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ぐらにる 眠り姫2

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一年が過ぎた。相変わらず、眠り姫との同居は続いている。少し元気になったのか、眠り姫も施設内部への散歩には出るようになった。
 ただし、名前通り、いつでもどこでも眠り姫だ。疲れたら、そこで転がっているので、発信機を辿って回収しなくてはならない時がある。
「グラハム、眠り姫が滑走路近くで停滞しているんだ。どうにかしてくれないか? 」
 ブリーフィングルームで、打ち合わせ中の私の許へ、ビリーが苦笑しつつ依頼に訪れた。あまりにも、眠り姫のビーコンを探査するので、それまで、情報部が持っていたビーコンの発信情報を、こちらにも渡してもらった。だいたい、探査するのが、基地内で行方不明だから、という理由が半年近く続けば、誰だって呆れて、情報を明け渡すだろう。そういうことで、その情報は、ビリーが日々、管理してくれている。あまり一定時間以上、同じ場所で停滞している場合は警告音が鳴るようにしたので、体調を崩したりすることもなくなったから、こちらとしては、一石二鳥だ。
「隊長、本日の当番は、俺です。」
「そうか、すまないが頼む。干からびていたら、医務室へ運んでおいてくれ。」
「了解です。」
 日常的に、回収しなくてはならないので、仕事で手が外せないことが多い私の代わりに、うちの隊員が順番に回収役を買ってでてくれた。基地内では、すっかり有名人なので、施設内なら、そこから連絡があるのだが、眠り姫の散歩コースは、その日によって違う。歩く時間も場所も、まちまちだ。ほとんど会話も成立しないから、どこかで保護されるということも難しい。ただし、会話が成立しないということも有名になったから、仲良くしようという人間も現れなくなった。




 滑走路のエプロンから少し外れた草地の上に、ごろりと寝転がった青年は、寝ているというよりは死体に近い。やれやれ、と、メイスンが近寄っても、気配など感じることもない。これが、あのソレスタルビーイングの人間か? と、何度もメイスンも首を傾げたが、事実は、かなり信憑性があった。戦闘状態だった宇宙空間に浮遊していた人間で、認識票をつけていなかった。そこにいたのは、連合軍と敵だけだ。巻き込まれた民間船があったという報告もない。そこから、導き出される答えは、この眠り姫が限りなく敵だという事実でしかないのだが、その肝心の眠り姫は、軍の取調べという名の拷問で、すっかりと壊れてしまっている。その取調べ以前から記憶があやふやだったらしいから、何も引き出せずに、無理をされたのだという噂だ。ただ、限りなく黒に近いものを開放するわけにもいかないので、自分の隊長が貰い受けて来た。
「おい、眠り姫。」
 仮の名前もあるのだが、なぜか、隊長が、そう呼ぶので、みな、そのまま呼んでいる。確かに、男にしては整った顔だ。首を絞めると起きると、隊長は起こし方を伝授したが、誰も、そんなことはしない。声をかけて揺するぐらいで、それでも、寝ているなら、そのまま運んでくることになっている。
「ソレスタルビーイングというのは、どんな組織? 」
 唐突に、眠り姫は目を開けて声を出した。たまに、そんなこともあるが、今日は、いつもと違う様子だ。
「それは、貴様のほうが詳しいんじゃないのか? 眠り姫。」
「俺の頭には、記憶がないんでな。」
 ゆっくりと眠り姫は起きて座っている。たまに、まともなことを言う日があるという隊員たちの話は聴いていた。
「地球上の戦争や紛争を根絶するために、全ての戦争や紛争に武力介入するというテロ集団だ。」
「グラハムがやられたのが、ガンダム? 」
「やられたわけじゃない。相手は破壊した。」
「じゃあ、そのテロ集団は壊滅したのか? 」
「おそらくはな。その仲間の一人が、貴様だという話だ。」
「・・・・ということは、俺はガンダムのパイロットだったわけか・・・」
「そうとは限らない。バックアップ部隊があったから、そちらの人間という可能性もある。」
「ガンダムは何機あった? 」
「七機は確認されている。ただし、先に二機は破壊されたはずだ。残り五機についても、後で破壊されたらしい。それは未確認だがな。」
 ふーん、と、眠り姫は、空を見上げて、また倒れこむように草地に寝転んでいる。どこでも寝転けているから、別に驚きはしない。
「施設へ帰るぞ。」
「どうぞ。」
 半年前から、随分伸びた髪は、まるで女性のように、眠り姫を見せる。壊れているが、おもしろい、と、隊長は感想を言う。隊長が、眠り姫に固執する理由は、ガンダムという機体と結びつくからだ。起きるつもりは毛頭ない眠り姫を、クルマの後部座席に転がして、施設へ戻った。
「生きていたか? 私の眠り姫は。」
 施設に戻ったら、隊長が待っていた。
「今日は、まともでした。CSについて質問されました。」
「ああ、たまに興味が出るらしい。だが、眠り姫は、知識すら放棄しているらしくてな、私の説明には飽きてしまうんだ。」
 ガンダムの性能について説明しても、途中で寝てしまう、と、隊長は大笑いしている。成立しない会話を楽しめる隊長は、高尚なのか、それとも、ただ壊れた玩具を楽しんでいるのか、それすらよくわからない。




 いつものように、施設の外にあるベンチに座っていたら、ふいに人が近寄ってきた。だいたい、人の顔は覚えないから、誰だかわからない。制服姿の女性だった。何かを話かけられているのだが、意味がわからなくて困った。
「すまないが、俺は頭がイカレてるんで、難しい話はわからないんだ。まともな会話が、お望みなら、他を当たってくれ。」
 基地の人間は、俺がおかしいことはわかっているから、滅多に話かけてこない。新しく着任した人間だろうか、と、首を傾げた。
 何日かして、また、その女性は現れた。今度は、過去のことを質問してくる。
「だから、俺は、過去も何も、ここ一年くらいしか覚えていないんだよ。もし、あんたが、俺の知り合いだったとしても、今の俺にはわからないんだ。」
 ここ一年のことだって、あまり覚えてはいない。毎日、顔を合わせる相手ぐらいしか名前だって覚えていられないのだ。
・・・・過去?・・・・
 そこで、ひっかかったのは、過去のことだ。俺は、連合軍の人間ではないことは、はっきりしている。つまり、ここに知り合いはいないはずだ。
・・・・もし、俺の過去を知っているとしたら・・・・
 限りなく黒に近いと言われ続けた。その組織に所属していたのだとしたら、俺に接触してくるのは、同じ組織の人間だ。
「あんた、ソレスタルビーイングの人間か? 」
 女性の顔は、驚いた顔になって沈黙した。あー限りなく黒に近いじゃなくて、黒だったか、と、おかしくなった。
「いや、別にいいんだ。ただ、俺は、記憶が完全にないんで、以前の俺とは、まったく違うんだ。」
 違うというのもおかしい。以前、テロリストだったとしたら、どれほど、残酷なことをしていたのだろう。それすら、綺麗さっぱりと記憶から消えていて、半分くらいは死んでいるが、とりあえず生きている。なんだか、突拍子もない。
 それで、敵だったはずの相手に生かされているのだというのだから。何がどうなっているのか、自分でもおかしくて笑い転げた。
・・・・それで、なぜ、俺は生きてるんだろう・・・・・
作品名:ぐらにる 眠り姫2 作家名:篠義