こらぼでほすと 逆転4
「ナマケモノになれ。」 という、年上組の命令により、すっかり自堕落な生活を満喫していたロックオンの許へ、オーナーからの連絡が入った。
「お探しのお方をみつけました。」
頼んでから一ヶ月ちょっとで、見つかるとは早い、と、ロックオンは驚いたものの、自分が急いで欲しい、と、頼んだからだと考え直す。オーナーのことだから、世界中に関係者がいるのだろう。送られてきたデータは、相手が健在で、自分と同じような技能を身につけていることを、はっきりと顕していた。
「接触されますか? 」
「いや、今のところは、これで。ただ、どこにいるのか所在だけは突き止めておいてくれませんか? オーナー。いずれ、接触することにはなると思うんで。」
「わかりました。追跡調査させておきますね。」
「ありがとうございました。」
「礼には及びません。少しお顔の色がよくなられているのが、私には、お礼になります。」
かなり自堕落に過ごしているから、体重も少しずつ戻ってきている。筋力をつけるには至っていないが、どうにか、日常生活に支障の無い程度までは回復した。それなりに心配はされていたのだと思うと、苦笑いするしかない。自分より年下のオーナーですら、自分がおかしいことに気付いていたということだ。
「その方の写真には、びっくりしました。」
「似てますか? 」
「ええ、私には摺り変わられてもわからないと思います。」
「どうかなあ。俺も長いこと逢っていないから、外見は、ともかくとして中身は違うんじゃないかと思いますよ。」
「ほほほほ・・・それは、そうでしょうね。でも、何もおっしゃらずに、おふたりで並ばれたら、私にはわかりません。刹那なら、わかるかもしれませんね。」
そろそろ時間です、と、オーナーは、通信を切った。分単位の過密スケジュールをこなしている歌姫は、僅かの時間も貴重だ。データを、データチップへ取り込んで、それを手にした。まだ、どうなるのかわからないが、もしかしたら必要になるかもしれない。
「刹那にはわかるのかな。」
長いこと一緒に居たから、それなりの気持ちが通じている。あまり変化しない表情も、ロックオンには喜怒哀楽がわかるし、刹那だって似たようなものだ。こちらが、へらへらと笑っていても、何かしら思うことがある時は心配する。僅かの繋がりかもしれないが、区別がついたら嬉しい。
データチップは、シャツの胸ポケットに仕舞い、ラボの管理室に戻る。まだ、仕事らしい仕事はさせてもらえないが、とりあえず、半日ほど、ここで過ごすくらいは認められた。
「ママ、そこのデータを、MSの整備室へ渡してきてくれ。」
机に置かれている書類を、虎が、そちらを見ずに、そう指示する。今のところ、この程度の使いっぱしりが、せいぜいだ。
「他には、何か? 」
「もう、これといって用事は無い。上に上がれ。」
オーナーからの通信が入るから、午後からもラボに詰めていた。いつもは、午前中の二時間くらいが、手伝いの時間になっている。
「じゃあ、失礼します。」
書類を手にして、部屋を出る。整備室まで、徒歩五分という距離だ。そちらには、整備の関係者がいて、毎日、どれかのMSの整備をしている。そこへ書類を渡すと、そのまま地上へと戻った。
三十代以下組にも、見舞いが解禁されたから、毎日、誰かが顔を出す。地上へ上がって、庭へ出たところで、ハイネと顔を合わせた。
「生きてるか? チーママ。」
「何度も言うなよ、ハイネ。ちゃんと生きてるよ。」
「えらく残業してたんだな? 」
「いや、オーナーからの通信を待ってたんだ。・・・働かせてくれるわけないだろ? 」
「ああ、そうか。」
ハイネも、自分の機体の整備やヘリの整備をしているから、よく顔を合わせる。『吉祥富貴』の正社員というのは、どちらの仕事もしているから、それなりに忙しい。バイトたちでも、ここにMSがあるものは、週に一度は、こちらに顔を出している。だから、クラブのほうに全員が揃っているというのは、あまりないのだと、ようやく、そのからくりがわかってきた。店は、儲けるためにあるのではなくて、オーナーがゆっくりとキラと話すためにあるから、そちらの体裁が整っていれば、それでいいらしい。会員制で、他の顧客もいることはいるが、それだって、大金を湯水のように使わせるような営業はしていない。未成年の顧客だっている。最低限の支払いさえしてくれれば、のんびりと、ホストたちと会話を楽しむ程度だ。
「うちの店な、表向きは、あそこの正社員だけどさ。大半は、こっちの仕事もしてるんだ。だから、給料が、歩合制じゃないんだよ。」
