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ぐらにる 眠り姫2

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 たぶん、味方だった相手を、目の前にしているのに、それすらわからない。一年ですっかりと覚えたのは、グラハムたちのほうだ。息苦しくて、ベンチから草地に横になった。激しい動きをすると、後で必ず眠りが訪れる。その度に、もう次はないほうがいいな、と、願っているのに、その願いは成就されない。
 



 
「たぶん、俺は黒だ。あんたは傷つけなかったかもしれないが、人は殺したらしい。」
 起こされて、彼に、女性との接触を報告した。どのみち、これ以上、何を聞かれても出て来ない。自分が覚えていないのだから。
「それで、きみは、どうしたい? 」
「あんたこそ、どうしたい? 俺をわざと連れて行かせれば、これで、全員を爆死させられて、敵の居所もわかるんじゃないのか? 」
 頚動脈付近に取り付けられている発信機と、小型の爆弾を、指し示して、俺は笑った。とんだ裏切り者だ。味方だったはずの人間を殺すことになる。
「私は、そんなことは望まない。また、ガンダムという機体が現れるなら、戦ってみたいだけだ。眠り姫を犠牲にして、そのマイスターを殺しては、私の楽しみがなくなる。」
「じゃあ、どうする? 」
「どうもしないさ。きみは、今まで通り、ここで暮らしていればいい。すでに、きみは、マイスターではない、私の眠り姫だ。戦う相手ではないからな。」
「その割に、何もしないけどな。」
「何かしたほうがいいのか? 眠り姫。」
「どうだろう? 」
 基地内の噂ぐらいは、俺でも知っている。俺が、彼の愛人だと思われている。だが、それは、本当に噂だけで、何もされたことはない。たまに、叩き起こされて、会話の相手をするぐらいのことだ。接触から、何日かして、頭がクリアーになって、ようやく報告できた。ここで保護されていることを、組織は、どう思うのだろう。また、同じように、いろいろとやられるなら面倒だとは思う。いや、今度は完全に死ねる自信はある。
「なんだか、顔色が青いぞ? 」
「たくさん考えたから疲れた。」
「そうか、それは悪いことをした。しばらく、うちの本部のほうにいればいい。さすがに、あそこは、関係者以外は立ち入れないからな。」
「なあ、グラハム。ひとつだけ頼みがある。」
「なんだ? 別に、ひとつと限定しなくてもいい。きみは、もっと甘えていいんだ。」
「いや、ひとつだけ。・・・・もし、俺が、あっちに攫われたら、爆破ボタンは、あんたが押してくれ。」
 もう一度、また、向こうに行けば、今度は、彼が敵になる。どちらのこともわかってしまったら、敵なんてものにならないだろう。それなら、さっさと終わらせてしまえばいい。生かしたのは、彼だから、終わりも、彼が決めればいいだろう。
「だから、攫われるような場所に行くな、と、私は言ってるんだがな、眠り姫。」
 俺の言葉に激怒したように怒鳴りながら、彼は立ち上がった。
「この基地の情報を、俺が持っていると思われていたら・・・・たぶん、来るだろう。」
「ははははは・・・・実際には、何も知らないのに。可哀想な眠り姫。」
 それから、俺を起こして抱き締めた。どうして、こんなことになったのか、人は生身なら戦わないのに、と、俺は考えて涙が零れた。
「・・・俺・・・その場で死んでいるべきだったな・・・・」
「私との出会いは不満か? 」
「そうじゃない、そうじゃないんだ。・・・・あんた、絶対に後悔するぞ。俺が敵だとわかって、それでも、ガンダムを破壊できるのか? 俺みたいなのが、あの中に入っているんだぞ? 」
 憎まれた覚えはない。たぶん、彼なりに大切にしてくれていただろう。だからこそ、怖いのだ。
「心配しなくても、私は戦える。きみは、本当に優しいな。いつも、そんなふうに思いやりに溢れていて、それが、私には癒しになる。たぶん、きみは、組織の要だったに違いない。それを奪ったんだから、私は、取り返されることは阻止するつもりだ。」
「バカなことを・・・・」
「しばらく眠っていればいい。」
「・・・そんな都合良く寝ていられるか・・・だいたい、俺は、週に一度くらいしか、まともじゃないんだぞ。」
「心配するな、きみのナイトは優秀だ。」
「・・・二度と起きないように寝かせてくれ・・・・」
「ダメだ。私から癒しを奪うのは、眠り姫でも許さない。」
 乱暴にソファに倒されて、クスリを飲まされた。睡眠薬だ、と、わかっていた。しばらく、それで眠っていろ、というのだろう。そんなことをしても無駄だ。世界規模で活動するテロ集団だというなら、ここから、俺を攫うことは簡単だろう。
「・・・なあ、グラハム・・・ボタン・・・・」
「ああ、その時が来たら、必ず。」
 いつものように、すとんと闇に落ちる眠りではなくて、ゆっくりゆっくりと闇色に染まっていく。








 よくこんな優しい性格で、あんな組織に所属していたものだと、私は息を吐いた。たぶん、認識票のない兵士について調べたのだろう。辿りつくまでに、時間はかかっているものの、それでも探していたということは、たぶん、眠り姫はマイスターだと推測できた。
・・・・・だが、スケープゴートにされるつもりはない・・・・・
 その事実を暴露されたら、眠り姫は、自分の罪もわからないままに処刑されるだろう。世界平和のためという名目で。だが、それは阻止する。ソレスタルビーイングが奪い返すというなら死守すればいいだけだ。
「それで? 僕に何用? 」
「発信機のレンジを広げられるか、ビリー?」
「それは問題ないね。元から追跡用に相当広いレンジをカバーしている。」
「では、きみに特別ミッションだ。」
「はあ? おいおい、僕まで拉致させるつもりかい? 」
「はははは・・・きみなんか拉致はしないだろう。こちらに有利な場所で拉致してもらうのさ。それには、基地の外がいい。・・・それから逆に、ヤツらを捕獲すればいい。」
「それは、あれだね、つまり、眠り姫が、ガンダムマイスターだという事実を無視するということだ。」
 物分りのいい友人は、的確に私の意図を掴んでいた。基地内に侵入されて攫われたら、隠しようがない。だから、外で攫っていただく。
「それで? きみは? グラハム。」
「ヘリを用意する。それから、CSのメンバーを見つけたと報告する。」
「ふーん、さしづめ、眠り姫は、きみを誘き出す餌? 」
「正解だ。」
 わざわざ、眠り姫を貰い受けてまで大切にしていることは、上層部も承知のことだ。ユニオンのトップエリートだから許される我侭であって、その噂は、かなり広範囲に広がっている。だからこそ、それを逆手に取る作戦にした。眠り姫は被害者だという認識を持たせれば、問題はないし、それで押し通すつもりだ。
「けど、きみの隊の人間には告げておいたほうがいいよ。」
「告げるさ。彼らは、眠り姫が無害だと理解しているからな。」
 何も思い出せない眠り姫のことは、当番制で確保に向かってくれている隊員たちには周知のことだ。他言するようなものはいない。
「明後日の午後に、僕が眠り姫と外出するわけだね? とりあえず、目的地は軍病院の診察という名目で。」
「きみにも、発信機をつけてもらうぞ、ビリー。」
作品名:ぐらにる 眠り姫2 作家名:篠義