こらぼでほすと 逆転4
自分から見たって、まだ子供の刹那は、いろいろと考えることもあるんだろうな、と、思う。まっすぐに、目的に向かって突き進む潔さは、惚れ惚れするほどだが、それしか知らないなんていうのが、ロックオンには悲しい事実でもある。
「心配しなくても大丈夫だ。あっちの情報は、こっちでも抑えてある。みんな、元気にしてる。」
はいはい、沈まない、沈まない、と、鷹が傍に近寄ってきて、肩を軽く叩く。毛布をかけられていることに気付いて起き上がった。
「いつのまに・・・」
「これぐらいできないと。俺、皆様に愛されているホストだから。」
「うわぁー嘘くせぇー。」
「ママは素直じゃないよなー、もう、ちょっと素直になろうよ。今、一瞬ときめいただろ? 」
「ときめかないよ、てか、俺はノンケだって言ってんだろーがっっ。」
ジタバタと暴れて、バタンとソファに倒れこむ。そのまま、鷹が、毛布を肩までかけてくるのが、ほんと、あざとらしい。
「暴れない、暴れない。・・・あのな、せつニャンは、これから、どんどん、いろんなことを吸収していくから、そんなに心配しなくてもいいんだよ。考えてみろよ、俺やおまえさんが十七くらいの頃だってさ、世界なんて意識してなかっただろ? 自分の考えを正しいと信じてるぐらいしかできなかったはずだ。まあ、子猫ちゃんは、普通の十七よりは経験豊富ではあるだろうけどさ。」
「・・そうなんだけど・・・」
「おまえさんだって、俺の年になる頃には、また違った考えを身につけているぜ? だから、今は、ナマケモノに徹して身体を休ませろ。」
「・・ああ・・・」
この回復の遅さが、歯痒いのだが、こればっかりは即座に、どうにかなるものでもない。だから、年上組は、遥か先のことでなく、今の状況を、どうにかすることを考えろ、と、諭すのだ。随分と自堕落には慣れたつもりだが、他のマイスターたちのことを考えると、つい、動きたくなってしまう。
「寝るなら、ベッドへ運んでやろうか? 」
「いや、まだ眠くない。」
「映画わかんなくなっちまったな。スポーツでも観るか。」
チャンネルを変えて、サッカーの番組にされる。ぼんやりと、それを眺めているうちに、うとうとしてくる。ほら、寝るんじゃないか、と、鷹は笑っている。
「ロックオンっっ。」
バタンッッと大きな音がして、びっくりして目を開けたら、ティエリアが仁王立ちで立っていた。え? と、起き上がろうとしたら、鷹の腕が肩の辺りにあって動けない。あの騒音でも鷹は寝ていて、自分の肩の辺りに腕を置いた状態で凭れて、そのまま、寝ているのだ。
「あっあなたは・・・とうとう、鷹に・・・・」
「いや、ティエリア? ちょっちょっと待て。おまえ、ものすごい勘違いしてるってっっ。」
というか、こいつ、これで起きないって、すげぇーぞ、と、それにも驚きつつ、鷹の腕を振りほどいて起き上がった。すかさず、刹那がやってきて、げいんと鷹の腹に蹴りをいれて、自分が、その間に割って入った。
「同意の上か? 」
「せっ刹那さん? 」
「同意の上なら邪魔はしない。」
「いや、おまえ、今、目一杯蹴ったぞ? ・・・鷹さん、大丈夫か? 」
うぐっと声がしていたが、さらに、うごっという声がしたので、そちらに目をやると、ハレルヤが、爽やかに笑いつつ、鷹の背中に足を置いている。
「やられたのか? じじい。」
「おまえもかっっ、ハレルヤ。違うってっっ。何にもないし、同意とかないからっっ。」
ただ昼寝していただけだ、と、説明しようとしたら、前からティエリアに力一杯激突されて息が詰まった。
「あなたを守ると言ったのに・・・こんなことに・・・俺は、僕は、私は・・・・自分を万死に値する存在として殲滅しなければ・・・・」
「・・・ティティエリア?・・・・げほげほ・・痛い・・・」
「大丈夫です、ロックオン。・・・こういうのは、野良犬に噛まれるというらしいです。」
なんか微妙に喩えが間違っているが、それどころではない。ハレルヤが本気で、鷹に暴力を奮ったら、さすがに怪我する。
「ハレルヤ、やめろ。何にもやられてない。ティエリア、息苦しいから腕、緩めてくれ。刹那、ティエリアを引き剥がしてくれ。」
いきなり現れて騒いでくれるから、再会の感動とか、そんなものは一切無い。えふえふと咳をしながら、いつものように指示を出すと、その通りに、他のマイスターたちは動く。刹那が多少、過激にティエリアを引き剥がしたが、その問題も後回しだ。床にひしゃげている鷹に近寄って、起したら、やれやれと苦笑して頭を掻いた。
「おまえら、具合のよくないママを、こんなに慌てさせてどーするつもりだ? 」
いや、原因は、おまえだ、と、ロックオン以外は睨んでいる。まだ戦闘モード全開だ。刹那とティエリアは、ふしゃあーと威嚇している。
「いや、怪我は? 鷹さん。」
「あれぐらいで怪我はしないな。・・・おまえさんこそ、大丈夫か? 」
「・・え・・あ・・・」
最近、急激な動作を控えていたから、うっかりしていたが、クラクラと眩暈がして、ちょっと身体が揺れている。
「ほら、言わんこっちゃない。・・・アレハレルヤ、ママをベッドへ運べ。それから、落ち着いたら、『ただいま』ぐらいは言えよ。」
で、まあ、寝室のほうも、となりのベッドに鷹の私物が転がっているわけで、三人の顔色が変化する。それをおかしそうに眺めつつ、「誤解するなよ。ママの具合が悪いから、付き添いが、ここで寝てたんだ。」 と、ちゃんと説明した。具合が悪い理由も、ちゃんと話すと、三人は、それ以降、鷹は眼中から外した。
横になって落ち着いたロックオンが、「おかえり。」 と、声をかけると、三人も、傍に近寄る。
「ただいま、ロックオン。」
「ただいま。」
「ただいま。」
「はい、おかえり。・・・すまないな、こんなみっともない格好で。ちょっと体調を崩してさ。」
「それは、ラクス様から連絡を貰った。それで、一端、引き上げてきたんだよ。・・・だから、無理しないでね、って、僕、言ったよね? 」
アレルヤが代表するように、ロックオンを非難の目で睨む。ティエリアも、ものすごい顔をしているし、刹那も、同様だ。
「うん、言われてたんだけど、ちょっと無理してたらしい。・・・あのな、俺、まだ治療ができないから、おまえらと一緒には行けないみたいなんだ。そのうち、治るんだが、それにしたって年単位で時間がかかる。悪いが、しばらく、リタイヤだ。」
あの時、言えなかったことが、すらりと言えた。終わりではない、と、トダカに言われた。同じ場所に、今は行けないが、こちらでできることはあるのだと気付いたからだ。三人から怒鳴られるのかと思ったら、「まったく。」 と、ティエリアがメガネの弦を持ち上げて、溜息を吐き出した。
「あなたの健康管理をしていた俺が、それに気付いていないと思ってたんですか? 」
「え? 」
「あなたのカルテをドクターに見せていただいて、ちゃんと、現状は把握しています。だから、大人しくしていろ、と、俺は言ったはずですが? 」
「知ってたのか。」
作品名:こらぼでほすと 逆転4 作家名:篠義