その辺りのシステムもハイネが説明してくれた。俺、元スパイだから詳しいぜ? と、冗談交じりに素性までバラしてくれた時には笑った。優秀な元軍人たちが多いから、いろいろと頼まれることもあって、そちらへ出向くこともあるらしい。鷹のバイトというのも、そういうものだった。
「今日は向こうの仕事もあるんだろ? 」
「そりゃ、オーナーは、それほど優しくないぜ。こっちからとんぼ返りで、夜のお仕事だ。」
「俺を待ってたって、何か用事か? 」
「いや、これといってはないさ。生きてるか確認しとかないと気になるだけだ。」
「しつこい性格だな。」
「おまえが悪いんだろ? 」
ぶらぶらと庭を散策して、それから、ハイネは部屋までついてくる。ちゃんと昼寝しているところまで見ないと、納得できない、と、毎回、ベッドまで同行するのがおかしい。毎日、誰かが、そうやってベッドに横になるのを確認しにくるのだ。
ラボも一応、週末は稼動していない。何かあれば召集されるらしいが、それほど急ぎがない場合は、ひとりかふたり、残っているだけだ。虎は、家のほうへ帰るのだが、どういうわけか、鷹は、そのまんま、ロックオンの部屋に暮らしている。つれあいが、仕事で何ヶ月か出張しているから、帰る必要がないと言う。
「で、野郎ふたりでさ、日曜の午後に、くだらない映画観てるっていうのは、どーなんだ? 」
「別に、平和でいいんじゃないか? 」
これといってやることもないから、市販ディスク映画の鑑賞なんてことになっている。ふたりして、ソファに寝転がって、ぐだぐだと文句を吐きつつ過ごしているわけで、ある意味、不毛だ。鷹は非常に自堕落が似合う男で、休みには本当に何もしないで、だらだらしている。今日なんて、パジャマのまんまだ。対して、ロックオンのほうも、どうせ、昼寝するつもりだったから、パジャマで過ごしている。
だらだらと、卓を挟んだソファに寝転んでいるので、どっちもどっちの状態だ。昔のSFなんものは、かなりだるい類の映画で、大しておもしろいものではない。画面の背景に広がっている宇宙空間に眼を留めて、「刹那、ちゃんとしているかな。」 と、そんなことを考えていた。ただ、それは内心で呟いていたつもりだったが、声に出していたらしい。
「泣いてるんじゃないのか? せつニャン。ママが恋しいとかさ。」
「あんたさ、刹那の年齢を間違って記憶してないか? あいつ、十七だぞ? 」
「でも、あっちへ行く時も、すごい顔してたぞ? 」
「仕事になれば、しっかりしてるんだよ。あいつ、自分がやることは、よくわかってるから・・・」
「お探しのお方をみつけました。」
頼んでから一ヶ月ちょっとで、見つかるとは早い、と、ロックオンは驚いたものの、自分が急いで欲しい、と、頼んだからだと考え直す。オーナーのことだから、世界中に関係者がいるのだろう。送られてきたデータは、相手が健在で、自分と同じような技能を身につけていることを、はっきりと顕していた。
「接触されますか? 」
「いや、今のところは、これで。ただ、どこにいるのか所在だけは突き止めておいてくれませんか? オーナー。いずれ、接触することにはなると思うんで。」
「わかりました。追跡調査させておきますね。」
「ありがとうございました。」
「礼には及びません。少しお顔の色がよくなられているのが、私には、お礼になります。」
かなり自堕落に過ごしているから、体重も少しずつ戻ってきている。筋力をつけるには至っていないが、どうにか、日常生活に支障の無い程度までは回復した。それなりに心配はされていたのだと思うと、苦笑いするしかない。自分より年下のオーナーですら、自分がおかしいことに気付いていたということだ。
「その方の写真には、びっくりしました。」
「似てますか? 」
「ええ、私には摺り変わられてもわからないと思います。」
「どうかなあ。俺も長いこと逢っていないから、外見は、ともかくとして中身は違うんじゃないかと思いますよ。」
「ほほほほ・・・それは、そうでしょうね。でも、何もおっしゃらずに、おふたりで並ばれたら、私にはわかりません。刹那なら、わかるかもしれませんね。」
そろそろ時間です、と、オーナーは、通信を切った。分単位の過密スケジュールをこなしている歌姫は、僅かの時間も貴重だ。データを、データチップへ取り込んで、それを手にした。まだ、どうなるのかわからないが、もしかしたら必要になるかもしれない。
「刹那にはわかるのかな。」
長いこと一緒に居たから、それなりの気持ちが通じている。あまり変化しない表情も、ロックオンには喜怒哀楽がわかるし、刹那だって似たようなものだ。こちらが、へらへらと笑っていても、何かしら思うことがある時は心配する。僅かの繋がりかもしれないが、区別がついたら嬉しい。
データチップは、シャツの胸ポケットに仕舞い、ラボの管理室に戻る。まだ、仕事らしい仕事はさせてもらえないが、とりあえず、半日ほど、ここで過ごすくらいは認められた。
