは口を開いた。
「はい」
「いつだったかな。ヒューズの奴が、妻と子と共に過ごす毎日を、『輝くような日々』と言ったことがあって」
「ええ」
ホークアイは庭向こうの、白く沸き立つユキヤナギを眺めたまま頷く。
「またコイツは大仰な表現を、と、呆れたものだったが」
ハナアブがふわふわと花の周りを巡り、ふいに空へ飛び去ってゆく。
青空の遥か高みからヒバリの歌が聞こえる。春の賛歌。
「今なら、分かるよ。輝く日。今、私の世界は輝いている」


おわり。





作品名: 作家名:utanekob