「ママ、そこのデータを、MSの整備室へ渡してきてくれ。」
机に置かれている書類を、虎が、そちらを見ずに、そう指示する。今のところ、この程度の使いっぱしりが、せいぜいだ。
「他には、何か? 」
「もう、これといって用事は無い。上に上がれ。」
オーナーからの通信が入るから、午後からもラボに詰めていた。いつもは、午前中の二時間くらいが、手伝いの時間になっている。
「じゃあ、失礼します。」
書類を手にして、部屋を出る。整備室まで、徒歩五分という距離だ。そちらには、整備の関係者がいて、毎日、どれかのMSの整備をしている。そこへ書類を渡すと、そのまま地上へと戻った。
三十代以下組にも、見舞いが解禁されたから、毎日、誰かが顔を出す。地上へ上がって、庭へ出たところで、ハイネと顔を合わせた。
「生きてるか? チーママ。」
「何度も言うなよ、ハイネ。ちゃんと生きてるよ。」
「えらく残業してたんだな? 」
「いや、オーナーからの通信を待ってたんだ。・・・働かせてくれるわけないだろ? 」
「ああ、そうか。」
ハイネも、自分の機体の整備やヘリの整備をしているから、よく顔を合わせる。『吉祥富貴』の正社員というのは、どちらの仕事もしているから、それなりに忙しい。バイトたちでも、ここにMSがあるものは、週に一度は、こちらに顔を出している。だから、クラブのほうに全員が揃っているというのは、あまりないのだと、ようやく、そのからくりがわかってきた。店は、儲けるためにあるのではなくて、オーナーがゆっくりとキラと話すためにあるから、そちらの体裁が整っていれば、それでいいらしい。会員制で、他の顧客もいることはいるが、それだって、大金を湯水のように使わせるような営業はしていない。未成年の顧客だっている。最低限の支払いさえしてくれれば、のんびりと、ホストたちと会話を楽しむ程度だ。
「うちの店な、表向きは、あそこの正社員だけどさ。大半は、こっちの仕事もしてるんだ。だから、給料が、歩合制じゃないんだよ。」
その辺りのシステムもハイネが説明してくれた。俺、元スパイだから詳しいぜ? と、冗談交じりに素性までバラしてくれた時には笑った。優秀な元軍人たちが多いから、いろいろと頼まれることもあって、そちらへ出向くこともあるらしい。鷹のバイトというのも、そういうものだった。
「今日は向こうの仕事もあるんだろ? 」
「そりゃ、オーナーは、それほど優しくないぜ。こっちからとんぼ返りで、夜のお仕事だ。」
「俺を待ってたって、何か用事か? 」
「いや、これといってはないさ。生きてるか確認しとかないと気になるだけだ。」
「しつこい性格だな。」
「おまえが悪いんだろ? 」
ぶらぶらと庭を散策して、それから、ハイネは部屋までついてくる。ちゃんと昼寝しているところまで見ないと、納得できない、と、毎回、ベッドまで同行するのがおかしい。毎日、誰かが、そうやってベッドに横になるのを確認しにくるのだ。
ラボも一応、週末は稼動していない。何かあれば召集されるらしいが、それほど急ぎがない場合は、ひとりかふたり、残っているだけだ。虎は、家のほうへ帰るのだが、どういうわけか、鷹は、そのまんま、ロックオンの部屋に暮らしている。つれあいが、仕事で何ヶ月か出張しているから、帰る必要がないと言う。
「で、野郎ふたりでさ、日曜の午後に、くだらない映画観てるっていうのは、どーなんだ? 」
「別に、平和でいいんじゃないか? 」
これといってやることもないから、市販ディスク映画の鑑賞なんてことになっている。ふたりして、ソファに寝転がって、ぐだぐだと文句を吐きつつ過ごしているわけで、ある意味、不毛だ。鷹は非常に自堕落が似合う男で、休みには本当に何もしないで、だらだらしている。今日なんて、パジャマのまんまだ。対して、ロックオンのほうも、どうせ、昼寝するつもりだったから、パジャマで過ごしている。
だらだらと、卓を挟んだソファに寝転んでいるので、どっちもどっちの状態だ。昔のSFなんものは、かなりだるい類の映画で、大しておもしろいものではない。画面の背景に広がっている宇宙空間に眼を留めて、「刹那、ちゃんとしているかな。」 と、そんなことを考えていた。ただ、それは内心で呟いていたつもりだったが、声に出していたらしい。
「泣いてるんじゃないのか? せつニャン。ママが恋しいとかさ。」
「あんたさ、刹那の年齢を間違って記憶してないか? あいつ、十七だぞ? 」
「でも、あっちへ行く時も、すごい顔してたぞ? 」
「仕事になれば、しっかりしてるんだよ。あいつ、自分がやることは、よくわかってるから・・・」
作品名:こらぼでほすと 逆転4 作家名:篠義